毒りんごをよこせ!
ミロスラフがベッドで目を覚ますと、時計は九時を指していた。
ソファには赤ずきんがいて、新聞を読んでいた。
「いよぉ、おはようさん、
もう身支度は終わったよな?」
「えぇ、全て終わりましたよ、
いつでも出発できます」
「ラプンツェルはどうした?」
赤ずきんが風呂場を指差した。
かすかながらシャワーの音が聞こえてきた。
「またオレがビリかよ、みんな朝が早いよな」
「そんなことはないわ」
風呂場からラプンツェルが出てきた。
「あなたが遅いだけじゃなくって?」
「ほっとけよ」
シャワーを済ませ、食事を取りホテルをチェックアウトした。
そこから近くの駅まで歩き、そこから列車に乗った。
「私の情報によると白い勇気の指輪を手に入れるには
白雪姫を目覚めさせなくてはいけないそうよ」
ラプンツェルが黄色い勇気の指輪をスカートから取り出し、
ミロスラフに手渡した。
「あと二つね」
白雪姫がいるという町で列車を降りた。
するとどこからともなくハチが飛んできた。
そしてミロスラフだけを刺すと、飛んでいってしまった。
「畜生、何でオレだけが!」
「あなた大変よ、そのハチには猛毒があるの」
ラプンツェルが少し笑いながら言う。
「おいおい、何で笑っているんだ?」
「あなたの運の悪さ、かわいそうだと思ってね、
そのハチが持つ毒はかなりの猛毒でね、
一時間ほどで死に至ってしまうそうなのよ、
治療法も一つしかないの」
「おいおい、そんなのないぜ」
「でも、毒をもって毒を制すという言葉があるわ、
実はある魔女が独自に開発した毒成分である
コルテスという毒がその毒の効果を唯一無くすの」
赤ずきんが少し心配そうに尋ねる。
「そのコルテスはどこにあるんですか?」
「確か白雪姫が食べた毒りんごに含まれているそうよ」
ミロスラフは二人の会話を聴いてはいなかった。
今度こそ本当に死んでしまう、その恐怖で頭はいっぱいだった。
すると目の前に、大きな病院を見つけた。
「あそこなら薬があるはずだ!」
ミロスラフは病院へ走った。
病院内を走るミロスラフ。
「ちょっと、走ったら危ないですよ」
そういいながら走ってミロスラフを追う赤ずきん。
病院内の薬局へとミロスラフは駆け込んだ。
「コル……何とかって薬探しているんだが……」
若い薬剤師が漫画雑誌を読みながら対応する。
「コルテスですか?」
「それだ!」
「お売りできませんね」
「何で?」
「使用目的が不明な場合そのような危険物はお売りできません、
忙しいのでお引取りを」
薬剤師があっちいけのジェスチャーをする。
ミロスラフが薬局を離れると、薬剤師は再び漫画を読み始めた。
「クソォ、何で売ってくれねぇんだ」
ミロスラフがとぼとぼと帰ろうとする。
「理由が不明確だからですよ」
赤ずきんがフォローする。
「ちょっとあんたら、どいてくれ!
急患が通るぞ」
後ろから声がするので、二人は右に寄った。
後ろからやけに背の低い七人の医者が
美しい女性の載った担架を必死に担ぎながら走り抜ける。
「おい、あれってまさか……」
「白雪姫だと思いますが……」
ミロスラフが赤ずきんのかばんからショットガンを取り出すと、
担架を追って走り出した。
「ちょっと、どこ行くんですか?」
「あいつらなら毒りんご持ってる!」
赤ずきんは立ちすくんでしまった。
担架の一番後ろを担ぐ小人に追いつくと、
ミロスラフは小人を狙ってショットガンを構えた。
「先生よぉ、医者の仕事は死に掛けの人間を助けることだよな?」
「あ、あぁ……」
「オレは今死に掛けているんだ、毒りんごをよこせ!」
「な、何だと?」
医者が聞き返す。
「俺に毒りんごをよこせって行ってんだよ!」
ミロスラフが怒鳴りつける。
「ま、待っておくれよ、
あんたは死に掛けているのに何故毒りんごがいるんだ?」
「いいから頼む、どこにあるんだ?」
「彼女の倒れていた現場にはもうなかったよ」
「クソッ、どうすりゃいい?」
そこでミロスラフは思い出した。
白雪姫は王子様のキスでりんごを吐き出し目を覚ました。
「おい、担架止めろ」
小人達が担架を止めた。
近くには待合室があり、たくさんの人がいた。
ミロスラフは天井に銃を向け、こう叫んだ。
「今からこの白雪姫とキスをする王子様を探す!
我こそが王子様というやつは出てこい!」
「じゃあオレがキスをするよ」
太った醜い男が出てきた。
「てめぇは下がってろ!豚はお呼びじゃねぇ!」
ミロスラフは男を罵った。
ミロスラフが辺りを見回すと、
一人のハンサムな少年を見つけた。
ミロスラフは少年に近づくと、こう聞いた。
「お前、ガールフレンドいるか?」
「いないけど……」
「よし、じゃあこの白雪姫がお前のガールフレンドだ
愛のキスをしてやりな」
少年を白雪姫の近くに連れて行く。
少年は戸惑いつつ、白雪姫とキスをした。
すると、白雪姫は目を覚まし、りんごを吐き出した。
床に落ちたりんごの破片を拾うと、
ミロスラフはそれを食べた。
それまでの苦しみが噓のように楽になった。
毒は中和されたのだ。
「ちょっとやだ、何しているのあなた……」
白雪姫が軽蔑の目でミロスラフに話しかけた。
ミロスラフに追いついた赤ずきんやラプンツェル、
王子様や小人達全員が
全員、同じような目でミロスラフを見つめる。
「あのー、オレ助かったんだけど……
何だろう、このバッドエンド感は……」
ミロスラフは助かった気がしなかった。