ラプンツェルの館
「なぁ、まだラプンツェルの館にはまだ着かないのか?
もう五時間も走ってるぜ」
「もうすぐ着きますよ」
車内の時計はもう八時になっていた。
あたりは街頭しかなく、とても暗い。
「もうガソリンが切れそうだ、
ばあさんからお小遣いを結構もらったよな?」
「ガソリン代に使うんですか?」
「いや、晩飯も買っていく」
ルノーがガソリンスタンドに着いた。
「トイレに行っておけよ」
ミロスラフは車を降りながら赤ずきんにいう。
「子供じゃないんです、
分かっています」
少し不機嫌そうに赤ずきんは答えた。
「あぁそうだった、
お前本当はオレのお袋より年う……」
ミロスラフの顔にコーラの空き缶が当たった。
「オ、オレが悪かった」
赤ずきんがスタンド内の売店から戻ってきた。
ミロスラフはまだ給油をしていた。
「あぁそうだ、晩飯買うんだったろ」
ミロスラフは財布からお札を取り出すと、赤ずきんに渡した。
「オレはメロンサイダーとツナサラダサンドイッチ頼む、
お前はお釣りで好きなもの買えよ」
「私が買いに行けということですか?」
赤ずきんが軽蔑の目でミロスラフを見た。
「あぁそう、ラッキーストライクもな」
「私は15歳ですよ、そんなもの買えません」
「はぁ、しょうがないなぁ
もうすぐ給油終わるから一緒に行こう、
だからそんな目はやめろ」
「はい、分かりました」
赤ずきんはにっこりと微笑んだ。
「あぁ、幸せだなぁ」
板チョコを頬張りながら赤ずきんは満面の笑みで
ミロスラフに問いかけた。
「でもよ、お前の今日の晩飯は何だった?」
「サンドイッチ三つにピザ二枚、
でも今日は少ないほうですよ」
「オレの今日の夕飯はチョコバー一本だけだったよ、
何でか分かるか?」
「今日はおなか空いていないんですか?」
「いいや、お前がおやつを買いすぎたせいだ!」
確かにトランクには大量のスナック菓子が入っている。
「男の子は女の子の言うことを聞くのが常識だと
ママは言っていました」
「いいや、お前は売店で俺の頭の後ろに
ショットガンを突きつけていたよな!
あれは脅迫だぞ」
「私のパパはよく職場で女の子の言うことを聞いて
お菓子を買いに行っていたそうです」
「お前の親父はパシられてんだよ!」
ガソリンスタンドを出て十五分ほど走っていると、
山の入り口に「ラプンツェルの館」という
大きな看板が見えてきた。
「なぁ、ラプンツェルの館は観光地なのか?」
「いいえ、そんなわけではないはずなのですが……」
山のふもとに駐車場があった。
「ここから歩いて行けってか?」
「そうですよ」
二人は車を降りると、山へ入っていった。
すると大きな門があり、そこには看板が立っていた。
「えーっと、本日はラプンツェルの館へお越し頂き
誠にありがとうございます
誠に勝手ながら、本日の営業時間は終了いたしました
またお越しください」
赤ずきんが看板を読んだ。
「おいおい、こんな遊園地みたいなところなのか?」
「もうラプンツェルは寝てしまったんでしょう、
また明日出直しましょう」
「おいおい、ここまで遠かったのに……」
ラプンツェルの館の近くには
一軒の大きなホテルがあった。
その名も、ホテル・ラプンツェル。
ホテルの202号室にミロスラフと赤ずきんは宿泊していた。
「随分とでかい部屋だよな」
風呂上りのミロスラフがローブ姿で風呂場から出てきた。
「これもラプンツェルを見に来る人たちのおかげです」
ベッドに寝転がりながら、赤ずきんが答える。
「お前はそろそろ寝ないのか?
もう十時だ、良い子は寝る時間だ」
「いやらしいことを考えているのなら無駄ですよ、
私、まだ未成年ですし」
「いや、そうじゃなくて……
もう眠いんじゃないかなと思ってさ」
「お風呂に入ったらもう寝ます」
「あ、そうかい……
オレもう寝るよ、おやすみ」
「おやすみなさい」
赤ずきんが風呂場へと消えていく。
明日こそはラプンツェルの館へ行く、
そんな決意を胸にミロスラフは眠りについた。