狼退治
ドアを開け、ミロスラフたちは二階へと上がった。
「ここがおばあさんの寝室です」
赤ずきんはミロスラフにショットガンを渡す。
「おい、これ本物だよな?」
「えぇ、そうですよ
それがどうしたんです?」
「いや、やっぱり怖いよオレ、
ピストルなんて撃ったことないんだから」
「それじゃいつまでも帰れなくなりますよ」
「うぅ……」
寝室のドアを赤ずきんがゆっくりと開ける。
おばあさんはベッドで眠っており、その横では
狼がおばあさんを襲おうとしていた。
「動くな! ばあさんに手を出すなよ、
両手をゆっくり挙げろ」
「面白い、オレを撃つ気か?」
狼は余裕の笑みを見せている。
「これは実弾が出るショットガンだ、
ハッタリじゃないぜ、オレは気が短いんだ」
「随分と震えているじゃないか、
銃器の扱いには慣れていないようだな」
「うるさい! 今すぐここから出て行け!
命だけは助けてやるから」
狼は全く怖気づく様子はない。
赤ずきんは何も言わず見守っている。
「お前はおそらくオレを倒して勇気の指輪を
手に入れる気なんだろう?
だが今のお前には勇気なんてないじゃないか」
その言葉はミロスラフにズシリとのしかかった。
しかしいつまでもこうしているわけには行かない。
「チクショォォォ!」
おばあさんの家に銃声がとどろいた。
おばあさんの枕元に置かれていた壷が粉々になっている。
「え……噓でしょ……
何でそこを狙ったの?」
赤ずきんは自分の目を疑った。
何故狼ではなく壷を撃ったのか?
ミロスラフの心理が赤ずきんには分からなかった。
ミロスラフの顔は汗だくだった。
その様子を見た狼は大笑いした。
「ははは、オレの負けだ、
まさか引き金を引くなんて思わなかったよ、
引き金を引いたのはお前が始めてさ」
そういうと狼は二階の窓から飛び降りると、
裏庭へ着地すると、森へと走り去って言った。
「す……すごい……
狼に勝ったなんて……」
赤ずきんは目の前の光景を信じられなかった。
狼に勝ったのはミロスラフが初めてだったからだ。
「オ、オレの勝ちなのか?」
「ええ、あなたの勝ちですよ」
「や、やった!」
ミロスラフはショットガンを床に落とすと、
右のこぶしを天高く突き上げた。
「し、しかし、何故あなたは
狼を狙わなかったのです?」
「オレは臆病者なんかじゃないってことを
証明したかったんだ、
奴の命が狙いだったわけじゃない」
「そ、そうですか……」
おばあさんが目を覚ました。
「あら、赤ずきんちゃん久しぶりね、
ところでお隣の方は?」
「ミロスラフ・グレーフェンベルクだ」
「へぇ、ミロスラフさんですか」
「あぁ、お前にもまだ名前を教えていなかったな」
結局その日、ミロスラフと赤ずきんは
おばあさんの家へ泊った。
おばあさんに沸かしてもらった風呂が
とてつもなく気持ちよかった。
風呂の後の夕食の席で、おばあさんは語った。
「ところでミロスラフさん、あなたはラプンツェルの話は
知っているかしら?」
「あぁ」
「彼女が三つ目の勇気の指輪を持っているそうよ」
「そうか、ありがとう」
翌日、ルノー・4の運転席にはミロスラフが座っていた。
リアシートには赤ずきんが座っている。
「おばあさん、ごめんなさい、
車までもらっちゃって……」
「いいの、もう半年も乗ってないんだから」
おばあさんがポケットから指輪を取り出した。
「はいミロスラフさん、これが青い勇気の指輪ですよ」
「これが青い勇気の指輪か……」
「そして赤ずきんちゃん、これが赤い勇気の指輪よ」
「ありがとうございます」
「それじゃ世話になったよ」
「道中、気をつけてくださいね」
「任せてよ」
ルノー・4が走り出した。
「さて、ラプンツェルの所へ行こう」
ミロスラフは呟いた。