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グリムな世界

「カ、カルステンだ……

あの時脱走しようとしていたアイツが……

ど、どういうことだ?」

「わたしが閉じ込めたのよ」

オクタヴィアンが再び微笑む。

「冗談はやめろよ」

ミロスラフの口調が強くなる。

「冗談ではないわ、私はここブレーメンに何千年も

生きる魔女ですもの」

オクタヴィアンのその目は、冗談を言っているときの目ではなかった。


「あなたのような厄介者がいることはこの町には

いいこととは思えないの、だからこれからあなたにも

彼と同じ目にあってもらうわ」

「い……いやだ……」

ミロスラフの体が震えている。

このような恐怖を感じたことは一度もない。

汗は噴きだし、今にも泣きそうな気持ちだった。

「嫌ならいいのよ、ただそうすれば

パトリシアがどうなるか分からないけど……」


「パトリシアには手を出すな! 頼む!」

「男らしい一面もあるじゃない」

オクタヴィアンはミロスラフを少し見直したかのように思えたが、

それでも彼を許す気ではなかった。


ミロスラフの胸ぐらをつかみながら

オクタヴィアンは高笑いしながら言う。

「あなたに一つチャンスをあげるわ、

グリムの世界にある選ばれたものにしか与えられない

五つの勇気の指輪を手に入れることが出来れば

ここに戻ってこれるかもしれないわよ」

オクタヴィアンが指を鳴らした。

「うわぁぁぁ」

ミロスラフの絶叫がオフィスに轟いた。


「うぅ……ここは……」

ミロスラフが目を覚ますと、そこは深い森だった。

遠くからは狼の遠吠えが聞こえ、近くには見たこともないような色の

きのこが生えている。

そのとき、草むらからガサガサという音が聞こえた。

「お、狼か?」

今、ミロスラフの手元には何も持っていない。

もし狼ならば、ミロスラフは屍となってしまうだろう。

ミロスラフは立ちすくんだ。


「ごめんなさーい、驚かせちゃった?」

草むらから出てきたのは、15歳くらいの少女だった。

赤毛に青い瞳、かわいらしい花のアップリケのついた

ワンピースに甘い猫のような声。

そして頭には赤いずきん。

ミロスラフはかつて子供の頃に彼女にそっくりな少女を

絵本で見たことがあった。

「お、お前ってまさか赤ずきんか?」

「そ、そうだけど……」


ミロスラフはここでやっと自覚した。

ここがグリムの世界だということに気づくのに

時間はかからなかった。

「噓だろ……

なんてこった……」

絶望が襲い掛かった。

もうブレーメンに戻れなくなってしまった。

もうクラウンには乗れない。

もうアニメは見られない。

もうパトリシアに会えない。

そんな絶望がミロスラフの心を

埋め尽くしていった。


「あの、おばあさんの家まで着いていってもらえませんか?」

赤ずきんは頭を下げて頼んだ。

「それどころじゃねぇよ」

蚊が鳴くような声でミロスラフはつぶやいた。

「もし無事におばあさんの家に着いたら、

青い勇気の指輪を差し上げます」

赤ずきんが声を掛けた。


「な、何故そのことを知ってるんだ?」

「あなたはこのグリムな世界へ堕とされてしまった

不幸なお方でしょ?

勇気の指輪を五つ集めれば戻れるはず」

どうやら赤ずきんはミロスラフのような運命の者を

多く見てきたのだろう。


「分かった、行こう」

ミロスラフは赤ずきんに声を掛けた。

「何が何でもブレーメンへ帰ってやる」

ミロスラフの戦いが始まった。


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