『真似事』
初めて投稿させて頂きます。
今回の作品は非常に短編のモノになりますが、
読んで頂けたら、感想・アドバイス等宜しくお願い致します。
自室に青年が一人でいる。
今日は木曜日であり、休日でも、また体調が悪い訳でもない。
自分の部屋を出るのは、トイレ・風呂・食事、または本屋かコンビニに行く時ぐらいだ。
そんな日々を過ごしている。
「ご飯よ!!」
一階から、母親の声が聞こえてくる。
その声により、浅い眠りの世界から、意識の半分を現実世界に呼び戻された。
「七時半か・・」
青年はベッドから手を伸ばし、アラーム式の時計を見る。しかしベッドから出る事なく、身体を反対側に寝返らせ、顔を壁の方に向けて、虚ろな目を再び閉じた。青年にとっては壁が目の前にある方が落ち着く・・
「彰!ご飯!!いいかげん起きなさい!!」
気が付けば、母親が部屋の明かりを付けて、そばに立っていた。
食欲はあまりなく、まだ寝ていたいという気持ちが強かったが、仕方なく食事をしに行った。
足早に食事を済ませ、自室に戻りテレビを付けてみる。
「ランナー二塁三塁!ツーアウト!バッター阿部!! ここで、阿部がランナーを返す事が出来れば、逆転する事ができます!!川藤さん!この状況を下柳はどう逃げ切れば良いでしょう!?」
「そうですね~、やはりここは・・・」
「おーっと!!安部!初球からバットに当ててきた!!ボールは左中間!追いかけるレフト金本の頭上を通り越して・・」
青年はチャンネルを変えた。野球は好きじゃない。高校時代、授業でソフトボールをしていた時、バットに球がほとんど当たらなかった。それからは、野球に興味を持てなくなったのだ。
次のチャンネルではアニメがやっていた。そのアニメは随分前に、社会現象になる程ブームになったものだ。
アニメのキャッチコピーは『このノートに名前を書かれた人間は死ぬ』。
青年はアニメの主人公の― 世の中はクソだ ― 、― 生きる価値の無い者が溢れ返っている ―という考えに、共感できるものがあった。その一方で、何が俺をこんなに卑屈な人間にしたのだろう?と思うが、それは自分でも思い当たる節が、すぐさま頭に浮び上がって来るので、なんだか虚しい。
そう、分かり切っているのだ。自分の現状に行き着いた理由が・・
そのアニメは、既に何度か観た事があるのだが、主人公に対しての親近感からか、とても楽しく観られた。
風呂に入った後、恒例の発泡酒を飲むために、冷蔵庫を開けた際、母親に「一日一本までよ」と言われながらも、「おん」とそっけない返事をその場に残し、自室に戻る。
青年は椅子に座り、「ふっー」と息を吹いた。そして、ふと心の中で呟く。
― なんで、俺ばっかりこうなんだろ・・・―
―神様がいるんなら、俺は神様を怒らせる様な事を何かしでかしたのか? ・・いいや、そんな事はない。俺は今まで真面目に生きてきた。悪いのは奴らだ。そうだ俺は何一つ悪くない―
そう思いながら、発泡酒の缶の詰に指を掛けた。
「カチン」
その時だった。青年の頭の中で、あるフレーズが脳裏を掠めた。
―このノートに名前を書かれた人間は死ぬ―
青年は立ち上がり、机の上の片隅に立て掛けてある、昔買った手付かずの新しいノートを手に取り、ページをパラパラとめくった。
そして青年は「よし」と頷いた。
※
・・・二十分後、ノートの一ページ目には数名の名前が書かれていた。
青年は笑みを浮かべながら、右手の中で空き缶をベコベコ鳴らしている。
その状態で数分程いたが、急に「なんてな」と言葉を漏らし、表情から笑みを消し、代わりに大きなあくびをついた。
時計を見れば、つい五時間ほど前に起きたばかりだったが、集中し過ぎたせいか、急に眠気が襲って来た。
青年はトロンとした目で、逃れる様にベッドに潜り込み、すぐに寝てしまった。
その表情はとても穏やかに見える。
完