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大浴場


 大浴場は男女に分かれており、男湯にパルセが入っていく。

 私はレサとロールと共に女湯へ。

 のれんという布をくぐり抜けると脱衣所。

 それを見て驚いた。

 だだっ広い空間に棚と籠が並んでいる。

 まさか……まさか……!


「まさか! 個室ではない!?」

「そうだよー。早く脱いではいろーよーー」

「ひ、人前で!? 人前で脱げというのか!? は、肌を晒せと……!?」

「え? だって脱がなきゃお風呂入れないよ?」

「それはそうなんだが……」


 そう、それはそうなのだ。

 わかっている、風呂は脱がなければ入れない。

 だが、人前で肌を晒すことなどなかった。

 オロオロしている間にもレサとロールはポイポイと服を抜く。

 レサはロールの服を脱がせて、棚からタオルを持ってくる。


「はい、これお姉ちゃんの分。いくよ、ロール」

「んー」

「あ……っ」


 脱衣所には当然、他の入浴客もいた。

 レサとロールを見ると「あら、二人とも今からお風呂?」「のぼせないようにね」と声をかけていく。

 私がモタモタしている間にも、新たなお客さんが入ってきた。

 困り果てている私を見た妙齢女性が「どうしました?」と心配して声をかけてくれる。

 それに対して、私はあうあう口を開閉するしかない。


「おねーちゃーん、はやくーう」

「レサ、この子知り合い?」

「新しく引っ越してきた人ー! 剣聖のお姉ちゃんで、すっごく強いんだよー!」

「まあ、そうなの。もしかして、大浴場初めて? 使い方を教えてあげましょうか?」

「え……え……え……え、ええと……」


 普通に脱ぎ始め、タオルを巻いて体を隠す女性。

 そうか……普通なのか……人前で平然と肌を晒すのが、この町の日常なのか。

 この町に来た以上郷に入れば郷に従うべき、だよな?

 くっ……!


「お、教えてください……っ」

「もちろん。まず脱いだ服は籠に入れて、籠を棚にしまうの。そのあとそこのタオルの棚からタオルを持ってきて。すぐに入らない場合は体に巻くといいわ」

「は、はひ」


 年貢の納め時というやつだな。

 すべてを諦めて服を脱ぐ。

 ああ、嫌だな……下を脱ぎ、上着も脱ぐ。

 肌着を脱ぐと、女性は口を押さえる。


「その胸の傷は……」

「いや、傷ではなく――紋章だ」


 傷に見えるが、これは剣を表しているらしい。

 三つの剣が交差して、円で包まれている。

 そんな形。


「紋章! みたい!」

「みたーい」

「いや、さすがに!」


 本当に、胸の真ん中……谷間になるほどあるわけではないが、鎖骨の真下。

 子どもとはいえ人に見せるのは恥ずかしい。

 すぐにタオルを巻いて隠すが、レサとロールには頬を膨らまされてしまった。

 恥ずかしいものは恥ずかしいので許してほしい。


「レサ、ロール、無理を言ってはダメよ。さ、それじゃあ大浴場の使い方の続きね。浴室はこっち。まずはシャワーを浴びて、体と髪を洗って。他の人もたくさん入るから、できるだけ汚れを落とさないように事前に洗って入浴するのがマナーなの」

「な、なるほど」

「その間、タオルはここに重なっている籠の中に入れておくといいわ。タオルは濡れないように、壁にかけておくの。シャンプーや泡立て用のスポンジは自分用のものを持ち込んでもいいわ。ない場合はここから借りて」


 あまりにも充実していて口を開けたまま立ち止まってしまった。

 そもそもシャンプーという髪用の液体洗剤、貴族しか持っていない。

 私のような訓練ばかりで女らしさとは無縁な生活をしていた者でさえ、シャンプーが高級品なのは知っているぞ。

 それが各シャワーノズルのかかる壁に備えつけてあるなんて。


「こ、この町の経済状況はどうなっているんだ? シャンプーは貴族の使うもののはずだが」

「ああ、他の国からくる人は大体驚くわよね。髪用の液体洗剤。でも、この町は貴族がいないの。その代わりみんな平等。みんなに責任があり、みんなに自由があり、みんなに役目がある。液体洗剤も職人が研究して、みんなが買い求めるようになったの」

「平民が……?」

「ええ、そうよ。うちの旦那は配送を担当していて、私は編み物を編んで売っているの。それだって、羊や兎を飼育して毛を刈ってくれる農家の方々のおかげで糸が手に入っているのよ。そうやってこの町の経済は回っている」

「貴族が指示をして運営しているのでは……?」

「貴族はいないわ。そういう指示を出す人も。でもそうね……たとえば風邪薬が足りなくなりそうだから、風邪薬を作るのを増やしてほしい、みたいな指示はセッカ様が出してくださるわね。この町の代表だから、セッカ様は」


 そうか、そういう意味か。

 町長のような立場、と言っていたが、あの人が貴族のような、王のような立場なのか。

 だが、この町はクラッツォ王国の王都くらいの大きさがある。

 それでも貴族を必要とせず、平民だけで生活を回しているとは……。


「あ、もちろん各組合の長が城で町の運営方針の会議をしたりはしているわよ? でも、貴族はいないわね」

「必要がないということなのか?」

「今のところ、そうなんだと思うわ。この町の隣の国はこの町に干渉してくることもないしね。まあ、寒くてなにもない場所だと思われているんでしょう。セッカ様が古代魔法を使えるなんてバレたら、いろんな国から狙われそうだけれど」


 それに関しては私もそう思う。

 古代魔法を実際に使える人間なんて見たことがない。

 会ったことはないけれど、五大英雄の賢者でもできないのではなかろうか。



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