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今日のところは


「ええと……もしかして今までの色々が婚約破棄され国外追放された理由、と仰りませんよね……?」

「いや、それらが理由の一つと……先程も言った通り、今後は平和を維持する路線で国政の舵を取っていくから、私のような闘う力ではなく聖女のような守る力を重要視する――ということらしい」

「では、今のクラッツォ王国には聖女様がおられると」

「ああ、そうだ。神殿が連れてきた」


 セッカ先生はまたも口に指を当てがって考え込む。

 先程の話ぶりから、それならば神殿は私を他の封印核のある地へと派遣するのが仕事のはずなのだから考え込むのも当然だろうか。

 しかし、封印核の話が本当であるのなら、この地にも五大英雄の誰かがいる、ということなのでは。


「あの、セッカ先生。この地にも封印核があるのであれば、五大英雄の誰かがいるのだろうか? 私は他の地に行った方がいい、のだろうか?」


 せっかく憧れの永久凍国土(ブリザード)が目の前にあるのに、この地を早々に離れなければならないのは悲しい。

 できればもっと自分の力を引き出してみたいのだが。


「この地にはもう長く国守はおりません。国ではなくなってから百年近くなりますので」

「え……ええと、だが、この場所も封印核があると言っておりませんでしたか?」

「その通りです。しかしこの地の封印核は、極寒の吹雪と氷結により国守を必要とはいたしません。この地で災厄を起こすのならば、せいぜい雪崩れでしょうか。人が立ち入らないので、厄災魔物はその役割を果たせぬのです」

「んん……? 厄災魔物は人に災いを……なすことが役目なのですが……?」

「それも学ばれないのですか?」


 またも驚かれてしまった。

 私の常識ってそんなにズレていた……?

 これって私が悪かったの、か?


「そこまで剣聖であるあなたに知識がないなんて……神殿は意図的に隠蔽をしているのでは……」

「隠蔽……?」

「いえ、憶測で話をするものではありませんね。申し訳ありません。ええと……アリア嬢はかなり知識が欠けておられる様子。立ち話程度でお伝えするのは難しい。それに、長旅でお疲れでもあるでしょう。アリア嬢がこの地に来られた理由も修行と勉強のため、とのことですし、本日はゆっくり体を休められ、明日以降今後の生活についてなどの希望を確認してもよろしいでしょうか? 本日は城の客間をお使いください」

「よろしいのか?」

「もちろんです。アリア嬢のように最初から向上心のある方は珍しい。歓迎いたしますよ」


 にこやかにそう言われて、一瞬言いしれぬ感情に胸が掻き乱される。

 生まれつき、私は剣聖だった。

 だから人に遠巻きにされることはあっても、向上心があると褒められたことはない。

 強いのは当たり前。

 強さを求めるのも当たり前。

 敬遠されて、恐れられることはあっても、歓迎しますなんて言われたこともない。

 いつも私は『剣聖』であって、名前を呼ばれることさえ……滅多に……。


「……? アリア嬢? どうかされましたか?」

「あ、いや。まさかこのようにあっさりと受け入れてもらえるとは思わなくて少し驚いてしまいました。私はその……人に怖がられることの方が圧倒的に多かったので」

「そうなのですか? なぜ?」


 なぜ。

 真正面からそう聞かれることもなかった。

 物心ついた頃からそれが当たり前だったから。


「なんでー?」

「お姉ちゃん、別に怖くないよ? 助けてくれたし」

「ねー」

「「ねー」」


 子どもらにもそう言われて、胸が温かくなった。

 そんなふうに言ってもらえたのも初めてだ。

 ここは……本当にクラッツォ王国ではないんだな。当たり前だけれど。


「そうだな。なぜだろう。ただ、あの国では自分と違うものは怖い、とされていたのだと思う」

「ふーん」

「変なの。剣聖様は五大英雄の一人なのにね」

「ねー」


 首を傾げる彼らを見ていると、私が今まで感じていたものもなんだったのかわからなくなりそうだ。

 マニが「僕が客間に案内しますね」と言って温室の出口に歩き出す。


「あ、ずるいマニー。ぼくらもお姉ちゃんの案内してあげるー!」

「お前たちは先に部屋に戻ってお風呂に入ってきなさい。外壁の外に出てきたんだろう? ばっちい」

「ばっちくないもん」

「だめ! ばっちい! セッカ先生がお前らの持ち込んだバイキンで体調崩したらどーするんだよ」


 マニに叱られたパルセたちは顔を見合わせてからしょんぼりとして「はぁーい」と返事をする。

 ばいきん……?

 もしかして私も汚い?

 確かに風呂には入ってないな。

 宿にも泊まらず強行で一直線にここまで来てしまったから。


「お風呂、私も入りたいな」

「あ! それじゃあ大浴場に寄ってからお部屋行こうよー! あたしがお風呂の入り方教えてあげる!」

「大浴場? そんなのがあるのか?」

「こっちこっち! 剣聖のお姉ちゃん、こっちだよー!」

「レサ、引っ張ったら危ないですよー」


 注意を促しつつ、手を振って見送ってくれるセッカ先生。

 彼に一度お辞儀をしてから温室を出る。

 レサとロールに手を引かれ、マニとパルセとともに大浴場なる場所に連れて行ってもらう。

 城の中の別棟の一階にあるらしく、湯気が出ているので一目でわかる。


「そうだ! お風呂から上がったらご飯買いに行こうよー!」

「お駄賃貰ったばっかりだから、ぼくがお姉ちゃんに串肉奢ってあげる! 助けてもらったお礼!」

「串肉……美味しそうな響きだな」

「美味しいよー! 甘辛いタレにたっぷり浸して焼いてあるからジューシーなの」

「二人とも、まずはお風呂だからね」

「「はーい」」


 まったく、と腕を組みながら到着したのは男女分かれた浴場。

 とても想像がつかないのだが、絶対私の知っている風呂と違う。



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