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目から鱗


「しかしクラッツォ王国の国王陛下は国守を国外追放するなんて……封印核をどうお考えなのでしょうか」


 顎に指を当て、考え込むセッカ先生。

 私としては「その封印核とは?」と聞きたい。

 いや、気づいたら声に出ていた。

 声に出ていたせいで、それはもう驚いたように「え?」と見上げられる。

 立ち上がることができたら私よりもずっと背が高そうな男性を見下ろすという、不思議な状況。

 男性を見下ろす経験自体あまりないから、なんとなく新鮮な感じ。


「封印核をご存じでは、ない……?」

「聞いたことがございません」

「国守として学ばれないのですか?」

「聞いたことはありません。国守として、剣聖として襲いくる魔物、または約最魔王の配下たる厄災魔物を倒す。それ以外のことは学びません」

「え……ええ……?」


 それはもう、呆れたような声を出された。

 表情もかなり呆れと困惑。

 このように教わるのは我が国だけではないと思うのだが。


「なんなら先程パルセたちが、紋章に手を当てて聖剣を出す、と言っていて、試してみたら本当に出た! と先程聖剣の存在を初めて知ったぐらいで」

「え……ええ……!? 五大英雄の教育は神殿の仕事では!? 紋章の使い方も教わらない……!?」

「そうですね。教わるのは騎士団より、剣の扱いくらい。あとは一応貴族としての教養ぐらい……でしょうか?」


 大きな口を開けて、今度こそセッカ先生は呆れ果てた様子。

 なんかまずいっぽいな、これ。


「中央部の国々の神殿は、封印を蔑ろにしているということでしょうか?」


 マニが首を傾げながらセッカ先生の方を見る。

 なんというか、居た堪れない。

 一応、神殿のフォローをしておくべきか?


「厄災魔物が減っているので、教える必要がないと思っていたのではないだろうか?」

「厄災魔物が減っている……。それは逆に危険なのですが」

「え? そうなのですか?」

「はい。厄災魔物は厄災魔王が世に放つ天災です。それが減っているということは、封印核を一気に破壊する力を持つ厄災魔物を準備しているということでしょう。百年周期で魔王の攻撃として、巨大な厄災魔物が生まれると記録があるので。……その前兆として、二〜三十年ほどかけてゆっくりと厄災魔物の出現が減り続け、まったく出現しなくなるとあります。厄災魔物が現れないのは、逆に危険です」

「え……!? な、なんだそれは……知らない……!」


 私が思わず叫ぶと、セッカ先生は頰に手を当てて眉尻を下げる。

 神殿はそのような記録を取っていないのだろうか?

 いや、では……クラッツォ王国は……。


「ええと、では、その封印核というのは……?」

「東西、南東、北西、北東、北部には厄災魔王を封印している結界の核があります。その位置にある国、セダンス公国、アルバトス帝国、マゼラン聖王国、クラッツォ王国、そしてここ、アイストロフィには必ず五大英雄の紋章を持つ者が生まれ、国という封印核を守護するのです。神殿はそれ以外の国に五大英雄の紋章を持ち生まれた者を保護し、封印核のある国へ移住させ管理する役割を担う。そして国守として生育し、厄災魔物を倒して世界の平和を維持するために三百年前に組織されました。それを知らぬなど、本来ならばあり得ません」


 すらすらと説明されて、しかもストンと納得のいく解説に今度は私が口をぽかんと開けてしまった。

 なに一つ、私は聞いたことがないのだが。

 聞いたことがある?

 いや、思い返しても……ないな。

 それに、その話が本当だとしたら――


「あの、それならばなぜにクラッツォ王国には聖女殿がいらしたのであろうか?」

「え……? クラッツォ王国には聖女様もおられたのですか?」

「うむ。元々私はクラッツォ王国の国王ベルレンス様と婚約をしていた。国守として、国母となるために。だが、国は厄災魔物も出なくなり、今後は平和を維持する路線に国政を導くと申されて私という剣聖は必要がないと。……ゴツいし」

「ゴツ…………」


 誰が? と聞かれて胸を張る。

 もちろん、私のことだ。


「私は見ての通り筋肉質でゴツいでしょう?」

「いえ、可憐な乙女にしか見えませんが……控えめに申し上げて身長もそれほど高くは見えませんし」

「うんうん。子どもに見えるよ。何センチ?」

「最近測ったら158センチだった!」

「チビじゃん」


 え、私チビなのか……!?

 パルセたちにまで「小さいよ」「小柄だよ」「ゴツいっていうのはマットおじさんやタックおじさんみたいなことを言うんだよ」と言われてしまう。誰?


「いや、でも……化粧っ気もないし!」

「化粧なさればよろしいのでは?」

「鎧を纏い、ドレスの一つも持っていない!」

「仕立てられてはいかがですか? アイストロフィでも月に一度は交流パーティーがありますので、何着か持っておくとよろしいかと思います」

「女らしい趣味もなく、刺繍したハンカチの一つも殿方に贈ったことはございませんし!」

「趣味に関しては個人の自由では? クラッツォ王国では、ハンカチに刺繍して殿方に贈る風習でもあるのですか?」


 ………………知らない。あるのか?


「え、えっと、話す話題と言ったら魔物の倒し方、剣の訓練の話ばかりだし……」

「剣聖として生きてこられたのですから当たり前では?」

「乗馬を共にすればいつの間にか乗馬勝負になりますし……」

「馬と心を通わせているからこそ、馬と共に駆けるのが楽しくなってしまうのですね」

「そう! そうなのです!」


 初めてわかってくれる人に会った!

 じゃ! なくて!


「いや、あの、あと、食事はできるだけ早く多く詰め込むように食べてマナーもなっていないし!」

「緊急事態に備えて早食いをしてしまいがちだったのですね。それは今からでもゆっくり食べることを意識して変えていけばよろしいかと」

「おん……」


 見抜かれたのも初めてだが、変えていく……か。

 考えたこともなかった。


「あ……あとは、あの、髪は短く、櫛もリボンも贈ることもできないと言われました!

「櫛もリボンも髪が短くとも贈って良いものなのでは? なぜダメなのです?」

「うんうん。髪、短くても編み込みとかできるよ! あとでレサが結ってあげる!」

「え? あ、ありがとう?」


 え、できるんだ……?


「あ! あとはあの! 胸が……脂肪ではなく胸筋で……!」

「女性の価値は胸だけではありません。それに剣聖として生きてこられたのであれば、筋肉が豊富についていることになにが問題なのです?」

「……えっと……」


 全部言い返された。

 全部……私に悪いことがない……と。



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