変わらないかもしれない、変わるかもしれない
――その後、セッカ先生と話し合い永久凍国土の封印核が安定したこともあり祠を建てることになった。
今代の五大英雄に試練を設けることを相談すると、彼らも私と同じような境遇、悩みを持っていたので反対はされず、むしろ「手伝えることがあったら言ってほしい」とまで言ってもらえる。
ちなみに、聖女ティシュリアにクラッツォ王国のことを聞いたがやはり相当数の村や町が地図からなくなっていたらしい。
冒険者や統治している貴族により村人や町に住む人々は他の町などに避難をしていたが、そもそも一つの村や町に住む人々を全員受け入れる体制などできているはずもなく……とにかく、各地が寝る場所も食糧も圧倒的に足りずに混乱が続いているそうだ。
残念ながら、ベルレンス様にこの混乱を早急に抑えるほどの能力はなかった。
隠居した前王陛下が出張ってきて、国庫を開いて支援を開始。
貴族たちにも私財を吐き出させて復興を最優先させるそうだ。
それについては被害状況と復興の速さを競わせ、支援の額などに応じて爵位と領地の再配分を行うと言い出したという。
有能な者ならばこの災害を乗り越えられるだろう、というのが前王陛下の言。
そして今回の厄災魔物の件、私との婚約破棄、聖女を他国より招いて結婚を発表したことなど前王陛下が把握していなかったらしくて城は毎日のように怒号が飛び交っているそうな。
ベルレンス様は前王陛下に「あまりにも無能」「アリア嬢よりは内政に長けているように見えたが、そんなことなかった」「こんなに自分のことばかり考えるバカに国は任せておけない」と奮起し、重鎮たちをあっという間に味方につけて今回の災害復興でもっとも貢献した家の者から王太子を立てると言い出した。
当然現王であるベルレンス様は「そんなことできるはずもないだろう!」と暴れ出したが、城の中は前王陛下の味方ばかり。
ベルレンス様は四面楚歌状態。
私の居場所がわかるなら、戻ってほしいと聖女ティシュリアに溢していたらしいが私は今の居住地について彼らに話をしてはいない。
変に縋られても迷惑だから、意識して話をしていなかった。
予想通り……いや、予想以上に混乱しているようだ。
聖女ティシュリアは政略が理由で嫁いできた以上、愛はなくとも最後までクラッツォ王国を支えると言っておられるので彼女に任せることにしようと思う。
しかし、初代聖女様に言われたこと――愛や恋が聖魔力を有限から無限に変える――ということについては……四人とも懐疑的だった。
私以外の四人は恋も愛も知らない。
だからつい、私の今の状況を話した。
私は今、無限に湧き出る聖魔力で、認めたくないが認めざるを得ない……と伝えたのだ。
「アリア嬢、もしよろしければ今日も外でお茶をしませんか?」
「あ、は、はい! では、その……車椅子は私が押す。いいだろうか?」
「はい。お願いします」
――たった数日だが、空は今日も蒼天。
セッカ先生の車椅子を後ろから押し、温室の外のテーブルでお茶やお弁当を食べる準備を進める。
最近セッカ先生は温室の外の庭でお昼を食べるのが日課になりつつあった。
私は毎朝樹氷の森で採集した薬草を持ち寄り、試練の祠についての場所や試練内容などを詰めていくのを手伝ってもらっている。
永久凍国土の中についても今後ゆっくり探索していく予定だから、その話も。
「はあ……風があたたかいですね……♪」
「うむ、すっかり“春”だな」
「自分が生きている間にまだこれほど美しい空を見られるとは思っていませんでした。いえ、大寒波がまさか厄災魔物のせいだったとは。アリア嬢が来てくださって本当によかった」
「な、何回するのだ、その話……」
セッカ先生は青空を見上げるのが相当に嬉しいのか、私がいる前で繰り返しその話をする。
恥ずかしいからいい加減やめてほしい。
「永久凍国土はさすがに溶けないと思いますが……町だけでもあたたかくなるのは嬉しいことです。少なくとも隣国からの追放者が来ることはなくなるはずですから」
「そうだな。永久凍国土の探索も来週から始められそうだから、新しい薬草も見つかると思う。そうなったらセッカ先生はそちらにかかりきりになりそうだな」
「そうですね! それも楽しみです! アリア嬢が採集してきてくれるのが、今から楽しみで楽しみで」
本当に嬉しそうに笑顔を向けられる。
胸に溢れる聖魔力の感覚。
この人の、嬉しそうな笑顔を見ると……私はこの場所に来られて本当によかったと思う。
なんだかずっとむずむずした感覚。
胸があたたかい。
どうしよう、ずっと嬉しい。
これは……これは……幸せ……?
「自分が生きてきて、寒波のないことがなかったので……この地がどのように変わっていくのかも楽しみです。私の知らない、本当のアイストロフィが戻ってくる。施した魔法を解いて、この土地が昔ように人が各地に住めるようになれば改めて国としての体裁を取る必要が出てくるかもしれませんね。私は『持たぬ者』なので、新たな王を立てたら補佐に移るしかありませんが、この町が栄えていくのを見られるのが本当に嬉しい」
「あなたが王になろうとは思わないのか?」
「無理ですよ。私は子を遺せません。それに……ヴォルティスキー王国はもう滅んだのです。新たな国が生まれるのなら、それを見守るべきでしょう」
そうなのかもしれない。
その在り方は、五大英雄と似ている。
だからこの人がそれを選ぶのなら、私もそれでいいと思う。
「私もそれを見守りたいな」
「アリア嬢は……結婚をお考えではないのですか?」
「私は強すぎて『ゴツい』からな。普通の人間には“女”として見えないのだろう。だから私も結婚は諦めた。剣聖として、薬草師として生きていこうと思う」
「おや、もったいないですね」
「いいんだ!」
この人がこの町にすべてを捧げるつもりなら、私も剣聖と薬草師として生きていきたい。
結婚は――考えない。
これが恋や愛だとしても、結ばれなくても、隣で生きていけたらそれでいいんだ。
「そうですか。そうですね……そんな生き方も……いいかもしれませんね」
「ああ」
「それに、いつか気が変わることもあるでしょう。変化とは、悪いことばかりではありませんものね」
そう言ってまた飽きもせず青い空を見上げるセッカ先生。
私も強く頷く。
いつか、この関係性も変わるかもしれない。
変わらないかもしれない。
どちらにしても私は今、すっごく楽しい!
完




