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最北端の町、アイストロフィ


「この町が永久凍国土(ブリザード)に行く最前基地『アイストロフィ』か……美しいな」

 

 子どもたちに案内してもらい、ついに町に入ることに成功した。

 回収した馬に三人の子どもを乗せているせいか町に入った途端門番の兵士に「お前らまた勝手に外に出たのか!」と叱られたけれど。

 どうやらこの三人、悪さの常連らしい。

 えへへー、と笑ってごまかしていたが、厄災魔物に襲われていたのだから笑い事ではない。

 私が通りかからなかったら死んでいただろう。

 

「ところで、君は? 初めて見る顔だな」

「私はアリアリット・プレディターという剣士だ。この土地には強い魔物がいると聞き、剣の腕を磨くために旅をしてきた。仕事があれば就きたいと思うのだが、そういうったことを紹介してくれる場所をご存知だろうか?」

「ああ、腕試しの人か。そういうことならこの子たちの保護者でもあるセッカ様に話してみるといい。この町のことはあの方がだいたい采配しておられるよ。あそこの黒い城が見えるか? あそこがセッカ様のお住まいだ」

「王……ということだろうか?」

「いや。統治者、と言った方が正しいかな」


 首を傾げる。

 王ではない?

 確かにアイストロフィは“国”ではないそうだが……。


「こっちだよー」

「その、セッカ先生とは何者なのだ? 君たちの保護者だということはさっき聞いたけれど……この町の偉い人なのか?」

「うーん、偉い人っていうか……なんでもできる人!」

「なんでもできる人……?」

「そうだよ! セッカ先生はなんでもできるんだー!」


 ますますわけがわからない。

 首を傾げつつ空中庭園のある場所への橋を潜る。

 町の中はあちこちが凍っているのに、ほんのり明るくて暖かい。

 上を見上げるとたくさんの橋がかかっている。

 その上――空は曇天のままで、雪が降り続けていた。

 だからかなり寒いはずなのに外より暖かくて思わずマフラーを外してしまう。

 子どもらも町に入った途端手袋や帽子を外して畳み、鞄にしまった。


「町は外と違って暖かいが、どうなっているのだ?」

「先生がこだいまほー? でケッカイをはってるんだよー。先生はなんでもできるんだー」

「そー! すっごい人なんだよ! でも、全然偉そうにしないの! だからみんな頼るんだよねー」

「先生、体弱いから無理しないでほしいんだけど」


 と、頬を膨らませるのは最年長の子、パルセ。

 この子たちが外壁の外にいたのは、その“セッカ先生”の常用薬の材料を採りに行っていたんだそうだ。

 今まで採りに行っていた人が、高いところの電球魔石を取り替えようとして滑って転んで骨折して全治三ヶ月になってしまったとのことで、子どもたちがこっそり出て採集していたとか。

 おかげで目的のものは手に入れられたが、帰り道に魔物に見つかった、らしい。

 そしてこの子たちは孤児。

 セッカ先生は孤児院の院長先生。

 だから“セッカ先生”と呼ばれている。

 博識で、古代魔法にも通じているとは確かにすごい人物だ。

 古代魔法といえば神殿でも研究が行われているだけで、実際に使える者を見たことは私もない。

 それが現実に使用されている。

 思っていた以上にこの町自体、すごい場所。

 三人の案内で黒い外壁の城に入る。

 孤児院と聞いていたが、城なんだが?

 ちょっとその時点で驚いていたが、どうやらここは本当に城としての役割を担う場所のようだった。

 役人のように働く人々が「おや、パルセ、レサ、ロールおかえり」と声をかけていく。

 ただ、私の知る城と決定的に違うのは……とても、そう、なんというか、気安いのだ。

 歩く人たちはみな緊張感のない表情で、中には酒を片手に仕事をしている者もいる。

 王城というよりも、本当に田舎の町役場のような……。

 なんなんだ、ここは?


「ロイセルさーん! セッカ先生はー?」

「おお。お前らどこ行ってたんだ? セッカ様が心配されてたぞ。お部屋にいらっしゃるから早く顔を見せてこい」

「はーい」

「ところでそこのお嬢さんは? ああ、馬はあっちに厩舎があるから、そこに預けてくるといいよ」

「あ、ありがとうございます。えっと、私はアリアリット・プレディター。剣士だ。この町には修行と、勉強に来た! セッカ先生? には、その、職を斡旋いただければと思って……」

「おお、新入りさんか。こんな北の地まで変な人だなぁ。いやいや、新しい移住者は大歓迎だよ。マットレーアス国には島流先みたいに扱われてるからね! ははは!」

「は……はあ……」


 マットレーアス国は北の大国。

 ここよりは西側にある国だが……そこから人が流れて、流れ着いているのか。

 馬を厩舎に預けてから、改めて子どもらと共に城の奥に進む。

 奥へ行くとどんどん人が増えていく。

 城の中だというのに、廊下に露店が出て商売をしているのだが?

 そんなことある?

 そんなこと許されるの? え?

 これが常識なの? この城の? 本当に?


「セッカ先生ー! ただいまー! ……あれ? いなーい」

「あ! パルセ、レサ、ロール! どこ行ってたんだよ!」

「げっ。マニ……」


 駆け寄ってきたのは十歳くらいの男の子。

 この子も孤児だろうか?


「あれ? 誰? 新しい移民?」

「えっと、私はアリアリット・プレディター。この町には修行と勉強に来たのだが……」

「初めまして。僕はマニ。セッカ先生に会いに来たんですね。セッカ先生は今温室にいるんだ。案内しますね」

「温室?」


 城の中に温室がある?

 もう頭の中でずっと疑問符が舞っているのだが。

 マニという子が部屋から出て西の道を歩いていく。

 その後ろを、パルセたちとともについていった。



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