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クラッツォ王国の魔物(1)


 円環を生成。

 円の中に入り、城の真上へ。

 そのままクラッツォ王国へ、空を飛んで移動する。

 アイストロフィに来た時は馬で十日の道のりが、半日ほどでクラッツォ王国が見えてきた。

 日没の前にたどり着くとは、円環の力がこれほどとは。


「見えた。王都だ。……まさか、本当に……!」


 王都の周りには四体の厄災魔物が結界に向かって前進を続けていた。

 結界に引っかかって、つっかえている。

 これでは王都へ出入りも難しい。

 物流が滞り、いずれ干上がってしまう。

 パッと見た限り騎士団は沈黙している。

 それとも、戦ったあとだろうか?

 厄災魔物は通常武器や魔法を使って数日かけても倒すのは難しい。

 魔物の型は翼なしドラゴン。

 二足歩行で、両手がある程度使える器用なタイプ。

 地震や津波などの災いを引き起こし、一体だけでもかなりの死傷者を出す。

 ――初代聖女の知識ではあるが、三百年前はこんなものが当たり前に闊歩していたと思うととんでもない。

 聖剣を生成。

 鎧を生成。

 戦闘を開始する。

 力を溜め、聖剣に聖魔力を込め、強化。

 一番手前の、北にいる厄災魔物の首に狙いを定める。

 集中しろ。

 一撃で、切り落とす。私は一秒でも早く帰るんだ。

 だから――!


「はああああああ!」


 一気に降下して、首を切り落とす。

 いけた。

 思った以上に簡単に切れて、逆に驚いてしまった。

 これなら!


「二体目!」


 円環の角度を操作して、西、東、南の厄災魔物を順に倒していく。

 思いの外易々と王都の厄災魔物を倒すことができた。

 一度王都に行って、残りの厄災魔物の位置を確認しなければ、と城の方を見下ろす。

 結界がブツブツと途切れ始め、あっという間に消えてしまった。

 一瞬、王都に入るのを躊躇する。

 あの場所に、また、行くことになるなんて。

 いや、他の厄災魔物はあと六体。

 私も聖魔力が切れかけている。一度休まなければ。

 しかし、空に浮いたまま王都、王城を見下ろしたまま体が動かない。

 体が「嫌だなぁ」と拒否している。

 一度大きく息を吸って、吐く。

 それでもまだ体が拒否しているので、深呼吸を何度も行う。

 なんというか……厄災魔物よりも王城に降りる方がずっと嫌なんだが……。


「ハアーーーーーー……。……ヨシ!」


 頰を両手で叩き、気合を入れてから王城に直接降りる。

 聖女はどこだ?

 ひとまず彼女と話をしなければ。

 懐かしい城。

 二度と戻るつもりはなかったが、聖魔力を回復する時間だけほしい。

 中庭に降り立つと、わらわらと近衛兵が駆け寄ってくる。

 槍を向けられるが、降りてきたのが私とわかると、目を剥いて怯えられた。

 ……懐かしい。

 そうだ、この国では私を見る目は、こうなんだ。

 アイストロフィの人々から向けられる笑顔、優しい声色、普通の人間と同じように接してくれる態度。

 それを知ったあとだと、クラッツォ王国の人々のなんと冷たい眼差し。

 ああ、これが嫌だったんだ。


「な、なぜ……」

「プ、プレディター様……?」

「お、お戻りに……え、ええと……」

「はあ……」


 思い切り溜息が出た。

 私がただ溜息を吐き出しただけなのに、十人近い兵たちが肩を跳ね上げる。

 ただ溜息を吐いただけなのに。

 だが……すぐに自分の持つ剣の力を思い出す。

 厄災魔物を四体斬っても切れ味の変わらない、神秘の剣。

 あれを見たあとでは、怯えられても仕方ない。

 円環を消して、鎧と聖剣だけを残して兵たちに向き直る。

 見上げた空は青い。

 不思議だ。アイストロフィはあんなにどんよりとした空なのに、クラッツォ王国の空の方が灰色に見える。

 

「聖女ティシュリア・ミラ嬢の要請を受けて、対厄災魔物討伐の援護に来た。聖女への謁見を所望する」

「せ、聖女様……!?」

「聖女様が、要請?」

「わ、我々はなにも聞いておりません」

「ならば確認してきなさい。ここで待っている」

 

 聖剣を胸の紋章へしまい、鎧も消して中庭のカボスの中へ向かって座った。

 不思議なことに昨日のような耐性切れがまだ起こらない。

 むしろ、まだまだ戦えそう。

 兵たちは顔を見合わせ、どうする、と話し合いが始まった。

 私がある程度鍛えていたのは騎士団で、城の近衛兵はほとんど関わりがない。

 それにしたってこの対応……あまりにも判断が遅い。

 遅いというか、これだけ人が集まって誰も自分で判断できないのか。情けない。

 

「そこの一番左の者。代表して国王陛下と聖女に私がここで待っていることを伝えてきなさい。私は聖女の要請に答えてここにきた。この国に現れた厄災魔物は十体。先程四体を倒したから、残りの六体の討伐について話をしたい。もし、自分たちでなんとかできるというのなら私はこのまま現在の居住地に帰る。その辺りの返答を頼む、と伝えてくれ」

「は、はい! りょ、了解しました……!」

 

 はあ、と溜息が出た。

 まあ、突然来たのは私だしな。

 あ、そうだ。


「よいしょ」

「「「「!?」」」」


 ポシェットから廊下屋台の人たちにもらったお弁当や飲み物をテーブルに並べる。

 どれもできたでのままポシェットに入れたから、テーブルに出すとほかほかと湯気をたてていた。

 手を合わせて「いただきます」と口にして、お肉をパンで挟んで甘辛ソースのかかったサンドイッチを頬張る。

 お、美味しい……!

 この間の肉串もジューシーで、胡椒がよく効いて美味しかったが……これも美味いな。

 食事も睡眠もいらない体だが、やはりちゃんと栄養を経口摂取するのは精神的にいいものだ。

 心が弾む。

 早く帰りたいな。



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