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小さな決意


「だが、本当にそれでよいものか……」


 五大英雄との念話を終えてから、閉めたカーテンを少しだけ開けて空を見上げる。

 家々が明かりを灯し、厄災魔物の討伐を喜ぶ宴が行われているらしい。

 移動中に見かけた町の様子とは打って変わり、ワイワイと笑顔で溢れていた。

 安堵する反面、クラッツォ王国の現状が心配でならない。

 私はあの国に拒絶された。

 あの国の今後の方針に沿わないからと、誰にも“私”を引き留められることはなく、引き留めてくる者にとって私は“剣聖”でしかない。

 あの国で、アリアリット・プレディターは“剣聖”で、“兵器”でありそれ以上でも以下でもない。

 私は見限った。

 自分の望む永久凍国土(ブリザード)の探索の夢を叶えるべく、この町に来てその目標は道半ば。

 むしろ、ようやく永久凍国土(ブリザード)へ立ち入るための希望が見えてきているくらい。

 五大英雄としての役割を放棄したつもりはないし、永久凍国土(ブリザード)の封印核に聖魔力を注げると思えばここにきたことはやはり間違いではなかったといえるだろう。

 だが、しかし……。


「思い入れなどないはずなのに……」




 翌朝、暖炉に火をつけて寝間着から普段着に着替える。

 耐性はすべて元に戻っており、本当なら暖炉に火をつけるまでもない。

 しかしなんとなく……炎を見ておきたかった。

 これから真っ白な雪の中を歩くから。

 昨日の街の明かりを見ながら、その暖かな光に心が安堵した。

 火は人の心に安らぎを与えてくれる。

 少しだけその炎を眺めてから、火を消して家を出た。

 真っ先に向かうのは外壁の門。


「お! 昨日のお嬢ちゃん! 昨日は大活躍だったな! すぐ帰っちまったから、礼をし損ねた。今日空いてるかい?」

「いや。今から永久凍国土(ブリザード)に行って……少し休んでから城に行く予定だ」

「かぁー! 真面目だねぇ! 今日一日休んでも、誰も文句言わないだろうに! まあ、いいや。今度礼に奢らせてくれよ」

「えっと……ありがとう?」


 この町の人は、私が戦って勝つと感謝してくれる。

 首を傾げると「なんであんたがお礼を言うんだよ」と笑われた。

 多分、これが普通……なのだろう。

 目を閉じて、樹氷の森へと進む。

 クラゼリの群生地を目指して、採集を行う。

 セッカ先生には十分だと言われていたが、もしも私になにかあった時のために余分に持っていてもらいたい。

 その他にも教わった薬草をできるだけ採集して……永久凍国土(ブリザード)の入り口に辿り着く。

 入り口に立つ二本の柱の片方に手を置いて、聖魔力を注ぐ。

 二本ともに注ぎ終えてから、曇天を見上げた。

 やはりここにきても私の気持ちは変わらない。

 誰になにを言われたとしても、やはり私は剣聖なのだ。

 必ずここに帰ってきて、いつか……この先に――。


「よし。これを届けて、聖魔力を回復させよう」


 きっとあの人は、こんな私でも受け止めてくれる。

 なんとなくそんな予感がしながらも、それでも、半分くらい引き留めてほしいという奇妙な感覚。

 分厚い雲を見上げて、それが今の自分の気持ちのようで不思議だ。

 白い息を吐き出す。

 あの人は……きっとわかってくれる。

 でも……。


「あ、アリアおねーちゃーん!」

「お姉ちゃん!」

「おねぇちゃんだー!」

「おお、パルセ、レサ、ロール、なんだか久しぶりに会う気がするな」


 城門の近くまで来たら孤児院の子たちが駆け寄ってきた。

 腰やら太ももに飛びついてきた子たちの頭を撫でる。


「お姉ちゃん! 昨日、厄災魔物を倒したの!? 一人で!? 本当に!?」

「そうだぞ。私は剣聖で、強いからな!」

「すごーい! すごーい! やっぱり剣聖のお姉ちゃんすごーい!」

「きのう、おまつりだったんだよぉ! おいしいものたくさんたべた! おねえちゃんもたべた?」

「そうなのか? よかったな。私は――そういえば夕飯も朝食も食べていない。お腹が空いていなくて」

「「「えーーーっ!」」」


 色々考えていたのもそうだが、耐性もあるからなぁ。

 するとレサに「お姉ちゃん、ちゃんとご飯食べないとダメだよ」と叱られてしまう。

 昨日の厄災魔物討伐を祝った宴のご馳走の残りを、屋台の店主たちにねだるべきだ、とまで言われてしまった。

 いやいや。


「こっちにきて!」

「ちょ、ちょっと……」


 両手をレサとロールに掴まれて引っ張られる。

 出店の立ち並ぶ廊下に連れて行かれると、私の顔を見るなり店主一同が突然「おおおお!」と雄叫びを上げた。


「おい! 嬢ちゃん! 聞いたぞ!」

「厄災魔物を一人で倒したんだって!? いや、すげぇなあんた!」

「これが剣聖ってやつか! いや、疑ってたわけじゃあねぇけどよ! いやー! すげえ! すげえよ!」

「ありがとうな! ほれ! これ、うちの自慢のローストチキン! 持ってきな!」

「うちの炊き込み飯も持ってってくれ! あったかいうちに食ってくれよな」

「え!? え!? い、いや、そんな、貰う理由がないぞ!?」


 突然我先にと商品を包んで突き出してくる。

 本当に理由が意味不明で、全力拒否をすると店主の一人が「なに言ってんだ。お礼だよ」と言い放つ。


「おれ……い? な、なんの」

「厄災魔物を倒してくれた礼さ! ロットんとこのやつらが弱いとは思わねぇが、それでも長年迷惑してたのには違いねぇ。その問題が一気に解決したんだ。きっと寒波もなんとかなる!」

「ああ! あんたは俺たちの生活に、希望をもたらしてくれたんだ!」

「ありがとう!」

「……あ……」


 ほらほら、とどんどん持たされて、気がつくと両手いっぱいにあたたかい料理。

 あたたかい……とても……あたたかい。


「あとでゆっくり食べてくれよ」

「今日はあんたもちゃんと休んで、英気を養ってくれ」

「本当にありがとうな!」

「……いや、こ、こちらこそ」



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