剣聖の強さ
まあ、厄災魔物の厄介なところはただただ“硬い”!
これに尽きる。
恐らく魔法もほぼ通用しないのではないだろうか。
攻撃が通らないから、倒すことができない。
倒すことができないから、やりたい放題にされてしまう。
攻撃は最大の防御、という言葉があるが、厄災魔物という存在は防御こそ最大の攻撃を体現した存在。
だがこの厄災魔物に対しても攻撃が通るのが聖魔力を持つ五大英雄。
そもそも、この聖魔力は勇者リードよりもたらされたモノ。
聖痕――五大英雄の紋章は、勇者リードにより刻まれた“古代魔法の原型”。
初代聖女様の記憶により知ったこの事実。
円環により高速で移動することが可能になり、壁に登ろうとしていた厄災魔物を立て続けに五体の首を落とす。
頑丈さにかまけて素早さを蔑ろにした進化をするからだな。
「残りは……」
「うわあああああ!」
悲鳴が聞こえて門の方を振り向くと、冒険者たちが厄災魔物に囲まれていた。
なぜ――いや、彼らは町を守ろうと、防衛のために出てきたんだろう。
だが、通常武器では倒せない。
折れた剣や槍で牽制するも、それで止まるような厄災魔物ではない。
「はあああ!」
だからこそ私が――五大英雄の剣聖たる私が! いる!
円環で一気に距離を縮め、最後の三体の首を落とした。
これで……終わりだ。
「そ、そんな……あんた、マジで……」
「う、嘘だろ。厄災魔物を一撃で……!?」
「新人が剣聖って噂は、本当だったのか……」
「怪我人は?」
「い、いや。助けてくれてありがとう」
十五人ほどの冒険者たちが、隊列を整えようと尻もちをついたり飛ばされて倒れていた仲間を起こしていく。
私に礼とともに手を差し出してきたのは、髭を生やした細身の男。
「俺はロットだ。永久凍国土を探索する冒険者組合、ロット組のリーダーを務めている。あんたの話は聞いてたよ。薬草師になったとか」
「ああ。私も永久凍国土を探索したいとこの町に来た。あなたの組の話は聞いていたが、私はその……人と足並みを揃えて戦うのが苦手だからな。薬草師という形で永久凍国土を探索してみることにしたのだ」
「なるほどな。その戦い方を見るとよくわかる。俺たちじゃああんたの足手纏いになるな」
首を横に振る。
私は強すぎるというか、ゴツすぎるだけだ。
五大英雄は厄災魔物を倒し、厄災魔王の封印を維持して世界の平和を守る存在。
改めて自分の役割を理解し、長い時間をかけて忘れ去られた役目を他の五大英雄に思い出してもらわなければ。
「だが、今まで確認されていたアイストロフィ周辺に闊歩していた厄災魔物がこれですべて倒されたってことになるな」
「そうなのか?」
「ああ、アイストロフィから樹氷の森までは十体のうちの一体がうろうろしてやがったんだが、あんたが来た日に倒してくれただろう? 他の九体の行動パターンがそれで変わるかと思って樹氷の森の奥地を闊歩してた残りをここ数日ずっと観察していたのさ。その結果、今日に限って一箇所に集まり始めてな」
なるほど、マニが迅速に私たちに連絡をくれたのも、外壁の兵たちが即座に警報の鐘を鳴らしたのも、事前に打ち合わせがされていたからか。
素直に「素晴らしい対策だな」と褒める。
彼らの日頃の努力のおかげだ。
だが、私が一番浅い場所にいた厄災魔物を勝手に倒してしまったのが原因なのだよな。
それは申し訳のないことを……。
「だが、今日ですべての厄災魔物がいなくなった! 明日からは滞っていた永久凍国土の調査を再開できるぜ!」
「奇遇だな。明日も私は永久凍国土に行く予定なのだ。薬草を摘んだら、だが」
「おお! いいな! 頑張ってくれよ。タイミングが合えば一緒に行こう」
「ああ」
あれ? なんだか……。
「よし、お前ら! 町の奴らに安全を通達! 厄災魔物はすべて新入りの剣聖が倒したってな!」
「「「へい!」」」
「あんたはセッカ様に報告してくれないか? おい、残りは俺と来い! 周辺を見回って完全に安全かどうか確認するぞ」
「「「へい!」」」
テキパキと指示を飛ばし、この人数を使って後処理をしてくれる。
私もセッカ先生に早く安全を伝えたいので、お言葉に甘えさせていただくことにした。
円環と防具、聖剣を紋章の中にしまってから急に体に気怠さが襲ってくる。
もしかして、聖魔力を使いすぎたのか?
「っ……寒っ……!」
慌てて外壁の中に飛び込むと、だいぶ寒さが緩和した。
でも、こんなに寒いと感じたことがない。
それに身体強化で一気に城まで行こうと思ったのに、できない?
もしかして、無限に湧き出ると思っていた聖魔力が――尽きている?
一気に使いすぎたことで、普通の魔力のようになくなったのか?
回復、する……よ、な?
さすがにこれが一生続く、とかはないよな?
急に不安が押し寄せてきて、城へ向かう歩を速める。
なんだ? なんでだ?
私、もしかして不安になっている?
剣聖として生きてきた私にとって剣聖の力がなくなったら……。
「……あ……」
不安のままに空を見上げると、分厚い灰色の雲しか見えない。
セッカ先生が言っていた言葉を思い出す。
青い空が見えないことが、こんなにも不安を煽るとは。
そしてその分、セッカ先生の笑顔が見たい――なんて、思うなんて……。
「っ……」
気づくと急ぎ足ではなく駆け出していた。
城までの道がこんなに長く感じたのは、きっと後にも先にもこの日だけだろう。




