強襲
「まさか……アリア嬢が永久凍国土の封印紋章と接触したことで、他の五大英雄に情報共有される前に始末しようと……?」
「どこでバレたのでしょう?」
「わかりません。ですが……タイミングがよすぎる。そうとしか思えません」
「ふむ」
私も同意見。
内通者がいるのか、と思ったがセッカ先生の意見は違った。
厄災魔物があのあたりにいたのではないか、らしい。
厄災魔物は厄災魔王の“目”であり“耳”でもある――と、いう文献があるのだそうだ。
封印されてなお、厄災魔王が危険視されているのはそういうところ。
「厄災魔物は三百年前、知性のある魔物として魔物を支配して統率していたと文献に残っております。今はほとんど知性らしいものは見えませんが……」
「そ、そうなのか。まだまだ知らないことがたくさんあるのだな。敵のことなのだから勉強し直さねば。セッカ先生にはそのようなことも教えてもらいたい」
「もちろん、私の知っている範囲でよろしければ」
「ちょ……お二人とも……! 厄災魔物がたくさん壁に張りついているんですよ!」
「張りついているのはまずいな。始末してきます」
「よろしくお願いします」
マニに急かされるような形で資料室から出る。
遠くで警報の鐘がけたたましく鳴り響き、図書室にいた文官役員が不安げに席を立ち本棚の近くに寄り添っていた。
大丈夫、任せろ。
聖剣は一度出したから、出し方は覚えた。
図書館から渡り廊下まで出てから、身体強化の魔法を使う。
一気に城の外壁を飛び越え、落下しながら胸に手を当てて剣聖を生成する。
――もしかしたら、これを機にこの町の私の扱いがクラッツォ王国のようになるかもしれないけれど……でも、私は――剣聖だから。
「対魔聖円環」
そしてもう一つ、先程文献の資料で見た形を思い浮かべながら、屋根に着地して胸に手を当てたままその名を呼ぶ。
すると、イメージが明確になる。
まるで目の前に見えているかのように、くっきりと自分が作り出すモノの姿が。
同じく剣聖の鎧も、見えてきた。
思ったよりも軽装。
リボンのようなひらひらとした青い布。
防御の役割のある長い裾の上着。
動きやすさを重視したショートパンツとハイソブーツ。
胸と肩は鎧。
これが剣聖の“防具”か。
「行こう」
纏う。
剣聖の鎧と対魔聖円環。
これが三百年前の勇者一行、フル装備。
初代聖女様のおかげで、使い方がわかる。
軽くジャンプしただけで、宙に浮かぶことができた。
移動しながら町の様子を見ると、住民が城の方へ避難していく。
もしもの時のことを皆想定していたのか、不安や恐怖を滲ませつつも冷静に動けていると思う。
果たしてクラッツォ王国の王都で同じことができるだろうか?
しかし、思っていたよりも円環は自由自在に、私の思った通りに動くものだ。
円環は五大英雄全員にそれぞれの形があり、私の――剣聖の円環には左右に四本ずつ、上下に二本ずつ聖剣の予備のような小さな短剣が刺さっている。
円環を体に纏わせるようにすると、水平に移動ができるらしい。
そのまま町を囲う外壁に到着。
気配を探ると、やはり森の方。
北の方に複数の魔物の気配。
『GYAAAAAA!』
『GIRRRRRR』
雄叫びが聞こえる。
マニの報告の通り、外壁を厄災魔物が次々に登ってきていた。
勢いがいいのは体の一部が陶器のようなモノで覆われたドラゴン種。
外壁に体当たりを繰り返し、結界ごと破壊しようとしている。
生意気な。
「あ! アリアさん! そこは危ないよ!」
「問題ない。すべて私が倒すので」
「なに言ってんだ! 危ないから下がって……」
門番の兵たちが、外壁内部の階段から上がってきた。
私の身を案じる言葉が最後だと思うと少しだけ寂しい。
願わくば、この町の人々がクラッツォ王国の人たちのようにならないでほしい。
いや、もちろん私の勝手な願いなのだけれど――。
「私は大丈夫だ。それよりも戦える者を集めて他の魔物の侵入に警戒を!」
「それは……」
「私はアリアリット・プレディター! 今代の剣聖である! 厄災魔物ども、お前たちの思い通りになどならない! 絶対に魔王は復活させないし、この町に危害は加えさせない!」
飛び降りて、壁に貼りついていた厄災魔物に向かって切っ先を向ける。
そんな状態では到底抵抗もできないだろうに、と思っていたら背中から翼を生やして飛び始めた。
厄災魔物って飛べたのか。
というか、飛べたのなら最初から飛んで来ればよかったのでは?
最初から飛んでこなかったのは、制限でもあるからか?
まあ、どんな理由があっても円環で飛べるようになった私には関係がないことだがな!
半回転して距離を取り、厄災魔物の首に届くと判断した瞬間加速する。
自分で思っていた以上の速さが出て、剣を振るのが遅れたかもしれない。
だが切り口がややズレたのみで、厄災魔物の一体目は無事に討伐完了。
「残りは八。ふむ、これは負ける気がしないな」
体の力を抜く。
円環に刺さった短い聖剣が自在に操作できる。
これは――二本操作するだけでもかなり難しい。
飛ぶよりもこちらの方がよう練習だな。
『GYAAAAAA!』
「町には! 入れさせない!」
壁を上り続けていた一体が、一番上までたどり着く。
私に声をかけた兵が槍を構えるが、私の剣でも切れなかった厄災魔物に通常武器等通用しないだろう。
壁を破壊しようとしていた三体目と四体目の厄災魔物の手足に二本の短剣を飛ばして突き刺し、足止めをしてから急降下する。
外壁の上に着地して、下から上に剣を振り上げた。
三日月のような線を描き、厄災魔物の首が落ちる。
「残り七」




