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聖剣


 祖国から永久凍国土(ブリザード)までは山や川や渓谷を突っ切って十五日ほど。

 普通に街道を使えば一ヶ月の道のりだろう。

 ついに古城が見えてきた。

 古城といっても五十メートルはある巨大な囲い……氷の外壁に囲われた要塞都市。

 あれが未到の大地永久凍国土(ブリザード)への最前線の地……氷雪の町『アイストロフィ』。

 聞きしに勝る美しさ。

 これが一つの町になっており、さらに北の山の永久凍国土(ブリザード)を探索する基地になっているらしい。

 巨大な門――入り口らしいところが見当たらないのだが、どこから入るのだ?

 とりあえず町を一周してみるしかないだろうか?

 さすがに寒いので、早く入りたいのだが……。

 

「……っ! 子どもの声……!」

 

 しかも、悲鳴?

 真っ白な雪を被った木々の立ち並ぶ森の中から、幼い子どもが三人、雪に足を取られながら町の方へと走っている。

 なにかに追われている?

 目を凝らすと、真っ白な獣の姿を模したモノが雪をものともせずあっという間に子どもたちの真後ろに迫っていた。

 なんだ、あれは?

 まさか、あれが魔物か?

 考えるのはあと!

 子どもの一人が、転んでしまった!

 

「たあああ!」

 

 馬から降りて、身体強化で一気に距離を詰める。

 剣を引き抜き魔物の首を叩き斬るつもりで振り下ろす。

 だが、硬い!

 王都から持ってきた愛剣は、それなりによいところで打ってもらった名剣なのだが。

 なにより、剣聖の私に切れないものがある、だと?

 なんなのだ、これは。


「だ、誰?」

「ここは私に任せて、君たちは町へ」

「ダメだよ、無理だよお姉ちゃん! あれは災厄魔物だよ! 普通の剣じゃきれないよ!」

「大丈夫だ。私は剣聖だからな! 必ず倒して見せよう!」


 ……あれが災厄魔物。初めて見た。

 だが、思いの外小さいし、生き物には見えない。

 ところどころ毛は生えているけれど、目は光っているし、顔や両手足は陶器のよう。

 剣を構え直す。

 生き物の急所である首があれだけ硬いとなると、とりあえず目を潰して……。


「剣聖……? 本当に? じゃあ、紋章があるの!?」

「紋章から聖剣を出せるの!? 見たい! 見たい!」

「……?」


 子どもたちは転んだ子を立たせながら、目を輝かせてそんなことを言い出した。

 なに? え? 紋章? 紋章の中から“聖剣”を、出す?

 意味がわからず振り返りそうになるが、眼前の魔物が再び飛びかかってきた。

 私の隙を感じ取って襲ってきたのだ。

 知性はなさそうだが、普通の魔物より賢いのは間違いなさそうだな。

 剣を構え直し、再び身体強化と武器強化も施して目を突いて潰しにかかる。

 だが、先ほどよりも力を込めた剣を陶器の部分で弾き飛ばした。

 こんな硬い物質あるのか。

 ……もっと、本気になってもいいのか?

 もっと力を使ってもいい?

 国守として、騎士を鍛えるだけの日々で力をどうなさやって抜くか、そればかりを考えて生きてきたけれど。

 本気になってもいい。

 無意識に唇が上がる。


「……ハハ!」


 私が求めていたのは、これだ。

 本気で戦える場所。

 私が本気で鍛えられる場所、相手!

 今まで通したことのない量の聖魔力を全身に行き渡らせ、雪を蒸発させ、右足を軸にして全力で振り下ろす。

 災厄魔物が大きく口を開け、私の剣を噛みついた。

 これで斬れなければ、もっと……!


「あ……!?」


 バキッと音がして、剣が折られる。

 剣が先にダメになった!?

 今まで私の力に耐え続けてきた唯一の愛剣が!

 えええええ!?


「聖剣だす!?」

「聖剣!」

「せ、聖剣……ど、どう出すの!?」


 一度子どもたちのところまで下がる。

 だが、私の剣を吐き出した魔物は大きく咆哮を吐いて突進してきた。

 子どもたちを抱えて町に向かって走り出す。

 馬よ、あとで必ず迎えにくるから生き延びるのだぞ、と心の中で願いながら瞳を輝かせて私を見上げる子どもに聞いてみる。

 なんだそれ、私、紋章から剣が出せるなんて知らないぞ。

 そんな話、聞いたこともないのだが。


「え? 剣聖なら紋章から聖剣を出せるんじゃないの?」

「五大英雄は紋章から聖なる武具を出せるって、セッカ先生が言ってた」

「おとぎ話にもそうかいてあるよ」


 とのこと。

 ……やってみるか?

 でも具体的にどうやって?


『GYAAAAAA!』

「「「追いつかれるー!」」」

「っ!」


 悩んでいる時間はない!

 子どもらを雪の上に放り投げ、胸元の紋章に拳を叩きつける。

 剣……聖剣?


「私に……守る力を!」


 叫んだ瞬間、目を閉じる。

 勝手に目が閉じた、と言った方が正しい。

 閉じた目の奥から、ぼんやりと剣の形が浮かぶ。

 もしかして、これか?

 これが――!


「聖剣エクス・プレディター!」


 剣の名が口から出てくる。

 まったく知らぬ、剣の名前。

 剣聖が継ぐ『プレディター』の名を環むる金と青の丸みがある剣。

 これが聖剣。

 本当に私の胸の紋章から剣が出てきた……。

 だが、未だかつて見たこともない聖魔力の溢れた剣。

 いや、むしろ……聖魔力が具現化している?

 これは、絶対に折れない(・・・・・・・)


『GYAAAAAA!』

「たああああ!」


 これなら――斬れる!


『――――――!!』


 右足を軸にして体を捻り、飛びかかってきた魔物のやや下に入り込み再び首を切り落とす。

 今度はあっさりと首が落ちる。

 信じられないほどに、簡単に。


「勝った……」

「すごーい!」

「本当に紋章から聖剣を出したよ、このお姉ちゃん!」

「本当に本物の剣聖だぁー! すごいすごい! すごーい!」


 飛び跳ねる子どもたちのところに戻る。

 剣は光の粒になって胸の紋章の中に戻った。

 顔を上げて、町の方を見る。

 この町は……もしかして、五大英雄の知られざる秘密も、ある、のか?



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