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初仕事(1)


「そうだわ、アリアさん。もし『アナの花』があったらたくさん取ってきてほしいの。下級ポーションの材料なの」

「アナの花……えーと」

「23ページだ」


 アマルさんに言われたページを開く。

 アナの花――下級ポーションの材料となる、環境にあまり左右されずに咲く雑草の一種。

 と、ある。


「下級ポーションは確か、小さな傷や捻挫などの“外傷”を治癒するお薬ね。薬師は所詮病など治せないから。でも、冒険者協会に納品する分がどうしても足りないのよね……」

「冒険者にとっては必要なものだからな。当たり前だと思う」

「本当は疲労を回復する薬や寒さから体を守る魔法薬も作りたいのだけれど、幸い冒険者協会の倉庫に在庫があるらしいから急ぎではないから。でも近いうちに依頼したいわね」

「えっと、それはなにが必要なのだろう?」

「疲労回復薬には『マリタキノコ』。寒さから体を守る魔法薬には『オルティ葉』が必要よ。見かけたらでいいわ。クラゼリをどうか最優先してくださいな」

「了解した! 色々ありがとう! 感謝する!」


 その後、町を散策して冒険者協会のあるところを確認してから家に戻る。

 家――新居。

 私の、私だけの家。

 他に誰も住んでいない、私の。


「家具の搬入は明日以降。とりあえずベッドとカーテンだけでも設置しよう。えーと、寝室は……」


 二階に上がると部屋は四つ。

 扉を開けて中を確認して、ベッドの位置を決める。

 窓に側面を向けるように設置して、さらに窓にはカーテンを取りつけた。

 うん、シンプルな灰色のカーテンにして正解だな。

 それにしても、本当に雪が降り始めた。

 そろそろ夕暮れ時……寒さも増してくるから当たり前なのだが。


「そういえば……この部屋には暖炉があるんだな」


 今時暖を取るのなら魔石道具のストーブがあるのに、少し珍しい。

 下の談話室にはこれよりももっと立派な暖炉があったが、二階にもあるのは見たことがないな。

 薪もちゃんと入れてある。

 もしかして、パルセとタァナが入れておいてくれたのだろうか?

 あいにく私には寒さ耐性も暑さ耐性もあるから、暖炉やストーブを使う必要性もないのだが。


「……食や睡眠のように、暖炉をつけたらどんな気持ちになるのだろう?」


 食を摂れば味で癒される。

 食というのもまた娯楽の一つになり得るもの。

 睡眠もまたそう。

 睡眠耐性があるから寝なくても問題はないのだが、やはり眠るとスッキリする。

 暖をとっても同じように癒されたりするのではないだろうか?

 試してみよう。


「えっと、小枝に火を……面倒だな。えい」


 魔法でちょちょいと火を点す。

 冷えていた部屋がじんわりと暖炉の熱で温まっていく。

 だが、なるほど?

 不思議なものだが、火のゆらめきを眺めていると……ボーッと眺めてしまうな?

 決して同じ形にならない火のゆらめきを、ただ、ただ眺めている。

 それだけの時間なのに、暖かくて、パチパチという音もゆらゆらの火も……本当に不思議なのだがずっと見ていられるな。

 気がつくと座り込んで一時間ほど眺めていた。

 まだ部屋の隅までは暖かさが届いていないとは思うが、体はぽかぽかになっている。


「カーテンを閉めるか」


 立ち上がってカーテンを閉めて、そのままベッドに横たわる。

 なんだか、ものすごく……眠いな?

 このまま新しく買ってきたばかりのシーツに包まれて眠ったら、絶対気持ちがいいだろうな。

 そう思ったら、即服を脱いで寝間着に着替えて布団に入る。

 ああ、気持ちがいい。

 布団自体は冷たいのに、先程まで暖炉の前にいたせいで体がぽかぽかしているからほどよい。

 ふかふかで、しかししっかりとした弾力のある新品の枕に頭を埋めたら、自分でも信じられないほどに深く深く眠った。

 明日は日の出前に出掛けてセッカ先生に頼まれたクラゼリを探すんだ。

 そうだ、だからこの心地のよい睡眠は……必要なことだ。

 明日早起きしなければいけないんだから。


 そんなふうに思って眠ったおかげか、ふと目を開けると頭が非常にスッキリしていた。

 スッキリしていたせいで「あ、図鑑を読んでおこうと思ったのに……」ということを思い出してしまうが、懐中時計を見ると午前四時。

 起きてセッカ先生のクラゼリを探しに行かなければ!

 カーテンを開けて服を着替え、図鑑を収納魔法具に入れて暖炉を確認。

 火はすっかりと消えて、灰が山積み。

 バケツに灰を入れて、地面に持っていく。

 そういえば灰ってどうするんだろうか?


「いや、それはあとで誰かに聞いてみよう。よし! 行ってみよう!」


 初仕事だ!

 ワクワクしながら外に出て、玄関の扉を施錠する。

 雪が昨日よりも積もっていて、除雪機が道の雪を溝に落としていた。

 それにしても、耐性がなければ危なかった。

 布団から出られなかったかもしれない。

 普通の人間は私のように寒さ耐性がないのに、どうやって布団から出て生活しているのだろうか?

 今度孤児院の子たちに聞いてみようかな。

 えーと、門はあっちだな。

 久しぶりに魔物と戦うかもしれないと思うとワクワクする。


「ふあああぁ……」

「大きなあくびだな。おはよう!」

「うお! びっくりした! えっと……あんたは確かこの間町に来た……これから出かけるのか?」

「薬草師見習いとなったのだ! 今から初仕事だぞ」

「おお、アマルさんの代理か! 頑張ってきてくれ!」

「任せろ!」



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