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薬草師と薬師の家(3)


「では、永久凍国土(ブリザード)の中には樹氷の森よりも珍しい魔植物がある――可能性が高い、ということか」

「そうだ。聖女の薬草図鑑にも名前のない薬草が載っている。後ろの方、500ページのところだ。見てみろ」

「……これは」


 七代目聖女が書き記した『未知の名前のない薬草』特集。

 その中に『最北端、永久凍国土(ブリザード)で見た薬草』が描いてあった。

 聖女の役目を終えたなら、いつか永久凍国土(ブリザード)に来て研究してみたい。

 そんなささやかだが、五大英雄として生まれたら許されない夢で締め括ってある。

 五大英雄が新たに生まれるのは、該当の紋章を持つ者が死んだあと。

 五大英雄が役目を終えるのは、死後――ということだ。

 彼女はそれを知らなかったのだろうか?

 ……知らされなかったのだろうか?

 そのページの、その文言を指でなぞる。

 今、現代において私が教会から情報を規制されていたらしきことを思うと彼女のこの文言を書き残した意味が違って見えてきた。

 彼女の生きた時代よりも、現代の方がまだ教会は情報を出しているのか。

 なにかあったのだろうか?

 あまりの情報規制の多さに、テコ入れされた?

 いや、もしかしたら彼女の国の教会の情報規制がクラッツォ王国よりも強かったのか?


「この辺の薬草は永久凍国土(ブリザード)の中にしか生息していない。おそらく永久凍国土(ブリザード)の氷の魔力を吸って変異したものなのだろう。この図鑑の聖女はこれらを調べたかったらしい。世界中の薬草師、薬師の憧れよな」

「ええ。五十年前は世界中の薬師や薬草師がヴォルティスキー王国を訪れたものよ。でも、寒波が始まり、この国が衰退していった結果元からこの国にいた私たち以外の薬師も薬草師もみんな出て行ってしまったわ。それからはもう、永久凍国土(ブリザード)に入る以前の問題よ。樹氷の森を抜けたら永久凍国土(ブリザード)は封印されとるし、魔物だけでなく厄災魔物がうろついとる。危なくて危なくて……」

「ふむ……」


 整理すると私のなすべきことは三点。

 一つ目は樹氷の森の薬草を覚え、セッカ先生の常用薬になる薬草を採集してくること。

 二つ目は封印紋章を調べること。おそらく寒波の理由は永久凍国土(ブリザード)から漏れる氷の魔力。なぜ漏れるのか、封印が弱まっている可能性が高い。

 三つ目は厄災魔物の出所。厄災魔物は厄災魔王が世界中にばら撒いている『攻撃』である。しかし、ここ数十年は弱い厄災魔物が永久凍国土(ブリザード)からのみ沸くとされていた。永久凍国土(ブリザード)に行けば、なぜ厄災魔物が沸くのかを調べられる。

 ひいては悲願である厄災魔王を倒す術が見つかれば……。

 いや、当時の――初代賢者ですら封印することしかできなかった厄災魔王を、倒す術などあるのだろうか?

 魔王が封印されて以降、何代もの賢者が倒す方法を見つけられなかったというのに……?

 剣聖の私がそれを見つけるなんて、無理だろう。

 だが、私のような頭の悪い者で無理だとしても、セッカ先生ならもしかして……。


「厄災魔物は確かに強敵だ。私の使っていた剣も折られてしまった」

「え!? そ、そうなのか!? じゃあ、あんたでも厄災魔物は倒せないのか!?」

「だが、この町……いや、ヴォルティスキー王国に残された伝承を聞くと紋章から聖剣を生成できる。実際、聖剣で厄災魔物は倒すことができた」

「た、倒せた!? 厄災魔物はやはり五大英雄ならば倒せるのか!」

「ああ」


 顔を見合わせる夫婦。

 クラッツォ王国では久しく厄災魔物が出ておらず、厄災魔物と戦った経験のある騎士は私を含めいなかった。

 アイストロフィでは『厄災魔物を見たり見つかる前に逃げろ』『戦っても五大英雄以外では倒せない』と言い聞かせられて、冒険者でも逃げ出すように指示されているらしい。

 とにかく硬く、魔法も反射する。

 厄災魔物に通用するのは聖魔力のみと言われており、それ以外のあらゆる力、魔力は3%程度しか通らない。

 実際私がクラッツォ王国から持ってきた剣は折れてしまったしな。


「すごいな! さすがは五大英雄!」

「なので永久凍国土(ブリザード)の調査も私が行う予定だ。永久凍国土(ブリザード)の中に入れるかどうかはわからないが、とにかく行ってみないことには」

「お、おお……そうだな!」

「クラゼリが朝しか見つからないというのなら、まずは明日、行ってみるとしよう。摘んで持ってくる分には問題ないのだよな?」

「ああ。問題ない。種や根は根付かんが、葉や茎は魔力を含んだまま持ち帰ることができる普通の植物だ」


 収納魔法具にしまえば、他の道具や食べ物と同じく保存が可能。

 種から成長するには永久凍国土(ブリザード)の魔力が必要だが、成長さえすれば魔力を含んだ植物らしい。


「そうだ、収納魔法具はどのくらいの大きさのものがある?」

「50キロの収納ポーチがあるな」

「50キロ!? は、はあ……そ、そんだけありゃあ問題ないが……そんなもん市民にゃあ手が出ねぇよ。ああ、いや……とにかく摘んだ薬草は収納魔法具に詰めて直接依頼されたもの以外は、一度冒険者協会に持って行って査定してもらえ。今、俺の代理人という紹介状と委任状を書く。しばらくはそっちで買い取ってもらい、自分の生活費なんかに充てるといい」

「わかった」


 気遣ってもらってとても助かる。

 今日動けないのであれば、その冒険者教会の場所などを確認しておくか。



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