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薬草師と薬師の家(1)


「こんにちは」


 玄関扉をノックして、声をかける。

 中からおばあさんの声で「はぁい」という返事が聞こえてきて、扉が開いた。

 小さな眼鏡のこじんまりした白髪の老婆が「あらあら、お客さん?」と微笑む。

 セッカ先生からの紹介状を手渡し、アマル氏に弟子入りをしたいと話すとおばあさんはまた「あらあら」と目を丸くしてから紹介状を受け取ってくれる。


「アマルは寝室なの。まだ怪我が治っていなくてね。どうぞ。お外は寒かったでしょう? スープがあるから、少し待っていてくださいな」

「お構いなく」


 とは言いつつも家の中に招かれる。

 民家だと思ったが室内は店舗になっていた。

 たくさんの瓶詰めの薬が並び、カウンターのガラスケースには上級ポーションが並べられている。

 すごいな、上級ポーションなんて、初めて見た。


「薬草師とは聞いていたが、薬師の仕事までしておられるのか!」

「ええ。専門家ではないけれど。薬師はわたくし」

「え」


 ふふ、とまた上品に笑う彼女はアマル氏の奥さんでメニューラさんというらしい。

 このご夫婦はアマル氏が外壁の外へ出て薬草を摘み、帰宅してから熟練薬師のメニューラさんがポーションや解毒薬、解熱薬などを作る。

 セッカ先生はご自分で薬の調合をするので、薬草をそのまま手渡すらしい。


「セッカ様の飲まれている常用薬に使う『クラゼリ』はセリという薬草の一種なのだけれど、雪の中でしか育たないの。普通の薬草は土に種を植えれば育つのだけれど、あれだけは雪の上でしか生育しない。アマルによると、雪に含まれる魔力で育つ魔植物なのだろうとのことよ」

「ありがとうございます」


 はい、と手渡されたのはカップに入ったオニオンスープ。

 たっぷりと玉ねぎの甘みが詰まったスープを一口飲んで、ほっと息を吐く。

 食べずとも死なないが、こういう、味わうという効果は食べて初めて得られるもの。

 食べることも寝ることも、やはり人間にとって大切なことだと感じる瞬間だ。


「すぐにアマルを連れてくるわね。ゆっくりしておいて」

「よろしく頼む」


 奥の扉に消えていくメニューラさん。

 お店の商品を眺めながら、スープを飲み干す。

 少しして、松葉杖をついた初老の男性がメニューラさんに付き添われて入ってきた。


「わしがアマルだ。あんたがわしの後任の薬草師か」

「アリアリット・プレディターだ。よろしく頼む」

「紹介状を読ませてもらった。……いや、信じられん。五大英雄の一人なのか」

「うむ。今代の『剣聖』である」

「なぜ国を離れたんだ? 五大英雄といえば国守だろう?」

「それは――『ゴツいから』と婚約破棄されて……」

「「ゴツい?」」


 夫婦の声が揃う。

 さすがはご夫婦、息ぴったりだな。

 次に顔を見合わせてから「あんたが?」「まあ、どこが?」と聞いてきた。

 なんだがいつぞやもこんなことを聞かれたような……?


「ええと、私は見ての通り筋肉質でゴツいでしょう?」

「まあ、小柄なくらいよ?」

「ああ、普通の年頃の女の子だろう。あんたがゴツいんじゃあ、雪かき業者のロックや大工のマット、木こりのタックは怪物になっちまう」


 ……やはり私は小柄な部類に見えるのか。そうか。

 

「いや、でも……化粧っ気もないし」

「化粧をなさればよろしいのでは? 白粉も紅もうちに売っているから買って行かれます?」

「鎧を纏い、ドレスの一つも持っていないし」

「仕立てられてはいかがですか? タニアという針子の友人がおりますの。口利きをいたしましょうか?」


 営業かけられてる?


「あ、あとは、あの……女らしい趣味もなく、刺繍したハンカチの一つも殿方に贈ったこともないし!」

「趣味など自分の好きなことをすればいいではないか」

「ハンカチに刺繍して殿方に贈る? まあ、素敵! 今度刺繍をご一緒しましょう? 贈りたい殿方はおられます?」


 え、刺繍って人とやるものなのか?

 贈りたい殿方……?

 そう言われるとセッカ先生の顔が浮かぶ。

 お世話になっているし、ありか?


「え、えっと、あとは話す話題と言ったら魔物の倒し方、剣の訓練の話ばかりだし……」

「剣聖なのだろう? 当たり前では?」

「乗馬を共にすればいつの間にか乗馬勝負になりますし……」

「このあたりじゃあ乗馬勝負なんてできねぇからな。それはよくわからんが……」

「そ、そうか」


 この辺りは雪が積もっているから仕方ないか。

 確かに道がなければ私も馬でここまでくるのは一苦労だった。


「あ、あとは、食事はできるだけ早く多く詰め込むように食べてマナーもなっていないし!」

「そんなもん、お貴族様の基準だろう? 気にすることはねぇさ」


 庶民の感覚で言われると確かに……?


「あとは髪は短く、櫛もリボンも贈ることもできないと言われたし!」

「櫛は髪を整えるものです。長さは関係ありません。それにリボンも髪が短くとも着けることはできますわ。貴族の方にはこだわりがありますのね……?」

「櫛はあれだ。男が女に『俺のために身だしなみを整えててくれ』って意味で贈るもんだ。髪の長い短いで贈らねえってのは男の甲斐性の問題だろ」


 え、そうなんだ?

 あれ? じゃあ私の髪の長さは本当に関係ないな?


「あ! あとはそうだ、胸が……脂肪ではなく胸筋と言われて……!」

「まあ……なんで失礼なことを……!」

「いいじゃねぇか、胸筋。なにがダメなんだ。女だからか? 胸なんざあってもなくても中身がよけりゃそれでいいだろ」


 セッカ先生の時と同じ口宣論破されてしまった。

 あれ? やはりベルレンス様がおかしいのか?

 んんんん?



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