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封印紋章を解く(1)


 翌日、城に行くと図書室の方にセッカ先生がいた。

 声をかけると笑顔で応じてくれたので、体調は問題なさそうだ。


「本当はすぐにでもアマルさんに紹介したいのに、すみません」

「とんでもない。急務というのならこちらの方だろう」

「そうですね。ありがとうございます。では、ご案内しましょう。地下にはこの図書室から行けるんです」


 それで集合場所が城の図書室だったのか。

 車椅子のセッカ先生について隣室に行くと、そちらは資料室。

 黄ばんだ古い書物の他に、紙を束ねただけのものや巻物がある。


「すごい。ここまで三百年前の資料が残っているのは初めて見た。城の図書室なんて政治関係の資料しかないものだと思っていた」

「よその国はそうかもしれませんね。アイストロフィは寒波が始まった頃に教会が撤退してしまい、教会の資料も父が城の図書室に移動させたので」

「では、ここにあるのは教会の資料なのか?」

「半分はそうですね。アイストロフィ……というか元ヴォルティスキー王国の教会は封印核のない国だからととても小さな教会が王都に一つだけだったそうです。教会を管理する教徒も三人しかおらず、他の国に比べて教会からかなり軽視されていたというか……重要度の低い土地とされていたそうです」


 だから教会から移した資料も、おそらく他国に比べて大したものではないのではないか、とのこと。

 しかし少し開いてみただけでも私の知らないことばかり書いてあるのだが……?


「封印核と五大英雄は教会で管理すること? 封印核についての情報は最重要機密として扱い、王家や五大英雄の耳に入れてはならない? どういうことだ?」

「さあ……? ですが、封印核は悪用されては危険なものです。五大英雄も感情のある人間。役割に疲れて反旗を翻す者が現れるとも限らないですし、幼少期から五大英雄を洗脳し、力を悪用せんとする者が現れるやもと危惧していたのかもしれません」


 そうか。

 確かにうちの両親も熱心に私を剣聖として育ててきた。

 剣聖の祖として貴族に召し上げられ、生活を保証されていたにもかかわらず、私が働いていただいた給金も全部自分たちで管理すると言って取り上げていたからな。

 私にとってそれが当たり前だったが、もしも封印核に手を加えようという思想を持っていたとしたら――。

 幼い頃から両親に従順であるように言い含められていたら、確かにあるいはそういうこともあったのかもしれない。


「危険を減らす意味で、情報を規制していたと考えるのはあながち悪いことではないと思いますよ。情報や知識は十分に武器となりますからね」

「そうだな。では、私の紋章が必要な場所というのは?」

「こちらです」


 セッカ先生が促した場所には本棚しかない。

 頭に疑問符がたくさん浮かぶ。

 だが、セッカ先生が一冊の本の背表紙を指で押し込むと、がこん、という音とともに本が沈み込む。

 沈み込んだ本が元に戻ると、今度は本棚がガタンと音を立てて数センチ高くなり、横に動き始めた。


「隠し扉……」

「はい。こちらをご覧ください」

「紋章?」


 本棚が完全に移動し終わると、壁に緑のインクのようなもので紋章が描かれている。

 見たことのない紋章だ。

 私の胸に刻まれている紋章とは違い、魔法陣に近い形。


「封印紋章です。ただ、永久凍国土(ブリザード)内に点在する封印核を守る主柱に刻まれている封印紋章のものとは別物で、おそらく教会に知られぬように私の祖先が刻んだものではないかと思われます」

「セッカ先生の祖先というと、ヴォルティスキー王家の方が?」

「実は私の祖先の一人に五大英雄、賢者がいます。五代目の賢者です。ご子息が私と同じ『持たぬ者』であったという記録がありました。彼の日誌などを読んで、私はこうして生きながらえている。そしてその賢者は五大英雄でありながら、教会の指示には従わずに王族としての役目を優先したそうです」


 その賢者が遺したもの。

 なるほど、だとしたら五大英雄しかこの紋章を開けない理由もわかる。

 しかし、五大英雄の中にも王族がいたのか。

 そしてその王族としての役割を優先……か。

 うーん、五大英雄として生まれて王族としての役割を優先にするのは……どうなのだろう?

 いや、王族なのだから国を背負うのも当たり前、か?

 さぞ悩まれて出した結論なのだろうな。


「開けられそうですか?」

「やってみる」

「よろしくお願いします」


 手を壁の封印紋章にあてがう。

 目を閉じて、集中してみると胸が熱くなる。

 胸の――私の剣聖の紋章が反応している?


『剣聖の乙女ですね』

(あなたは――この封印を施した賢者殿であろうか?)


 信じ難いことに、目を閉じているのに純白の人が浮かび上がる。

 頭で考えたことがそのまま声のように届き、長髪の青年は笑顔で頷く。

 この人、セッカ先生に、似ている。


『その通り。私はレアナス・ヴォルティスキー。ヴォルティスキー王国十二代目の王です。この先の封印になにか御用ですか? 剣聖の乙女』

(原因のよくわからない寒波が、もう三十年以上続いている。ヴォルティスキー王国は国としての体を保てなくなり、現在は王都だけが残されています。この寒波と勇者と初代五大英雄が施した封印が緩んでいる、あるいは弱まっているための寒波ではと思われている。その手がかりをあなたは知っているだろうか?)



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