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新生活に向けて(5)


「アマルさんには私の体調を整える薬を作るための薬草を、外壁の外から採集していただいていました。ですが、元々引退を考えておられたところに骨折の件があって、本格的に後継者を探しておられたところなのです」

「なんと……それはなんというか……痛ましいな」

「はい……。人の多いところではおそらく剣聖の力が強すぎて、現在の関係性を壊してしまうと危惧しておられたアリア嬢にはアルマさんのところで薬草の知識をつけていただいた方がいいかもしれません。薬草は町の薬の材料なので、生活には困らない程度の収入になると思いますし、戦いに無関係ではありません。永久凍国土(ブリザード)の奥地には未知の薬草が生えていると言われているのでアルマさんは長年それを求めておられました。一度話を聞いてみるだけでも、いかがでしょう?」


 それは確かに気になるな。

 薬草を売って生計を立てつつ、永久凍国土(ブリザード)を探索できるというわけか。

 しかも、薬草や薬の知識も学ぶことができる。

 

「うん、いいな! やってみたい!」

「では、アルマに手紙を書いておきますね。アリア嬢の事情と、今後の世話をお願いするものです。では次は家ですね」

「家……」

「これまでは貴族として過ごされてきたのですよね? では、やはりそれなりの屋敷と使用人が必要でしょうか? 正直剣聖が住めるような屋敷は、我が町にはないので最悪建設からしなければならないのですが、それも土地が余っているわけではありませんから空間拡張で済ませていただければと思うのですが」

「空間拡張? それも新型魔法だろうか?」

「はい。柱に紋章と魔法陣を刻んだ魔法陣を核として埋め込み、任意の大きさに空間を拡張して固定するものです。少し難しいので、現時点だと私にしか紋章と魔法陣の実行ができないのです」


 この人、やっぱりすごいな。

 知識もさることながら紋章や魔法陣を刻む技術にも長けている。

 いや、そもそも古代魔法と現代魔法を融合して新しい魔法の形を作り上げる時点で只者ではない。

 普通、思ってもできないだろう。

 それを可能にする膨大な知識量と技術力。

 そして発想力と、柔軟な対応力。

 衰退してすでに国という体裁を取れぬほどに人口も土地もなくなってしまったアイストロフィという町だが、この町の長だった一族はかつてこの土地が国だった時代の“王族”。

 つまり、彼は王家の末裔ということ。

 クラッツォ王国の王都ほどあるこの町でさえ、これほど見事に治めているのだ。

 土地や人口が戻ればさぞよき賢王として歴史に名を刻めるであろうに。


「――アリア嬢?」

「あ、申し訳ない。他のことを考えてしまっていた。もう一度聞いてもよいだろうか?」

「ええ、構いませんよ。ここにきたばかりで考えるべきことはたくさんありますよね。ですが、やはりまずは住む場所を決めましょう。私は同行できませんが、空間拡張を使えばクラッツォ王国にいた頃のような広い家に住むことはできます。なので、見た目は手狭かもしれませんが空き家を何軒か見ていただき、その中から住む家を決めてはいかがですか? と」


 しまった。そうだった。

 その話をしている最中だった。

 正直一人で寮にいて、軍部の仕事をしていることが多くていまいち自分の家を持ち、そこで過ごすということがピンとこない。

 だが、今後はそうも言っていられないんだよな。


「なるほど理解した! えっと、しかし空き家がどこにあるのかを聞いてもいいだろうか?」

「不動産を任せているケイジとその妻であるエイラに案内をお願いしますから、大丈夫ですよ。住む家を決めたら家具をヨーデルのお店で購入されるとよろしいでしょう。それと、自炊などができないのでしたら料理人を雇ったり城や町の中の食堂や露店を利用してください。その他、掃除や洗濯も代わりにやってくれる使用人が必要だと判断されたら私に相談してください。有料にはなりますが、孤児院の子たちを派遣します」

 

 孤児院の、子ども?

 よほど私の顔に全部出ていたのか、セッカ先生がにこやかに「孤児院の子たちには家事代行で稼いでもらっているのですよ。女の子はその方が孤児ということも気にせずにお嫁さんの貰い手が現れますし、男の子も仕事好きな女性に好まれるので」という話だった。

 そもそも、この町の住人は隣国から口減しで流れ着いた者が多い。

 孤児院の子どもは特に……その……赤子のまま口減しとして捨てられた子がほとんど。

 町の中で親が両方亡くなった子は近所の家が引き取って、その家の子として育てられるが隣国から捨てられた子たちはそうはいかない。

 城の中の孤児院で、城の掃除や自分たちの洗濯、食堂の手伝いなどで家事を覚えさせ、町の人たちの行き届かない家事を代行してお金を稼いで生活しているのだそうだ。

 時間があれば城の図書館で勉強して、自分の将来を考えることも教えるという。

 クラッツォ王国の孤児とは比べ物にならないほどに自由度の高い人生だな、と感心してしまった。

 だが、それはつまり家事代行を頼まないと孤児たちの収入源がない、ということだ。

 セッカ先生のために外壁の外に出て薬草を探しに行くような優しいあの子たちが、生活ができなくなる。


「わかった! 家事代行を依頼したいと思う!」

「ありがとうございます。ええと、でも、その……一応お金がかかるものなので、とりあえずアリア嬢自身の生活が安定してからでも大丈夫ですよ。安定する前に家の中や食事が大変、という時は気軽に頼んでいただきたいですが」

「お金……」



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