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普通と剣聖


 風呂から上がると髪を乾かす。

 魔法で髪を乾かして、ロールとレサの髪も同じように乾かしてやる。


「すごーい。剣聖のお姉ちゃん魔法も使えるんだー」

「うん? うん……まあ? え? 魔法は誰でも使えるものではないのか?」

「レサとロールはまだ幼いもの。魔法は十歳以降でしょう」

「え……あ、ああ、そうか。普通はそうなのだな」


 ちょっと驚いてしまったが、普通の人間は魔力の制御を、魔力を用いても反動がほとんどなくなる程度に成長した状態――十歳前後の肉体になってから覚えるそうだ。

 あと、確か使える属性がはっきりとわかるのも十歳前後、なんだったかな。

 それまで生きてきた中で相性のよい属性が確立するから、とかなんとか。

 私の場合、生まれながらに『剣聖の紋章』で規格外の体と魔力量を持っていた。

 それに五大英雄は確定で『聖魔力』の属性と、『地水火風雷氷』の全属性が使える。

 五歳の時には大規模攻撃魔法を使いそうになって、城の魔法師や神殿の魔法師が総動員で止めたとかなんとか。

 ……残念ながらまったく覚えていないんだけど。

 ただ、そのことが原因で私は神殿からも、城からも誰からも怯えられる存在となったんだ。

 実際自分の力の限界が見えない。

 こんな生き物、人とは呼べない。

 私の存在は“普通の人”から見たら――いや、やめよう。


「あーあ、早く魔法を使いたいなー」

「魔法を付与した魔石を使えばいいのでは?」

「そんなのつまんないよー。やっぱり魔法を自分で使いたいー」

「そういうものなのか」

「レサはどの属性を使いたいの? やっぱり火属性?」

「うーん。水属性もいいよね。雪を浄化して飲み水にするの。あと、牛さんや馬さんの飲み水を作ってお世話したり!」

「そうね」

「ロール、かぜのまほうがいい! あったかいかぜ、すき!」

「そうね。風の魔法も通気設備には必須だものね」


 三人の会話を聞きながら、普通の人間はこんなふうに自分の“育て方”を悩みながら考えていくのかと顔半分を湯船に浸けた。

 私は最初から使えたから。

 普通の人たちはこうやって交流していたのだな。

 私にはできない話だから……。


「剣聖のお姉ちゃんはなに属性の魔法が使えるの?」

「えっと、私は生まれつき紋章の力で地水火風雷氷と聖魔力が使えるんだ」

「え! すごーい! 聖魔力って五大英雄しか使えないんだよね? どんな力があるの?」

「回復と防御の力だな。聖魔力はあるだけで体を頑丈にしてくれるのだ。病気には罹らないし、剣で斬られても怪我をしない。その気になれば疲労も気絶もしないし、睡眠も必要としないんだ」

「すごーい」

「想像もつかないわ。でも、病気にならないなんで健康的でいいわね」


 なんの悪意もなくそう言われて、少し肩から力が抜けた。

 貴族に話せばだいたいの人が気味悪がるのだが。

 同僚や部下の騎士たちにさえ口の端を引き攣らされたり。

 事務仕事以外の会話をしないのが、私という人間。

 友人なんて未だかつて、ただの一人もいなかったから会話がこれでいいのかだんだん不安になってきた。


「アリアさんは本当に剣聖なのね。剣聖は国を守る存在だと聞いたけれど、国から離れてよかったの?」

「ええと……私は国外追放された身なのだ。私の生まれた国では今後、平和路線を取るので戦いに秀でている私は国に相応しくないからと」

「な、なにそれ? 意味がわからないわ。厄災魔王は封印されたままなのに、平和路線? 平和は確かに大切にすべきものだけれど、その平和を維持しておられるのは五大英雄よ? 今まで頼っておきながら、国外追放だなんて……」

「まあ、国外追放されて私は喜んで永久凍国土(ブリザード)を探索したくてここまできたのだ。むしろ渡りに船というやつだと思う」

「そう、なの? それなら……」


 そうだ。

 私は今まで普通ではなかった。

 ずっとあの国で“国守”という“兵器”であり続けるよりも、わざわざ向こうから手放してくれたのだから自由に生きよう。

 やりたいことをやろう。

 アリアリット・プレディターという一人の人間に、今度こそなろう。


「その、実際永久凍国土(ブリザード)はどんな場所なのだろう? よそ者ではあるが、入れたりするか?」

「ええ? ごめんなさい。私にはわからないわ。町から出るのは危ないから……。詳しい人に聞いた方がいいわね。外へ薬草を摘みにいく薬草師のアマルとか……永久凍国土(ブリザード)探索に行くロット組とかかしら?」

永久凍国土(ブリザード)探索をやっているものたちがいるのか!?」

「ええ。セッカ先生主導で探索が行われているわ。永久凍国土(ブリザード)の最奥にこそ、厄災魔王が封印されているのではないか、と言われているの」

「厄災魔王が!?」


 厄災魔王――厄災魔物の“親”。

 災害を引き起こす厄災魔物を世に放ち、世界からただただ『生き物を殺す』ことに執着した魔物の王。

 三百年前、異世界より召喚された勇者リードが五大英雄とともに封印した。

 だが、封印されてもなお、厄災魔物が世に解き放たれ続ける。

 封印の場所は悪しき者に知られて解かれることを危惧し、神殿により秘匿されていたはず。

 その封印の地が永久凍国土(ブリザード)だというのか?


「だが、封印の地だと暴いてどうするのだ? 三百年前の五大英雄に勇者までいたというのに、厄災魔王は倒せなかったのだぞ?」

「私に聞かれても……」

「う……そ、そうか。申し訳ない」


 ではやはりセッカ先生に聞いてみるのが一番手っ取り早いのか。

 今日は休ませてもらって、明日、改めて聞いてみることにしよう。



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― 新着の感想 ―
質問なのですが。  三人の会話を聞きながら、普通の人間はこんなふうに自分の“育て方”を悩みながら考えていくのかと顔半分を湯船に浸けた。 とありますが、冒頭でお風呂から上がって魔法で髪を乾かして、そ…
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