第20話:第三病棟へ
全ての証拠と、証人が揃った。
錬金術師の身柄を保護したアレクシスは、その足で王宮へと向かい、再び国王アルフレッド三世に謁見した。
「――以上が、事件の全容です。原因は、院長の無知と、錬金術師の善意が引き起こした、偶発的な化学反応による中毒死。錬金術師は、証言を約束しております」
アレクシスは、法の正義に基づき、院長の速やかな逮捕と、真相の公表を王に求めた。
だが、国王の表情は晴れない。玉座から見下ろすその瞳には、深い憂慮の色が浮かんでいた。
「…アレクシスよ。事を公にする、というか。それは、教会そのものの権威を、王権の名の下に否定することに繋がる。マクシミリアン大司教が、それを黙って見ていると思うか」
「ですが、陛下。これは白昼夢などではない。現実に、多くの民が命を落としているのです。その真実を闇に葬ることなど、断じて許されませぬ」
教会との全面対決を避けたい国王と、真相を公にしたいアレクシス。二人の信念が、玉座の間で、火花を散らすかのように激しくぶつかり合う。
長い、長い沈黙。
やがて、国王は、深く、重いため息をつくと、一つの決断を下した。
「…良かろう。だが、王命としてではない。あくまで、教会内部の問題として処理せよ。そなたたち特務捜査課は、その介入を支援する、という名目で動くのだ。余は、何も見ていない。よいな」
それは、苦渋に満ちた、しかし、最大限の譲歩だった。王は、アレクシスの正義を信じ、最後の賭けに出たのだ。
国王の暗黙の許可を得たアレクシスは、リンネ、そして、顔面蒼白ながらも覚悟を決めた錬金術師を伴い、最後の舞台へと向かった。
向かう先は、全ての悲劇が生まれた場所――施療院、第三病棟。
施療院に到着したアレクシスは、驚愕するシスターたちを前に、王の騎士としての威厳に満ちた声で、静かに、しかし、有無を言わさぬ力強さで命じた。
「――院長をはじめ、この施療院の全関係者を、第三病棟へ。ただちに、全員を集めなさい」
最後の幕が、上がろうとしていた。
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