表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/51

第9話:剣と十字架


院長の報告が上がったのか、あるいは、アレクシスの存在そのものが、この聖域を統べる者の注意を引いたのか。

数日後、彼の元を、一人の青年神官が訪れた。

輝くような金髪に、澄んだ青い瞳。純白の祭服の上に、教会の紋章が刻まれた銀の胸当てを身に着けている。その立ち姿には、神に仕える者の静謐さと、鍛え上げられた騎士の隙のなさが、奇妙な均衡で同居していた。


神官騎士、テオドール。教会が設立した騎士修道会の若きエースであり、アレクシスにとっては、忘れえぬ好敵手ライバルだった。


「――クライスト卿、久しいな。君がこのような場所にいるとは」


穏やかな、しかし、探るようなテオドールの声に、アレクシスの脳裏に数年前の光景が蘇る。

王都の大聖堂で行われた、王国騎士団と騎士修道会の合同叙勲式。その年の首席騎士の座を、二人は最後まで競い合った。

実技――すなわち剣の腕では、アレクシスが首席となった。

だが、神学と教義――すなわち十字架への理解では、テオドールが首席となった。

互いの剣技を、そして互いの信念を、二人はあの時から認め合っていた。


「テオドール卿。君こそ、大聖堂にいるべき男かと思っていたが」

アレクシスは、警備員の詰め所の粗末な椅子に腰かけたまま、静かに応じた。


テオドールは、悲しむように僅かに眉を寄せると、ゆっくりと口を開いた。その声には、敵意や圧力ではなく、かつてのライバルに対する、心からの「憂慮」が滲んでいた。

「君の剣が王に仕えるように、私の剣は神に仕える。それは、国を支える二本の柱だと、今も信じている」


彼は、アレクシスの鋼色の瞳を真っ直ぐに見つめた。

「だからこそ、問わせてほしい、クライスト卿。神が下された裁きを、人の手で覆そうとすることは、かえって民の心を惑わせ、より大きな混乱を招くのではないか。我らが救うべきは、一人の死の真相か、それとも、神罰に怯える、全ての民の魂の平穏か」


それは、尋問ではなかった。

同じ「国を思う者」として、純粋な信仰の論理で、アレクシスを説得しようとする、誠実な試みだった。

アレクシスは、目の前の男が、腐敗した教会の尖兵などではないことを、痛いほど理解した。彼は、自らが信じる正義のために、ここに立っている。

そして、その正義は、アレクシスの正義とは、決して交わることがない。


二人の間に、冷たく、重い沈黙が落ちた。

ご覧いただきありがとうございました。感想や評価、ブックマークで応援いただけますと幸いです。また、他にも作品を連載しているので、ご興味ある方はぜひご覧ください。HTMLリンクも掲載しています。

次回は基本的に20時過ぎ、または不定期で公開予定です

活動報告やX(旧Twitter)でも制作裏話等更新しています。

作者マイページ:https://mypage.syosetu.com/1166591/

Xアカウント:@tukimatirefrain

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ