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伝説の【紅蓮の竜殺し】の女冒険者は、なぜか気弱な鍛冶職人が気になって仕方ありません~最強と最弱の二人の恋の物語  作者: かずまさこうき


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最終話:紅蓮の竜殺し、永遠を誓う

 ユーイのプロポーズは、私の人生に、これまでにない確かな光をもたらした。翡翠の宝石が輝く指輪が薬指にはめられた瞬間、私の心は温かい幸福感で満たされた。

 私は、彼の言葉に、ただ「ああ」と頷くことしかできなかったが、その一文字に込めた想いは、私の人生の全てだった。


「ロレッタさん……本当に、ありがとう」


 ユーイは、私の手を取ったまま、何度もそう繰り返した。彼の瞳は、喜びと安堵に満ちていた。私は、彼のそんな純粋な姿を見るたび、この温かい場所を守りたいという気持ちが、より一層強くなるのを感じていた。


 それから数週間、キサラエレブの街は、災厄の黒竜ドラウグル討伐の興奮冷めやらぬ中、私たち二人の結婚の話題で持ちきりになった。冒険者ギルドマスターのバートは、私の結婚を心底嬉しがっているようだった。


「ハハハ! まさかあの『紅蓮の竜殺し』が、一人の男に落ち着くとはな! しかも、相手が鍛冶屋の坊主とは! まったく、人生は何が起こるか分からんもんだ!」


 バートは、そう言って豪快に笑い飛ばした。彼のからかいの言葉も、今の私には心地よく響いた。

 街の人々もまた、Sランク冒険者である私と、気弱な鍛冶師であるユーイの結婚に、驚きながらも温かい祝福の言葉をかけてくれた。


「おめでとう、ロレッタさん! ユーイくんのこと、頼んだよ!」

「ロレッタさんも、ユーイくんの隣にいると、優しい顔をするんだね!」


 そんな言葉が、私の耳に届くたび、私の胸は満たされていく。

 私は、これまで「紅蓮の竜殺し」として、強さだけを追い求めてきた。だが、ユーイと出会い、彼を愛するようになって、私は新たな自分を見つけることができたのだ。


 結婚式の準備は、ユーイが中心となって進めてくれた。彼は、私の意見を尊重しながらも、一つ一つ丁寧に、そして楽しそうに準備を進めていく。


「ロレッタさん、ドレスはどんなものが好みかな? 純白の、シンプルなものが似合うと思うけど、ロレッタさんの強さを表すような、炎の色が入ったものも素敵かもしれないね」


 ユーイが差し出すドレスの絵柄を、私は食い入るように見つめた。これまで、私の衣服は、戦場での動きやすさを重視した、実用的なものばかりだった。

 こんなにも華やかで、美しいドレスを選ぶことなど、私の人生にはなかった経験だ。私は、彼の言葉に、少しだけ照れた。


「……貴様が、良いと思うもので構わない」


 私は、不器用ながらも、彼の感性を信頼していることを伝えた。ユーイは、私の言葉に嬉しそうに微笑んだ。その笑顔は、私にとって何よりも価値のあるものだった。

 そして、結婚指輪。ユーイは、私の指に嵌めてくれた婚約指輪とは別に、もう一つ、私と彼のための結婚指輪を打つと申し出た。


「これは、僕がロレッタさんへの感謝と愛を込めて打った、魂の指輪だ。でも、結婚指輪は、僕たちの永遠の誓いを形にしたものにしたいんだ。だから、ロレッタさんの意見も聞いて、一緒にデザインを考えたいな」


 ユーイは、そう言って、瞳を輝かせた。私は、彼の提案に、心から感動した。彼が、私との未来を、これほどまでに大切に考えてくれているのだ。

 私たちは、毎日、鍛冶屋で指輪のデザインについて話し合った。ユーイは、私が何気なく口にした言葉や、私の手の形、私の瞳の色まで、細やかに記憶していた。彼が提案するデザインは、どれも私の心に響くものばかりだった。


「ロレッタさんの強さと、僕の鍛冶師としての誇りを表すような、それでいて、僕たちの未来を象徴するような……そんな指輪にしたい」


 ユーイは、そう言って、熱心に指輪を打つ作業に取り掛かった。彼の真剣な横顔を見るたび、私は、この男を愛する喜びを噛み締めていた。炎の中で輝く指輪は、まるで私たちの未来を象徴しているかのようだった。


 そんな幸福な日々の中、思わぬ訪問者が現れた。それは、リリアだった。彼女は、鉱山都市での一件以来、街を離れていたはずだった。鍛冶屋の扉を開けて入ってきたリリアは、以前のような華やかさはなく、どこか憔悴しているように見えた。

 ユーイと私は、彼女の突然の訪問に、一瞬言葉を失った。私は、反射的にユーイの前に立ちはだかり、彼を守るような姿勢を取ってしまった。リリアの瞳は、私とユーイ、そして私の左手の薬指に輝く婚約指輪を捉え、その顔は、再び絶望の色を帯びた。


「……ロレッタさん、ユーイくん」


 リリアの声は、ひどく掠れていた。彼女は、ゆっくりと、しかし確実に、私たちに近づいてきた。私は、いつでも剣を抜けるように、身構えた。


「リリア……どうしてここに……」


 ユーイが、困惑した表情でそう尋ねた。


「私……街を離れて、色々と考えていたの。ユーイくんへの気持ちも、ロレッタさんへの嫉妬も、何もかも……」


 リリアは、そう言うと、私たちから視線を逸らし、自嘲するように笑った。その顔には、以前のような傲慢さはなく、ただ寂しさが浮かんでいた。


「私の気持ちが、ユーイくんを、そしてロレッタさんを困らせていたこと……分かっているわ。ごめんなさい……」

 リリアの口から出たのは、謝罪の言葉だった。私は、驚きを隠せない。彼女が、こんなにも素直に、自分の非を認めるなど。


「私、ずっとユーイくんのそばにいたから、ユーイくんのことは誰よりも理解しているって、そう思っていたの。でも、違った。ロレッタさんが、本当にユーイくんの心を、まっすぐ見ていた。そのことに、気づかされたわ」


 リリアは、そう言うと、私の左手の指輪をそっと見つめた。その瞳には、まだ悲しみが宿っていたが、以前のような、私への憎悪は感じられなかった。


「おめでとう、ロレッタさん。そして、ユーイくん。あなたたちは、本当にお似合いよ。私では、ユーイくんの隣に立つことはできなかった。彼を、彼の夢を、心から理解し、支えられるのは、ロレッタさん、あなたしかいないわ」


 リリアは、そう言うと、かすかに微笑んだ。その笑顔は、どこか吹っ切れたような、清々しいものだった。そして、彼女は、私の手をそっと取り、その手のひらに、小さな包みを置いた。


「これは……私からのお祝いよ。二人の幸せを、心から願っているわ」


 リリアは、それだけを言うと、私たちに背を向け、静かに鍛冶屋を後にした。その背中は、以前の自信に満ちたものではなく、しかし、確かな強さを感じさせるものだった。彼女は、きっと、この街を離れて、自分自身の新たな道を見つけるのだろう。

 リリアが去った後、鍛冶屋の中は、再び静寂に包まれた。ユーイは、私の手を取ったまま、彼女の背中を見送っていた。


「リリア……彼女も、きっと幸せになるよ」


 ユーイの言葉に、私は静かに頷いた。私の心には、リリアへの感謝と、そして彼女の新たな門出を願う気持ちが芽生えていた。


◇◇◇◇


 そして、結婚式当日。

 キサラエレブの街は、この日を心待ちにしていたかのように、朝からお祭りムードに包まれていた。街の広場は、色鮮やかな花々で飾られ、人々は皆、笑顔で私たちの結婚を祝福してくれていた。

 冒険者ギルドの冒険者たちも、鍛冶師仲間たちも、そして、ヴァルカン師匠も、皆が私たちのために集まってくれたのだ。

 本来なら教会で執り行うべきところを、ユーイが「ロレッタさんの晴れ姿を、この街の人たちみんなに見て、祝福してもらいたいんです」と、少し照れながらも、私に広場での開催を提案してくれたのだ。その彼の純粋な願いに、街の人々も快く協力してくれた。


 私は、ユーイが心を込めて選んでくれた純白のドレスを身につけていた。その柔らかな生地が肌に触れる感覚、そしてこれまで身につけてきた鎧とは全く異なる軽やかさに、どこか落ち着かないような、しかし胸が躍るような不思議な心地がした。

 それは、私の肌の色によく映え、私の強さを引き立てながらも、女性らしい柔らかさを引き出すような、繊細なデザインだった。

 私自身、こんなに美しいドレスを着ることになるとは、夢にも思わなかった。鏡に映る自分の姿は、まるで別人かのようだった。しかし、私の瞳には、偽りない喜びの光が宿っていた。

 ヴァルカン師匠は、私の姿を見ると、豪快に笑った。


「ハハハ!まったく、見違えたな、ロレッタ! お前がこんなに女らしい顔をするとは! やれやれ、私の教え子が、ついに誰かの嫁になるとはな!」


 師匠の言葉に、私は少しだけ照れたが、その言葉には、私への深い愛情が込められているのが分かった。師匠は、私の頭をポンと叩き、優しく微笑んだ。


「幸せになれよ、ロレッタ。お前は、最強の剣士であり、そして、その強さに見合うだけの幸せを掴める人間だ。」


 その言葉に、私は思わず涙が溢れそうになった。

 師匠は、いつも私を「最強の剣士」として見てくれていた。だが、今、彼は私を「最高の女」だと言ってくれた。それは、私がユーイと出会い、彼を愛するようになって得た、もう一つの「強さ」だった。

 広場の祭壇へと向かう道。私の隣には、真新しい礼服を身につけたユーイが立っていた。

 彼の顔は、緊張と喜びで少しだけこわばっていたが、その瞳は、真っ直ぐに私を見つめていた。彼の隣に立つと、私の心は、この上ない安堵と幸福感で満たされた。


 祭壇の前には、厳かな佇まいの教会の司祭が立っていた。彼の口から、祝福の言葉が紡がれる。


「ユーイ、ロレッタ。二人は、いかなる時も、互いを愛し、支え合うことを誓いますか?」


 ユーイは、私の手を強く握り、迷いなく答えた。


「はい、誓います!」


 彼の声は、緊張しながらも、力強く、そしてはっきりと響き渡った。私の胸が、熱くなる。

そして、私の番が来た。私は、ユーイの瞳をまっすぐ見つめ、心を込めて答えた。


「はい、誓います」


 私の声は、これまで出したことのないほど、優しく、そして震えていた。だが、その一言には、私の全ての愛と、彼と共に生きていく覚悟が込められていた。

 指輪の交換。ユーイが、私と二人でデザインを考え、心を込めて打ってくれた、あの結婚指輪が、私の薬指に輝く。それは、私たちの愛と、未来への誓いの証だった。


「誓いのキスを」


 司祭の言葉に、バートの言葉に、ユーイがゆっくりと私に顔を近づけた。彼の唇が、私の唇に触れる。

 その瞬間、私はためらいもなく彼の首に腕を回し、すべての想いを込めて彼の唇を深く受け止めた。

 ユーイの身体は驚いたように一瞬硬直したが、すぐに私の背に回した腕に力を込め、熱く震える吐息を漏らした。

 それは、戦場で感じたどんな熱よりも、私の心を焦がすほどの、情熱的な炎だった。互いの存在を確かめ合うかのように、そのキスは長く、深く続いた。


 街の人々からの、大きな拍手と祝福の声が、私たちを包み込んだ。空には、祝福の花びらが舞い、その中で、私たちは固く抱きしめ合った。

 その中で、冒険者ギルドマスターのバートが、人一倍大きな声で「おめでとう!」と叫び、私たちに向けて惜しみない拍手を送っているのが見えた。彼の顔は、心からの喜びに満ちていた。


 私は、もう「最強の剣士」であることだけが全てではない。ユーイの隣で、彼の夢を支え、彼の光となり、そして、彼と共に、穏やかな日常を築いていく。それが、私の新たな使命だ。


「ユーイ……」


 私が彼の名を呼ぶと、彼は私を抱きしめる腕に、さらに力を込めた。私の身体が彼の体温に包み込まれ、心臓が幸福で高鳴る。


「ロレッタ……愛してる」


 彼の言葉が、私の耳元で熱い吐息と共に囁かれる。その言葉に、私の心は、この上ない幸福感で満たされた。

 私は、彼に抱きしめられたまま、顔を赤らめるのも構わず、彼の胸に深く顔を埋めた。

 そして、込み上げる感情で掠れるような声になったが、彼の腕の中で、確かに、想いを伝えた。


「わ……私も、あ、あなたを愛している……」



 私とユーイの物語は、今、新たな章へと突入する。


 最強の「紅蓮の竜殺し」は、最愛の鍛冶師の妻となり、二人の絆は、この街の伝説となるだろう。


 私たちは、互いの光となり、手を取り合い、永遠の未来へと歩んでいくのだ。

(完)



 この物語を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

 今後の創作活動の励みになりますので、作品へのご評価(下の☆をタップ)や率直な感想をいただけると幸いです。

 なお、明日から新しい恋愛小説の連載開始します。どうぞお楽しみに。

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