表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説の【紅蓮の竜殺し】の女冒険者は、なぜか気弱な鍛冶職人が気になって仕方ありません~最強と最弱の二人の恋の物語  作者: かずまさこうき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/18

第17話:紅蓮の竜殺し、帰還する

 黒竜を退治した後、私は傷だらけの身体を引きずりながら、数日かけてキサラエレブの街へと帰還した。街の門をくぐると、すぐに冒険者ギルドマスターのバートが駆け寄ってきた。彼の顔には、安堵と、そして私を労う表情が浮かんでいた。


「ロレッタ! 無事だったか! 心配したぞ、よくぞ生きて帰ってきてくれた!」


 バートの言葉に、私はようやく緊張の糸が切れたように、その場でへたり込んだ。その時、バートは私のひどい怪我に改めて気づき、その顔にははっきりとした焦りの色が浮かんだ。


「これほどの怪我で、よく帰ってこれたな……! すぐに医者を呼ぶ!」


 バートが指示を出そうとするのを制し、私はへたり込んだまま、震える声で彼に告げた。


「待て……強大な魔物は……災厄の黒竜ドラウグルだった。そして……奴は、私が仕留めた。」


 私の言葉に、バートの顔から血の気が引いていくのが見えた。彼は信じられないといった表情で私を見つめ、やがて深いため息をついた。


「…そうか……まさか、本当にドラウグルだったとは……よくやった、ロレッタ。お前はまた、この街を救ったのだ!」


 バートは、震える声でそう言い、私の肩に手を置いた。だが、私の心は、別の場所にあった。


「……ユーイは……?」


私の口から、次に飛び出したのは、彼の名前だった。


「ああ、鍛冶屋にいる。お前が帰ってくるのを、ずっと心配して待っていたぞ」

 

バートの言葉に、私の胸は温かくなった。


 「治療は……後でいい。どうしても、あいつに、伝えたいことがある……」


 すぐにでも、ユーイの顔が見たかった。

 すぐにでもユーイを安心させたかった。

 私は、バートの好意を断って、満身創痍の身体を引きずりながら、鍛冶屋へと向かった。扉を開けると、そこには、いつものように火床の前に立つユーイの姿があった。

 彼が私が扉を開ける音に気づき、こちらを振り向いた。彼の瞳が私の姿を捉えると、その顔は、喜びと安堵の表情で輝く。


「ロレッタさん! 無事だったんだね! 良かった……本当に良かった!」


 ユーイは、駆け寄ってきて私の身体を支えた。彼の瞳には、涙が浮かんでいる。その純粋な喜びに、私の心は満たされていく。


「ああ。当然だろう。貴様との約束を、破るわけにはいかないからな」


私は、力なく笑った。ユーイは私の身体の傷を見て、顔を曇らせる。


「ひどい怪我だ……! こんなになるまで……! すぐに医者を呼ばないと!」


 ユーイはそう言って、私をベッドへと促し、焦れたように医者を呼ぼうと駆け出しかけた。だが、私は彼の腕を掴み、その手を止めた。


「待て……医者は、後でいい。今は……貴様が、傍にいてくれれば……」


  私の言葉に、ユーイは目を見開く。そして、まだ震える手で、私の顔に触れた。


「ロレッタさん……」


 彼は、私の身体を支え、ゆっくりとベッドまで寄り添ってくれた。

 それから、傷口を凝視し、痛みを和らげようとするかのように、優しくその周囲を撫でてくれた。慣れない手つきで応急処置の布を当ててくれる彼の、その不器用で優しい手つきに、私は心が温かくなる。

 この手が、私を守ってくれる。この手が、私を癒してくれる。

 ユーイがひとしきり応急処置を終えると、私の傍らに静かに座ってくれた。その温かい眼差しに、張り詰めていた私の緊張の糸は完全に緩み、私はそのまま深い眠りに落ちていった。

 後でユーイから聞いた話では、私が眠った後すぐに医者が呼ばれ、本格的な治療が行われたようだった。


◇◇◇◇


 数日が経ち、私の傷も癒え、体力も回復してきた頃、ユーイは、そっと私に、一つの小箱を差し出した。


「ロレッタさん……あなたが旅に出ている間、僕にできることは何か、ずっと考えていたんだ。貴女あなたの剣をさらに強化するための素材を探したり、鍛冶の腕を磨いたり……でも、それだけじゃなくて」


 ユーイは、少し照れたように、言葉を選びながら続けた。


貴女あなたが、僕にとってどれだけ大切な存在なのか、改めて痛感したんだ。貴女あなたがいない間、僕は、一日たりとも、貴女あなたのことを考えない日はなかった。貴女あなたがいない世界なんて、考えられない」


 彼の言葉に、私の心臓が、激しく高鳴った。彼の真剣な眼差しが、私の瞳を射抜く。


「だから……これを、僕から貴女あなたに。僕が、心を込めて打ったんだ」


 ユーイが小箱を開けると、そこには、光り輝く指輪が収められていた。それは、銀色の輝きを放ち、中央には、私の瞳の色と同じ、美しい翡翠の宝石が埋め込まれていた。

 そして、その指輪の表面には、細やかな彫刻が施されている。それは、炎を纏った剣の模様と、星の光が交差するような、繊細なデザインだった。


「これは……」


 私は、その美しさと、ユーイの想いの詰まった指輪に、息を呑んだ。


「これは、僕の魂の全てを込めて打った、世界に一つだけの指輪だ。そして、このデザインは、僕がロレッタさんと旅をして、夜空の星を見た時に、貴女あなたに話した、僕の夢の剣のイメージなんだ」


 ユーイは、私の手を取り、その指輪をそっと私の左手の薬指にはめた。指輪は、私の指に、ぴったりと吸い付くようにフィットした。


「ロレッタさん……僕と、結婚してください。これからも、ずっと、僕の隣にいて、僕の光でいてほしい。そして、僕も、ロレッタさんの隣で、貴女あなたを支え、守り続けたい。どんな時も、貴女あなたの居場所は、僕の隣だから」


 ユーイの言葉は、飾らない、しかし真剣な、彼自身の言葉だった。彼の瞳には、私への揺るぎない愛と、共に生きていきたいという強い決意が宿っていた。


 私の心は、幸福感でいっぱいになった。私は、彼が私にくれたこの指輪と、彼の言葉の重さを、全身で感じていた。最強の「紅蓮の竜殺し」として生きてきた私にとって、こんなにも温かく、穏やかな感情は、初めてのことだった。


 私は、彼の言葉に、涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。私の口からは、一つの言葉しか出てこなかった。


「……ああ」


 そして私は、彼の頬に手を伸ばし、そして、そっと、彼にキスをした。触れるだけのつもりが、私の唇は自然と彼の唇に吸い寄せられるように重なり、そのまますべての想いを込めるかのように深く、長く続いた。

 ユーイの身体が、私の口づけに、熱く震えるのを感じる。

 このキスは、私たち二人の、新たな未来への誓いだった。


 最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

 今後の励みになりますので、もしよろしければブックマークしていただけると幸いです。

 次回はいよいよ最終話です。本日20時過ぎに更新します。お楽しみに!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ