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第9話「ある程度失敗しないと身につかないからね」

 昼休み。紅白戦が近づき、緊張と高揚で賑やかさが増す。


 弁当のちくわの天ぷらをおいしそうに食べる大志に、思いきって聞くことにした。


「草薙さんってどんな人?」


「なんだ、気になるか」

 大志がちくわを一旦置いた。


「だって上手な人だから」


「まあな」


「凄い先輩って草薙さんのことだったんだね」

「そうだぜ」


「大志は草薙さんと仲がいいの?」


 大志がちくわを食べ終えた。


「俺の兄貴と香梨さんの兄貴はシニアでバッテリーだった。その縁で親同士も仲がよくてさ。俺と香梨さんもリトルでよく話してた」


「めちゃくちゃ仲いいじゃん!」


 大志は友樹の様子を見て、面白そうににやりとした。


「他には二年の福山(まなぶ)さんも香梨さんと仲いいぜ。学さんの姉貴も同じリトルで、女子同士香梨さんとつるんでたからな。それで弟の学さんも香梨さんと話すことが多くてさ」


 ほら、と大志が誰が『学さん』か教えてくれた。草薙と弁当を一緒に食べている男子2人のうちの1人、むちっとしている人だった。


「福山学さんだ。ちなみにもう一人は檜雄大(ゆうだい)さん。雄大さんは誰とでも仲がいい」

「ほー……」


 檜はすらっとしている。


 友樹は分からないことだらけの草薙の目を見た。切れ長で睫毛が長く、少し伏せれば怒っているみたいで、少し細めれば笑っているみたいだった。

 福山と檜に笑顔を向けている。仲がよさそうで友樹は羨ましいと思った。


「いいなあ」

「そうか、香梨さんが好きか」


「小学生からのチームメイトと一緒で」

「なんだ、そっちか」


 つまんねーの、と笑いながら、大志はあっさり弁当をたいらげた。


 待ちに待った、一年生対二年生の紅白戦。


 失う物がない一年生と、負けるわけにはいかない二年生。一年生たちはここのシニアでどれほど成長できるか今から分かるのだと、わくわくしている。


「俺からは基本はノーサインね」


 一年生の監督を務める浅見コーチも楽しそうだ。


「失敗してもいいし、というか、ある程度失敗しないと身につかないからね」


 そういえば、自分は今まで何を失敗しただろうかと友樹は振り返る。

 常に負けていたチームだから失敗の意識すらなかったのだ。


 一年生が先攻、二年生が後攻。


 オーダーも自分たちで決めなさいと浅見コーチが言った。

 一塁側ベンチのすぐ横で輪になって座った一年生の中、茜一郎が切りだす。


「ポジションなんだけど」


 輪の全員の視線が一気に友樹に向いて、ぎょっとした。


「友樹はショートな。異論は」

「ない!」

 全員の声が揃った。


「どうも」


 友樹は照れて指で頬を触った。ショートになるのは当然嬉しいが、決まりかたの勢いがよすぎてびびった。


「じゃあ俺セカンドー」

「しゃあねえな。俺がサード」

 大志がセカンド、茜一郎がサードに。


 ピッチャーたちは誰が一番手かじゃんけんで決めた。そして次々と決まった。


 一塁ベンチ側からダッシュで出発し、グラウンドの白線を勢いよく跨ぐ。

 ホームを境に二年生と対峙する。


 二年生が全員でかくて、友樹は見上げる羽目になった。

 女子の草薙さえ友樹より頭ひとつ分大きい。後で大志に聞いたところ、160センチだそうだ。


 両チームの元気な挨拶が青空に響いた。


 一回表。


 一番大志が勢いよく初球から振って、空高くレフトフライ。


「次にきたーい!」


 青葉と蛍たちが楽しそうに手をあげ笑う。


「さあ行け!」


 茜一郎の声に背を押され、友樹はネクストバッターサークルから立ちあがる。


 右打席からグラウンドを見渡す。

 ピッチャーと7人の野手、そして後ろのキャッチャーの圧が、今まで一回戦で出会ってきたチームと違う。やはりここにきてよかった。


 二年生の投手、沢風輝(ふうき)が自信たっぷりの顔でロジンを付け直している。野手と別の練習をする投手たちのことを友樹は全く知らない。


 少なくとも、マウンドに立つ前、列に並んでいたときはここまで怖くなかった。友樹には分からないが、マウンドには力があるのだろうか。


 沢が大きく見える。見下ろしてくる。小学生の頃、ピッチャーを怖いと思ったことなんて1度もなかったのに。


 それでも屈する気はない。打席の土をならす。ショートといえど多少は打てなければ、というのが友樹の持論。負ける気はない。小さくても威嚇はできる。


 友樹は右打者。沢は左投手。対戦開始。

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