表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ショート! 〜憧れのショートを追って、弱小少年野球チームからシニアチームに来ました!  作者: 砂原泉
選手権東北大会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/110

第67話「やれることをやって!」

 4対0。仙台広瀬(ひろせ)シニアリードで、二回表。広瀬シニアの攻撃が始まる。


 エース高見が力を見せて、広瀬の一番打者のスイングが大きく空を切る。一番を空振り三振に抑えた。

 しかし、二番打者にライト後方へツーベースを打たれてしまう。一死二塁だ。


「どんまああい!」


 福山が叫ぶ。


「次! 次!」


 草薙も叫ぶ。


「大丈夫ー!」


 友樹も叫んだ。


 二塁に走者がいれば、1打でホームまで還られる可能性があるから気を引き締めなければならない。友樹たち外野はバックホームしやすいように前に出た。


 三番打者の打球がレフト桜井の正面に跳ねて、グラブに納まった。よし、これなら打ち取れる! と友樹は思ったのだが。

 桜井のバックホームが逸れて、キャッチャー坂崎は前に出て捕らなければならなかった。二塁走者がホームイン。広瀬シニアは5点目だ。


 一死一塁。

 高見がカーブを投げたときだった。静かに滑りだすようなスタートで、一塁走者が盗塁する。

 まさか、もう高見さんの癖を見ぬいたというのか……?

 仲間の友樹でさえ、分からないのに。


 四番の低い弾頭の打球が友樹の前でバウンドする。草薙に中継してバックホームしたが、広瀬シニアに6点目が入った。


 またしても一死一塁。

 広瀬シニアはアウトを取られてもちっとも追い込まれた様子を見せない。


 五番打者相手に、高見が力のある投球をするが、その隙に一塁走者に盗塁された。


 五番打者を三振にしたが、六番打者に打たれて7点目を入れられてしまう。

 七番打者は、高見が空振りさせて三振にした。


「草薙さん、福山さん」


 友樹は草薙と福山に駆け寄った。


「俺にできることはなんでしょうか」


「まずは自分のことをしっかりやることだ」


 福山が言い切った。


「私たちまで緊張しないように」


 草薙は落ち着いている。


「分かりました」


「先輩がたの緊張は先輩がた自身が乗り越えるしかねえからな」


 福山の言いかたは突き放しているようでもあり、先輩たちを深く信じているようでもあった。


 二回裏。遠園シニアの攻撃。


 五番坂崎の打球はサードライナーとなり、一死。

 六番山口が左打席に立つ。


「山口さんっ!」


 友樹が名前を呼ぶと、山口は頷いてくれた。

 走りだすのと同時のようなセーフティバントで出塁した。応援している草薙もほっとしている。山口は草薙がお手本にしている選手の1人だ。


 友樹は草薙に声をかけた。


「やりましたね!」


 草薙は嬉しそうに大きく頷いた。仲間たちの欠点から学んで練習してきた草薙だが、彼女は仲間たちの成功をまっすぐに喜ぶ心がある。


 七番高見が打席に入ると同時に、八番福山がネクストバッターサークルに入る。


「しっかりやってよ」


 福山は草薙に大きく頷いた。


 山口がリードを大きく取って、東野が何度も牽制する。うまく東野の集中力を邪魔できている。

 高見が初球を空振りし、そのときに山口が盗塁した。

 だが広瀬のキャッチャーの反応が良かった。捕球するとすぐに二塁に投げる。

 山口は間一髪のところでアウトになってしまった。

 草薙が彼女らしくないほど驚いている。友樹も驚いた。なんていい送球なのだろう。

 ベンチに戻ってきた山口は悔しそうだった。


「惜しかったな!」


 ベンチの皆が励ますが、山口はいまひとつ元気になれていない。山口は足を武器にしている選手だ。かなり悔しいだろう。


 高見が山口の悔しさを晴らすようにセンター前にヒットを打った。


 八番福山の番だ。

 福山が真剣に東野を見据える。


「福山さああん!」


 友樹は声の限り叫ぶ。

 福山のバットが東野の投球を捉えた。友樹も草薙もベンチから身を乗り出して打球の行く先を目で追う。

 レフトにキャッチされてしまった。交代だ。

 二回終わって7対0。


「まだまだだ!」


 福山の心は決して負けていない。


「はい!」


 三回裏は九番友樹から始まる。ようやく、何かができるかもしれない!


 三回表を無失点で守りきり、友樹はベンチに戻って打席に入る準備をする。草薙からバッティンググローブを、福山から脚を守るレガースを受け取った。


「井原、頼んだ」


 草薙と福山の視線が友樹の胸にすっと染み込んでくる。先輩2人に信じられて、頼まれて、友樹の頭の中が落ち着いた。

 下級生は下級生のできることをすればいい。


 友樹は右打席に立った。右投手の東野との真っ向勝負だ。

 外野の芝の匂いとは違う、土の匂いを吸い込む。


 相手ピッチャー東野は三年生。今回の広瀬シニアのナインも全員三年生だ。


「東野ー!」


「ばっちこーい!」


「打たせちまえよー!」


 広瀬シニアの明るい声が響き渡る。


「ひーがーしーのー!」


 スタンドからも大きな声が届く。

 友樹は遠園シニアのスタンドを見ない。

 今、俺はここでやるべきことをやるだけだ。


 ランナーがいないので、友樹は狙い球を絞らずとにかく出塁することを目指す。


 一球目、頭の高さにボールが飛んできたが、すとんっと落ちてストライクゾーンの高めの位置に入った。


「ストライク!」


 なんて落ちかただ……! 友樹は目を大きく開き、ストライクゾーンを2度見した。これなら、先輩たちが打ち取られたのも頷ける。


 二球目、ストライクゾーンの真ん中辺りに投球が来る。

 投球は、すっ、とストライクゾーンの下へ出て行った。


「ボール!」


 ボール球をうまく見送ることができた。俺だって成長しているということか。そう思えば、友樹の体に勇気が湧いてきた。


「ボール!」


 三球目の際どいボールを見ぬき、友樹は自信を得た。体の軸が安定してくるような気持ちだ。


 四球目、このストレートはストライクだと確信した。

 バットが、びゅっ、と空を切った。


「ストライク!」


 確かにボールはストライクだったが、ボールの下を振ってしまった。カーブとの差でストレートが速く感じる。

 ツーストライクに追い込まれてしまった。


「東野ぉー! 調子いいなあああー!」


 広瀬のショートが馬鹿でかい声で東野を褒めるのが友樹の頭に響いた。


 駄目だ、負けてはいけない。調子が良い相手にだって勝たなきゃいけない。

 友樹の自信の軸が揺らいで、不安が体を巡り始める。


 そのときだった。


「やれることをやって!」


 草薙の言葉が友樹に届く。

 なんとしてもやるんだ。友樹はバットを短く持ち直した。


 五球目、ボール球を見ぬく。

 これでフルカウントだ。

 友樹は東野をしっかりと見る。

 さあ、次はどう来る?


 六球目、友樹の目が、球をはっきりと見た。

 ゾーン内にするりと落ちてくる。

 だが、体が付いてこなかった。

 振り遅れる。

 くそ、まだ負けたくない、と思ったとき。

 キャッチャーがカーブを取り損ねた。


 まだ諦めない。友樹はバットを放って一塁へ全力で走りだす。キャッチャーが後ろにこぼしたボールを拾い上げ、体勢を立て直して、投げる。

 友樹は一塁を駆けぬけた。


「セーフ!」


 振り逃げ成功だ。


「やったあー!」


「いいぞー! 井原あ!」


 福山が大きく手を叩く。


「よくやってくれたね!」


 草薙も大喜びだ。

 友樹は一塁コーチャーを務める三年生の藤井とハイタッチした。


「よく繋いでくれたな!」


 藤井がにかっと笑う。藤井はベンチ入りしているが試合にたまにしか出されない。それなのに一年生の友樹の活躍を心から喜んでくれる。

 やっぱり、三年生にはまだ引退してほしくないな、と友樹は思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ