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第26話「馬鹿にしてなかったんですね!」

 左打席でチームメイトの応援と信頼を一身に受けている新藤がしたことは、まさかのセーフティバントだった。

 虚を突かれたピッチャーから、新藤は悠々と一塁を奪った。


 四番桜井が打者有利のカウントで変化球を空振りした際に、新藤が盗塁。新藤さんはこんなこともできたのかと、友樹は驚くばかりだ。

 桜井がレフト前に打球を飛ばした。これで無死一三塁。


 五番の坂崎が、打つと見せかけてバント。またしても相手の意表を突いた。

 スクイズが成功した。


 新藤がホームを踏んだ足でベンチに戻ってくる。

 新藤に向かってベンチから全員が飛びだす。新藤が笑っているだけで、チームに覇気が出る。


「行くぞ! 逆転だ!」


 遠園シニアの声が1つになり、これから流れを作りだす。あと1点取れば逆転勝利!


 雨の粒が大きくなる。

 遠園シニアの選手はそんなことを気にせず六番の福山に声をかける。

 友樹はネクストバッターサークルに入る。


「井原」


 草薙に声をかけられた。


「頑張って」


 友樹は雨を弾くような笑みを浮かべた。


「はい!」


 七番は松本と草薙から、受け継いだものだ。

 三回で草薙が代走に出るだけで遠園シニアの空気が変わったのを思いだす。こいつなら走ってホームまで還れるのだと、誰もが信じていた。その草薙に応援されたのなら、応えたい。


 福山が四球で出塁。

 雨で小出も参っているのか。


 一死一二塁。


 ヘルメットに雨粒が伝う中、友樹の勝負が始まる。


 初球低めにカーブ。

 見事な空振りをしてしまう。

 友樹はバットのグリップを握り直す。


 友樹はバントの構えを見せて相手を揺さぶろうとした。ファーストがやや前に出てきた。

 小出が球を放つと同時に、友樹はヒッティングの構えに。ファーストとライトの間を狙いコンパクトにスイングした。

 惜しかった。ファール。追い込まれてしまった。


 ここで負けてはいけない。ここで打点を上げれば最高なのだ。チームは勝利し、務めを果たすことになる。草薙がこちらを見ている。


 小出がワインドアップ、胸を張る。脚を上げ、脚を着く。そして投球する。

 打てる、これなら打てる。

 友樹のスイングは見事命中し、ボールは三遊間へ。


 しかし走りながら嫌な予感はしていた。

 姫宮が捕球、セカンドへ送球、セカンドからファーストへ。なすすべもないフォースアウト。

 友樹は打ったのではなかった。打たされたのだ。雨の中立ち尽くす。


「延長するぞ! 気を引き締めろ!」


 落胆する友樹に新藤が声をかける。

 しかし、浅見コーチが両チームの前に出た。


「雨がこれから酷くなるらしい。ここで試合終了だ」


 両チームの選手は落胆を隠さない顔をしたが、整列し、礼をした。


「次も負けないからな」


 雨に負けないように張られた声が友樹に届く。姫宮だ。

 友樹は雨を吸い込む覚悟で無理やり空気を肺に入れた。


「こちらこそ」


 打席で負けたばかりであっても、勝負事では虚勢を張るのだ。


 遠園シニアは潮コーチが運転するマイクロバスに乗りこむ。

 雨が強くなるから早く、と潮コーチが急かす。

 友樹はバスの元へすぐには行かず、姫宮の隣にとどまる。


「姫宮さんは草薙さんのことを馬鹿にしてないんじゃないですか」


 雨の中でも、どうしても聞きたかった。姫宮は曲線的な眉を大きく上げた。


「なんで馬鹿にしてるって思った?」


 友樹も、確信が当たった嬉しさ半分、驚き半分で眉を上げた。


「やっぱり! 馬鹿にしてなかったんですね!」


 馬鹿にしたなどとは心外だという表情の姫宮に、友樹はさらに何かを聞きたかったが、潮コーチがこっちに走ってこようとしている。早く行かなくては。


「それでは、また!」


 姫宮に一礼して走り去る。

 姫宮は不思議そうにしていたが、彼も仲間たちに呼ばれて居場所に戻る。

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