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王族の異端者は魔法で地位を確立する

作者: 鷹のつめ

 私——マヤ・ヴィルトリアは日々、肩身の狭い生活を送っていた。

 近々、我がヴィルトリア王国では王位継承戦が執り行われる。

 現在は全王候補八名から、最終候補の三名の選定がすでに始まっている。

 選定方法は私にも詳しくは分からないが、恐らく実績がものを言うのだろう。

 私には縁遠い話だった。

 他の王候補たちとは違い、輝かしい価値ある実績など私には皆無なのだから。



 幼い頃から何ら取り柄の無かった私だが、ずっと続けていたことはあった。

 現実には存在せず、御伽話や空想上の産物の力とされていたもの——魔法。

 私は魔法の実現を夢見て、日夜研究を続けている。


 そんな私の姿を見て中には、「そんなもの実在するわけがない」、「第七王女は変わり者」、「未だ幻想に囚われた子供」などと陰でバカにした声を耳にすることも多い。

 それは外部だけではなく、身内からも後ろ指を差され。


「あら? あらあらあら! マヤじゃありませんこと? くだらない魔法ごっこからは卒業できたかしらぁ~?」


 条件反射で「うへぇッ」、と思わず言葉にしてしまいそうになるのを辛うじて堪える。

 何がまた彼女の癪に触り、火種になるか分からない。

 明確に敵意を向けてくる存在。当然ながら私は彼女のことが家族内で一番苦手だ。

 自室から研究室へと向かっている最中、敵意が顕になった金切り声が私の耳を(つんざ)いた。

 私は態度に出さないよう気をつけながら、声のする方向へ身体を向ける。

 そこには鬱陶しさ満載の口調で、私を愚弄し続けるその一人が目の前に立ち塞がった。


「——ギヴィア、お姉様……」


「調子はどうですかマヤ? 最も! 王選などあなたに関係のない話だと思いますがぁ!」


 ギヴィアは口調を荒げた。

 彼女にとって、私という存在は気に食わない。

 金切り音に拍車がかかり、脳内が悲鳴を上げ始めていた。

 だがそんな彼女に私もまた臆することなく言い返す。


「はい! 私も王になる気など毛頭ありません!」


「に、憎たらしい、小娘ですことッ……! まあ、良いですわッ!」


 しばらくの間、私たちの視線は交錯し続け、見えない火花が飛び散り続ける。

 私は魔法に魅了され、変わり者扱いを受けている。

 血の繋がった王家の者たちからも異質な存在であると認知され、奇異な視線に晒されていた。

 特に第三王女のギヴィアは態度が顕著だ。

 彼女は去り際に、


「せいぜい、頑張りなさいな! オホホホホーーー!!!」


 再び鼓膜が貫通しそうなほどの声量で、捨て台詞を吐いてその場を後にした。

 彼女が視界から消えたのを確認した——その途端。

 全身の力が思った以上に抜け、ペタンとその場に座り込んでしまった。

 想像以上に気を張って、無意識に力を全身に込めすぎていたようだ。


「ちょ、ちょっとだけど……言い返せた、ぞ…………」


 心身ともに疲労でいっぱいの中、ちょっとした達成感。

 私をよく思わない連中は多く存在するが、特にギヴィアは一番と言っていい犬猿の仲。

 いつもはなす術なく、一方的な罵倒を浴びせられていたが今日は違う。

 もう一丁追加だ。彼女が歩いて行った方向に向けて。


 態度には。

 態度には表さないが、心の中で“あっかんべぇー!”と思いの丈をぶつけた。



 ヴィルトリアの家系は男兄弟が少なく、兄に当たる第二王子ベルドのみ。

 よって女同士の醜い争いが勃発。

 特に姉にあたる第三王女は私に対しての風当たりが強い。

 父である先王に目をかけられ、大切に扱われて来たことに対する嫉妬。

 彼女は第一王女か第二王子に時期国王に選定されることを望んでいる。


 他の王女たちも皆同じだろう。

 だから私にとってみれば蚊帳の外。全く無縁の話だとそう思っていたのに。



「第七王位継承者——マヤ・ヴィルトリア。王位継承戦最終候補に残ったことをここに通達する」


「へっ?」


 へっ? この一言が私の感情の全てを物語っていた。

 王宮に八名の候補全員が集められて、王位継承戦を執り仕切る司祭が正式に通達した。


 脱落したとばかり思っていた、この王位継承戦。

 私にとってみたら、もはや意味のない争いだった。

 誰が次期国王になろうと変わらずに、心置きなく研究に没頭できると思っていたのだが。

 最終候補に残ってしまった。

 話によると、王位継承戦に残ったのは一定の成果を挙げた者だけで。


 第一王女——グレイティア・ヴィルトリア。王国最強の騎士であり、直近の成果として"最悪の魔獣"を討伐。国民からの人望も熱い。剣姫の称号を獲得。


 第二王子——ベルド・ヴィルトリア。他国との領土戦での勝利。種族間の争いを終結させ、未来への足がかりを作った。


 第七王女——マヤ・ヴィルトリア。生物の生体エネルギー、マナ分子の発見。及び魔法理論の提唱。




「お姉様やお兄様が最終候補に残るのは理解できます。ですが何故あのような異端者も——キィイイイイ!!!」


 ギヴィアは下唇を噛みちぎりそうな勢いで、悔しがり発狂する。

 そして私を一心に見つめながらガンを飛ばしてきた。怖い。


「——ギヴィア。お静かに、ここは正式な王位継承戦の場です」


「申し訳ありませんわ。お姉様……」


 見かねた第一王女のグレイティアお姉様は端正な声でギヴィアを諫めた。

 しかし第三王女の言うことは最もだ。

 何故私が? と自分自身が一番そう思っているから。

 こうして私を含む三名の肩書きを見比べても、私だけなんかパッとしない。文字数にしても一番少ないし。

 華々しさに欠けている。私の研究自体は趣味の範囲のつもりでやって来たことだったのに、やたらと大ごとになってしまっていた。


 しかしながら、暴れん坊のギヴィアを簡単に一声で静まらせた。やはり統率力という観点から彼女は群を抜いている。

 それは第二王子も同じこと。他国をまとめた資質は伊達ではない。

 式典が始まってから彼はずっと目を閉じて、状況を伺っているのか何を考えているのか正直分からなかった。


「——マヤ」


 第一王女グレイティアお姉様が私の元へと歩み寄って来た。

 幼少期以来のことだった。こうして面と向かって、しかも彼女の方から対話を試みるなど異例中の異例。

 グレイティアお姉様に名を呼ばれて、予期せぬ展開に身体が固まる。

 私は緊張していた。

 彼女からすれば通常通りかもしれないが、何気なく発せられている強者たる圧に姉妹なのに妙に気圧されてしまう。


「あなたの魔法理論、拝見いたしました——」


 周囲が静寂に包まれる中、彼女の透き通った声のみが反響し場を支配する。

 普段はあまり見せない柔らかな表情と穏やか声色が、固まった肉体をほぐし緊張が薄らいでいく。


「見事と、賞賛させてください。これまであなたが理想を追い求め、己が信念を貫いた結果です」


 グレイティアお姉様の言葉に周囲には動揺が走っていた。

 あの第一王女様が、異端と言われていた者の研究をお認めになった、と式典参加者の間でどよめきを見せる。

 それは無論、私を毛嫌いするギヴィアも同じで苦々しい表情で状況を見つめていた。

 お姉様は最後に私の肩に手を置いて、ねぎらいの言葉を掛けた。


「マヤ——これからも精進なさい」


「は、はい! グレイティアお姉様!」


 グレイティアお姉様は再び笑みを浮かべ、そのまま式典会場を後にする。

 胸が熱くなる思いだった。

 最強の騎士からの言葉は重みが違う。

 遠い存在だと感じていたお姉様が私のことを気にかけてくれていたのだと思うと、それだけで感情が爆発しそうだった。

 グレイティアお姉様の賞賛ももちろん嬉しい。

 だけど、それ以上に。



 父上との思い出が蘇る。

 と言うのも、父である今は亡き国王は違っていた。

 彼も王である前に一人の親だ。

 御伽話に出ていた魔法使いの話を私はキラキラと目を輝かせて話をしていると、彼は王としてではなく一人の父親として親身に話を聞いてくれた。

 私が研究をしたいといえば、施設や設備を用意しその願いを叶えてくれて、父には感謝している。

 最終候補にまで残れたことは、父が応援してくれた魔法の研究が認められて報われた瞬間だった。




 そこからの毎日は劇的に変化した。

 主に私にとっては悪い気はしなかったが、普段使用のない余計な神経を使うことが増えた。


「——マヤ様! どうか私、シュネリア王国第一王子、クーリ・シュネイバーと婚礼の儀を——」


「シュネイバー殿、申し訳ございません。私にはすでに心に決めたお方がいるのです」


「そ、そんなぁ〜」


 最終候補に残った途端。

 こうして数多の権力者たちが、面会を求めては玉砕されていく。

 同じような婚姻を求める他国の王子や権力者から多数申し出があったのですが、その場で全てお断りしました。

 国の大いなる飛躍、発展にとっても魅力あるお話ばかり。

 しかし私は研究者、研究そのものが恋人のようなものなのです。

 はっきり言って研究以外考えたくない。



「王女様も大変ですね。ちょっと前までこんな展開になるなんて想像も——僕で良ければいつでも恋人の代わりになりますよ」


 背後で王女に仕える公爵——彼の名はアカツキ・ヴェルカ。

 先祖代々ヴィルトリア家に仕えるヴェルカ家の次期当主。

 幼い頃からずっと私に支えてくれて、優秀なお世話係兼、私の研究の協力員の一人である。


「ありがとう、アカツキ。あなた研究当初から私に付いてきてくれた異端中の異端者」


「——マヤ様? それって褒めてます? 上げたように見せて下げてます?」


「もちろん褒めていますとも、私一人では研究を進めることも困難で、理論そのものの証明もできなかった——アカツキには感謝しています。こうして面倒ごとにも付き合ってくれますし!」


「もう言っちゃったよこの王女様。他国の権力者からの求婚を面倒って」


 これまで睡眠と食事以外、一日のほぼ全てを研究に注ぎ込んでいた生活が一変。

 毎日毎日、他国の用心と面会しては求婚され、いい加減飽き飽きしていた。


「面倒なのは面倒なのです。そこに階級は関係ないのですよ。一王女であったとしても、私は自分自身が認めた相手と結婚したいものです——が」


 ——アカツキは良い線行っていますよ。


 何を口走ろうとしているの! 私は!

 私はそう思わず、口に出してしまいそうになったのをすんでのところで堪えた。


「へぇ〜、意外ですね。僕はてっきりマナ研究が恋人とばかりに思っていましたが、やはりマヤ様も一人の乙女ということなんですね」


「——アカツキはどうなのですか? あなたも公爵の地位を持つ権力者、そろそろ周囲が騒ぎ立てる年頃でしょう?」


「話はありますよ。ですが僕はこうしてマヤ様の元で新しい発見をしていくことに生き甲斐を感じています。とても楽しくて毎日充実しておりますよ。僕もそこはマヤ様と同じなのでしょうね」


 優しさと敬愛に満ちた笑みで、私の手を取って一心に見つめる。


「恋愛など考える余裕もございません。ましてや今はマヤ王女に仕える身。マヤ様にご尽力していくことが僕の幸せです。遅くなりましたが、王位継承戦——最終候補選出。おめでとうございます!」


「い、いやぁ……私、王位は……」


 確かに最終選考には残ったけれど、やはり王位継承自体には興味が湧かなかった。

 今はどうしてもこの魔法研究を完成させたい。

 その願望がグレイティアお姉様の言葉でより強くなった。


 それにだ。私よりも適任だと思う人材がいるのだ、目指す理由がない。

 ただし、責任感だけは今までよりも増した。

 蚊帳の外だと思っていた私の立場は今回の一件で変わった。

 グレイティアお姉様の言葉もそうだけど、もっと王族として気を引き締めねば行けないなと、決意する。


「マヤ様は王位になど、始めから興味はないのかもしれませんけれど。仕える者としては鼻が高く、嬉しいものなのですよ」


「そ、そうか……ありがとう……アカツキ。ですがその……そろそろ手を、離してはいただけないでしょうか…………」


「も、申し訳ございません! 出過ぎた真似を! 僕如きが一国の王女の手を握るなどと、しかも嫁入り前の王女様に対して——」


「そ、それは別に良いです! で、でも——」


 思わず視線を逸らしてしまった。

 不覚、だな。咄嗟のアカツキからの不意打ちのようなものだったとは言え、臣下に精神を揺らがされるとは。

 目を瞑ると今の光景が、脳裏を過って離れない。


「——アカツキの言う通り、皆に誇れる王女を目指します!」


 私の言葉に、彼もまた変わらぬ瞳の輝きを向けて。


「——はい! これからも誠心誠意尽くす所存で頑張ります! マヤ王女殿下!」


 王女としての決意の表れだった。

 魔法を完成させ人々の生活をより豊かにできれば、王族の一人としてそして魔法研究に携わる者として、それはこの上なく喜ばしいことだ。しかし——

 アカツキの純粋な視線に当てられ、私は顔が熱くなっていくのも身に染みて感じていくのであった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ある一室。

 うめき声にも似た、怨嗟と憎悪の混じった小言が細々と聞こえる。

 照明もつけずに薄暗い部屋の中、中心には一つの黒いシルエットが。


「そんな……わけない。グレイティア姉様があんなちんちくりんな小娘をッ!!!」


 部屋にあったギヴィアの私物は散乱し、見るも無惨な状態へと変えられる。

 手の届く範囲にあった物は、全て投げ捨てそれでも怒りは収まらない。


「私のッ! 私のお姉様に触れるなどと言語道断ッ!!! 許さない!!! 絶対に許さないぞ——マヤぁぁああああ!!!」


 ギヴィアは自室で荒れ狂い、恨みの丈を募らせていた。

最後までお読みいただきありがとうございます!

6/3追記 評価していただいてめちゃくちゃ嬉しいです! ありがとうございます! 励みになります!

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