無限廻廊
私は、気づいたら そこにいた。
まるで蟻のような四つん這いの化け物が、ウヨウヨと歩き回っている。
そんな様子が、目に入った瞬間に意識が覚醒した。
「─────っ....!!」
声にならない絶叫が、私の背中を走る。
頭の上、数センチの間のある 小さな狭い石の部屋?に、どうやら私はいるようだ。
背後、十歩程歩いたら壁があり...
小さな四つん這いの化け物は、正面で二匹ほど仕切りに足を動かしていた。
私は、顔を逸らして....床を見る。
あれは、見てはいけない類のモノだ。
得体の知れない恐怖と、嫌悪感が胸の奥から溢れ出てくる。
ふるふると、震えた手だけが、私には理解ができた。
「ここは、どこ....」
そうやって、言葉に出してみて分かることもある。
そうだ...私、こんな場所知らない。
理解した瞬間に、自分を認識する。
途端に感じる風切り音が、耳を占領する。
ギュッと、握りしめた手....この風の正体。
そして、蟻の体を私の腰あたりまで大きくしたかのような化け物。
二匹とも後ろを向いていたからよく分からなかったけど、蟻の顔がある辺りが、どうにも違和感がある。
俯きながら、その違和感を考える。
「そう....どこかのっぺりとしたような...」
そこまで考えた後で、嫌な妄想が思考の端にこびり付く。
私が考えたのは、妖怪の話で、よく見る人面犬という妖怪。
体は、アリのようで...顔が...
「うっ......」
私は、顔を見ていないだけど...想像してしまった。あのカサカサと動く四つん這いの生物に、人間の顔がついてるというものを
いや、正確には、私を見つめるその人面蟻とでも言うべき化け物を
そこで、言いようのできない吐き気を覚えて、手で口を塞ぐ....
見ちゃダメだ。見ちゃダメだ...見ちゃダメだ。
石というより、コンクリートから感じる冷たい冷気が、腕の毛を撫でる。.....この風どこから来てるんだろう。
なんとなく、座りこんでゆっくりと風の吹く方と這いつくばって進む。
なるべく奥は見ないように、見ないように...
「お、おわっ」
腕が、ストンとどこかに落ちそうになって、ぐっ...と反対の手に力を入れて、コンクリートを掴む。
「あ...危ない」
一歩間違えば、どこかに落ちていた。どうやら、ここは一つの部屋になってるのではなくて、真ん中で裂けているみたい。
顔だけ、外へと出して、重たい瞼を上げる。
「ぁ.......なによ、これ」
どこまでも、深い....深い穴、奥の見えない真っ暗な闇の中に目をこらす。そして、カプセルホテルのような吹き抜けのコンクリートでできた箱がいくつも重なっている。
「はぁはぁ....はぁ」
高所恐怖症というか、まるでブランコに勢いよく揺られている時のような気持ち悪さを感じつつ、さらに、なにかウヨウヨとしたモノを見る。
やはり....蟻.....ひたすら、下へと進んでいく。
なにを、しているのか....分からないことが、なによりの恐怖...
一旦、顔を引っ込める。
想像以上の、恐怖と...混乱。
「下があるのなら...上も」
抵抗は、ある。下を見るだけで、もうかなりキツいのに...
私は、好奇心に負けた。
より一層、体を強ばらせながら、上に顔を上げる。
やっぱり天井も、真っ暗でなにも見えない。所々に、小さな蟻がカサカサと足を動かしている。
「ダメだ....私は、ここから出られない。」
初めから、希望なんて抱いてなんかなかったけど、知ってしまったことで、感じる....絶望的な状況。
なんで、こんなことになってるの...
家は....親は.....友達は
霧が、頭に色濃く立ち込める。ぼんやりとした、人間は見えるのに、なにも分からない。
仕方なく顔を上げる。
「............」
「ア゛ア゛ア゛.....ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛....」
小さな気持ちの悪い声と、真っ黒な瞳の女の目が、私を捉えていた。
奥には、男の顔をした四つん這いの生物がいた。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛っ!!!!」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛っ!!!!!」
「いやぁああああああ!!」
数瞬後、興奮したように叫び声をあげて、飛びかかってくる気持ち悪い女の顔をした蟻を、目視する。
私は、無我夢中で声を張り上げて、奥へと逃げる。
ドタドタドタと荒々しい音を立てて、腕の力で前へと進む。
もう...死ぬ物狂いだった。
「........はぁはぁ......おぇっ....」
軽くえづき、涙が少しだけ目元を伝う。
背後を振り返ると、男の蟻だけが呆然と、私を見つめていた。
女の蟻は、どこかへと消えてしまった。
バリバリバリッ!!!!!
なにかが、噛み砕かれる音。
なにが、噛み砕いているのか分からないけど、きっと捕食者だ。
落ちてきた蟻を、噛み砕く音が....妙に、響き渡る。
男の顔が、真っ赤に染まる。憤怒、憎悪、殺意...この世の悪意を乗せた瞳が、私を睨み続ける。
なのに、動かない。
なのに、足を動かさない。
私は、震えていた。ガチガチと、歯が鳴る。
なにが、起きたの...なにが....
分からない。なにもかもが、分からない。でも...一つ分かることが、ある。あの男の顔をした蟻は、私のことを恨んでいることは分かる。
男の蟻が、足を動かし始めたのは...かなり時間が経ってからだ。
彼の顔は、見えない。もしかしたら、私を殺しにくるかもしれない。でも...当面の間は、大丈夫だと思う。
どれくらい?どれくらいでこの狭いコンクリートの壁から、抜け出せるの?
そんな、自問自答だけを繰り返す。
分からないから、出たい。でも....バリバリバリッという音が、恐怖を募らせる。
出たいけど、出れない。
「助けて.....」
体育座りで、震えながら...ポツリと呟いた。
私は、顔を前に出して、暗闇の空を見つめる。
目を細めると、小さな蟻がもうすぐ私の部屋に入ってくるだろうことが分かった。
ある周期が経つと、隣の部屋の中に入っていく蟻たち。
「......怖いな」
なにもしないでいられるほど、人間は上手くできていない。
小さな部屋の中で、ずっと体育座りをしていられるほど...人間は、利口では無い。
だから、私は周りにいる蟻たちを観察してみることにした。
どう見ても、やっぱり蟻の体に顔があるのは、気持ち悪いし、得体がしれない。でも、今の状況を把握しないと、気が狂ってしまいそうだった。
バリバリバリッ
また、一匹蟻が、落ちていった。
年老いた顔をした蟻が、穴の底へと落ちていくのをよく見かける。
そういう蟻の表情は、疲れたような....満足したような顔で、落ちていく。
時折、赤い瞳が、ウヨウヨと這い回っているような姿が、暗い穴の底に見えた。
そして、もう一つ発見があった。
あの男の蟻と、女の蟻がひしめいていた場所に、赤いなにかが飛び散っているのだ。
二匹は、大きかったのでよく見えなかったけど...消えた後に、色濃く残っていた。
「..........あれって」
赤い液体、そんなの一つに決まってる。
───血だ。
人間の血...人間の顔をした蟻たちは、私たちを食って回ってる。
だとしたら、どこから私は産まれたんだろう。
「......人間らしい声を聞いたことは、ないけど...」
意識すらないのか。それとも、声が響かないようになっているのか。
私が異質なのか。
一回、別の部屋に移動することも考えた....けど、私の腕はそこまで強くない。悲しいことに、やっぱりここで、死を待つしかない。
「ここは...ここは、どこだぁあぁあああ」
そうやって、ポケェと真っ暗な曇天の空....いや、深淵の空....これも、違うか。天井を眺めていると、男の声が聞こえた。
死ぬまでに、知らない人と関わることができるかもしれない。
それは、ちょっとしたワクワクを与えてくれた。
「誰!!どこにいるの」
「っ!?!なんか、声が聞こえたっ!?」
声を出してる人をどうにか探そうと、色んな場所に視線をずらす。
「見つけた....」
対面の部屋の中に一人の男が顔を出していた。
まぁ...そんなに、パッとしない顔をした男だった。
対面かぁ、絶対に、会うことはない人になるだろう。
私は、少し逡巡する...この人と話すべきだろうか。
どうせ死んでしまうのなら、誰かと話す必要なんてないんじゃないんだろうか。むしろ、心残りだけが...
「あ、いたいた。君ぃ!!ここが、どこか分かるぅ?こ、この、変な蟻みたいな生き物....これって、なんじゃぁあああ!!」
「......私も、分からない。」
少し、目線を逸らす。もう...どうしようもないか...
「私たちは、餌だっていうことは分かる」
「.......なんだよ。それ.....つまり、僕達は、死ぬために生まれたっていうことかなぁああ!!」
「そう。だよ」
「..........」
私が言った後で、顔を引っ込める男の子。
私も、なんだか...自分で言ってて悲しくなって、顔を中に引っこめる。
冗談だとでも、思ったのかな。それとも、変な女とでも思ったのかな。.....でも、それ以上に分かるはず...嫌悪感の正体に
圧倒的、捕食者の前ではどうしようもないという事実に
「....せぇええ!!のぉおおお!!」
掛け声が、聞こえた。思わず、相手の方へと振り向く。
「嘘だよね.....」
それは、少しだけの懇願だった。
無限の穴に顔を出して、男の子がいたカプセルへと目を向ける。
瞬間っ、飛び上がる人の影....
右側から、左側へと飛び上がってくる。
「.....っ!?!」
私は、知っているこの光景を...飛び上がった光景を...
そして、結末を私は知っている。その者が、どういう末路を辿るのかを...
すかさず、穴の奥を見つめる。
赤いなにかが、ウヨウヨと動いている。
「なんで...なんでぇええええ!!!嫌ァアアアア!!」
私は、彼に手を伸ばしていた。少しでも、助けられるように...
彼の目は、輝いていた。決意が、強く見えた。
でも...
「ぁ......ごめん」
そんな、小さな声が聞こえた。
穴の奥へと、落ちていく彼を、私は見つめ続けた。
彼は、多分...死にたくない。その一心だっただと思う。
いや...あの蟻に、捕食されるくらいなら、飛んでやろうとかいう短絡的アイディアだったのかもしれない。
落ちていく彼は、死ぬ運命にある。
瞬間、私の周りにいた蟻...そして、対面にはい回っていた蟻が一斉に、その男の子を凝視する。
真っ黒な瞳が、彼を捉える。
カサカサカサカサという音が、大きく膨れ上がる。
一匹の蟻が飛び上がった。続いて、周りの蟻が一斉に飛びかかる。
一瞬にして、彼の体を大きな蟻たちが、埋め尽くす。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
「あぁああああ!!やめろぉお!!やめろぉおおお」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
叫び声だけが、その人がいた証拠として残り続ける。
「あ.....ぁ.......」
私の所為じゃない。私の所為じゃない。私の所為じゃない。私の所為じゃない。私の所為じゃない。私の所為じゃない。私の所為じゃない。私の所為じゃない。私の所為じゃない。私の所為じゃない。私の所為じゃない。私の所為じゃない。私の所為じゃない。私の所為じゃない。私の所為じゃない。私の所為じゃない。私の所為じゃない。私の所為じゃない。私の所為じゃない。
私の頭の声がかき消す。
パッと、手で顔を覆う。
ガリガリガリガリガリバリギリガリバリギリバリガリガリギリバリッ!!!
噛み砕く音が、コンクリートの壁に反響されて響く。
命が消えていく。呆気なく....下にいる彼らは、ただ...獲物を待っている。
「.......っ........私がっ!!私が.........私の方こそ......ごめん....ね」
足が、崩れる。いつ、蟻たちが来ても構わない。私は、酷い人間だから....
すすり泣く声が、聞こえる。
─私の泣く声だ。
手が、震えてる。
─怖いからだ。
外を見たくなんかない。
─もう、誰かが死ぬ姿なんて、見たくない。
長い間、私は二人の人面蟻がいた空間を眺めていた。
あれから、どれくらい時間が経っただろう。
私の近くの蟻は、飛んでいったのかな。
これからも...死ぬことなんてないよね。
グゥウウウウウウウ
そんな緊張感とは裏腹に、間の抜けたような音が鳴る。
お腹が減ったんだ。
でも、ここには食べ物なんてない。
食えるものなんて、ない。
だったら、餓死するまで待つ他ない?
「どっち道死んじゃうんじゃない」
水もない。食べ物もない。頼れる仲間もいない。なにもない...
正直、外には、出たくない。
「ん.......」
それでも、なにか...食べ物になるものを、探しに外を眺めた。ブーンブーンッという変な音が消える。
蜂?
なんで、こんなところに蜂なんかが...
「隠れないと...」
人面蟻は、人間を食う。だったら、ただの蜂が、こんな世界にいるわけがない。
でも、隠れる場所なんてないから、隅で、ひっそりと、隠れる他ないんだけど...
「........」
羽音が、より激しく聞こえた時、一匹の蜂が私を見ていた。
人の顔なんてないけど....大きい。
この部屋、二つ分くらいの大きさがある。
顎を、ガチガチと噛ませて、私を上から目線で見下ろす。
『......生き残っている子がいるなんて、珍しいわね。』
「........っ......」
『あなた、どうして人面蟻に食われてないのかしら』
「.............」
『そう....警戒してるのかしら?安心して頂戴、あなたみたいな不味い肉は食べろって言われても、食べたくもないわ。ただ...聞きたいだけ.....あなた、どうして、生きてるの?』
大きな蜂は、時折手を合わせたり、口元で、何かを噛み合わせたりしながら、どこから声を出してるのか分からない声を発する。
「.......お、お......同じ人間が、お.....おびき.....だした」
『ふーん.....同族を、囮にしたってわけね』
「そ、そういうことじゃないっ!!私は、別に....悪意なんか、なくて....」
『カチカチ....まぁ、どうでもいいわ。ふふ、あなた....運がよかったわね。いい機会だし、私が、あなたを殺してあげてもいいわよ』
「......ひっ....」
『光栄に思いなさないな。気持ち悪い、アリなんかに殺されるより、余っ程マシでしょっ、アハハハハッ、醜い人間なんかに、私....手を差し伸べてるわ!!!ねぇ、面白いわよね?』
「は....はぁ」
『・・・・・・・はぁあああ、興ざめ、凄い萎えたわ。あんたなんか、蟻の餌にでもなっちゃえばいいのよ』
チラッと、目を向いて、凄まじい羽音を鳴らして、空へと飛んでいく。
「.........行っちゃった」
ギュルルルルルゥウウウウ
ご飯...どうしよう.....
背後に気配がした。
何者かの気配。
「............」
「あ.....」
それは、男の子だった。いや、それ以上に、まるっきり同じ顔だった。あの時、飛び降りていった男の子と。
でも、そんなこと知らない。
私は、すぐに手を伸ばす。
「ぁ......がァ......」
「私のために死んで、知らない人」
ビクビクッと、泡を拭いて死んでいった。
それから、無我夢中で噛み付いた。
「..........」
味なんか、覚えてない。
なにを食ってるのかなんて、分からない。
ただ、私は.....犯してはいけないモノを犯してしまったような気がする。
口に、真っ赤な血を垂らして、どうにかそれを咀嚼する。
これ.....なんだろう。
分かんないや。
あぁ、私なんのために生きてるんだろ
「ゲホッゲホッゲホッ....」
血が、飛び散る。コンクリートの上に、ビシャリと撒き散らす。
それなりにお腹が満たされたら、外に投げ捨てる。
ある程度、周りに集まり始めた蟻たちが、食いに来る。
そうして、私は生き残るのだ。
死なないために....仕方なかった。仕方なかった。
「そう。仕方ないこと....だから」
眠気が、襲う。こういうこと考えなかった人間が、いない?わけが無いよね。
じゃあ、なんで周りに生き残ってる人がいないんだろう。
「まぁ、いいかぁ」
暗い暗い意識の深いところで、眠った。
翌朝は、少しだけ力が湧いていた。コンクリートに、手をはわせて、グッと力を込めると、吸い付いたように離れない。
まるで、私の握力じゃない。
「うん.....でも、これでやっと外に逃げられるかな」
グゥウウウウウウウ
お腹がなった。そうだよね。あれだけじゃ....足りないよね。
私は、コンクリートを握って、隣のカプセルへと向かうことにした。
「..........あなた、は」
「............」
いた。隣に、人が....
「あの、あなた、隣から来たんですか。これは、どういう状況なんですか?」
「どういう状況....かぁ....私も分からないんだよね」
「......です、よね。あの、奥の部屋?に....赤い染みみたいなのが、あるんですけど、あれってなんでしょうか?」
「ん?んー.....なんだろうね。蟻って見たことある?」
「え.....いや、ないです。」
「だろうね。私が、全部、下に落としたし....」
「........あの、その.....それってどういうことですか?」
「ん?私が、色々してたんだよ。ほら....自分の身は、自分で守らないとダメでしょ?」
「......そ、そうですね。自分で.....自分で守らないと.....ダメですよね」
「あれ、どうしたの?なんで、そんなに怖がった目をしてるの。大丈夫だよ。怖くないから」
「その...ヨダレが」
私は、ハッと気づいて、手で拭う。
次から次へと、ヨダレが垂れてくる。
なんでだろう。あんなに、不味かったのに...あんなに、クソまずかったのに....
「ご、ごめんね。私...そんなに、怖かったかな」
「......その、出てって貰ってもいいですか?」
「.............」
当然の反応...といえば、そうかもしれない...
私は、あなたを肉の塊として見ているから、でも...勘違いしないでほしい。出来るなら、保存食として、私の身の回りに残しておきたい...それは、確かだよ。
今食べちゃダメだ。だって...見たでしょ?勢い勇んで、死にに行った男の末路を....
「うふふふ、あなたは、外の現実を知らないんだね。」
「.......あ、あなたは、私と同じような人を食べましたよね。なんとなく分かります。分かってしまいます....あなたと一緒にいると怖い。」
「えへへへ.....」
確かに、ヨダレを垂らしてる女なんかに、詰め寄られたら...恐怖でしかないもんね。
でも、安心してほしいな。
今すぐなんか、食べないから...
再び垂れ始めたヨダレを、拭いて...外の世界を見る。
「この世界は、食うか食われるかなんだよ。食わないと、殺されてしまうんだよ。」
「............それは、あなたが、見たことですか?」
「そうだよぉ....外は、蟻が殺そうとしてくる。中は、食料の危機が迫ってくる。ねぇ、君だったら、どんな選択をとる?」
「......それでもっ!!人は、殺してはいけない。ダメです。それは」
「うふふふふふふふふふ。アハハハハハハハハ、なぁ〜んも、分かってないんだねぇえ!!なぁ〜んにも」
「ひっ.....私も、殺すんですか?」
「........さぁ、どうだろうねぇ......
殺すかも」
「........っ.......」
目を見開いて、私を見る彼女....きっと、人生楽しく生きれたかもしれないけどさぁ。でも、それじゃ、生きれないんだよね。
彼女は、握っていた手を離して、そっと目を閉じる。
諦めたのかな。
「ハァアアアアアア」
違うか。
次の瞬間、凄い形相で、詰め寄ってきた。
明確な、殺意を灯して、手を伸ばしてくる。
私が、いつもしてるように喉を....
それは、大体読んでいたため、その手を叩き落とす。
バチンッという大きな音に、手が揺れる。
目を見開く女は、勢いで私に寄りかかってくる。
私は、彼女の首を噛みちぎる。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛っ!!!」
「ご愁傷さま」
ペッと、血を吐き出して、腕を首に絡めて絞め殺す。
「ぁ......」
ビクンっビクンっと、なにかが震え上がったかと思うと、なにも音がしなくなった。
.....今日のお肉だァアア
ニタァと、薄気味悪い笑みを浮かべて、死んだ女の見つめる。
彼女が、どうなったか...そんなの、言うまでもないことだ。
「.........あぁ」
私の目の前には、男の顔をした蟻が見下ろしている。
あの時の、やつか.....うん。分かってる。分かってるから、なんか...ちょっと苦しいな。
「ただでは、殺されない。」
肉を食ったからか、狩りをしてきたからか。その顔に、狂気を侍らせた黒い蟻は、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!っと、雄叫びを、上げた。
「君の味は、どんな味かな」
心を高ぶらせて、行動する理由を作る。
目の前の餌に、食らいつきにきた女蟻が悪いのに、私を殺そうとするのは、完全に間違ってる。けれど、そんな道理なんか、知らないと言わんばかりに、尖った歯が、私を喰らわんと飛び上がる。
「なんで.....人間が」
それは、何日目かの狩りが終わった時のことだった。
今日も、今日とて、人間を狩り、食べ、外へと投げる。
少しだけ、体が大きくなったような気がする。
そりゃ、そうだよね。
食べ物を食べれば大きくなる。当たり前だよね。
「........」
食い終わって、寝ようとした時に、カサカサという音が聞こえた。
みんな、さっきの死体に食いついて、落ちていくはずなんだけど...
「.......なにかが、いる。」
顔を覗かせる。天井から現れる。
男の顔をした人面蟻、鬼のように顔を真っ赤に染め上げて、私のいるカプセルの中にやってきた。
どうして...ここが、分かったの。そもそも、反対側にいたのに、どうしてこっちに?!?
「........中継地点でも、あるのかしら?」
「....ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
問答無用で、襲いかかってくる私は、壁に逃げる。
どうしよう....人間なら、もう、そんなに怖くないけど...デカい昆虫と戦うのは、なんか...嫌だ。
「ア゛....ア゛ア゛......」
「あぁ....」
......(以下略)
私は、蟻に思いっきり走り込んで、姿勢を屈めてどうにか飛び込みから逃げる。
「でも、倒しようがない。」
無理だ。分かっているどうしようもなく、勝てないことを、噛み付く?あの硬い皮膚を?顔に、噛み付く?食われて終わり...
「...............」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
再び飛びかかってくる。あ、無理....これ、どうしようもないやつだ。
そうやって、考えた時、一つのことを思い出した。
初めて出会った男の人が、空を飛んだ瞬間の出来事を...
「誰かぁあああ、いませんかぁあああ」
「あ、だ、誰かの声が!?!」
「これって、どういう状況ですか?」
「ど、どういうって、俺も分からないけど」
「.........」
そこからかよ。もう、しっかり探索しててよ。カサカサカサカサっていう音が、後ろから聞こえるし...
「変な蟻が、人間を食うんだけどっ!!私っ!!生き残りたかったっ!!」
「生き残ればっ!!生き残ればいいだろう!!」
「ハァアアアアアア!!!!せぇええのっ!!」
「はっ!?!お、おいっ!?!なにしてんだよっ!!バカっ」
「生きて.....生きていたかった.....」
背後から、大きな蟻が飛び込んできているのがわかった。
報いて、やる。こんな状況を、作り出したやつに....報いてやる。こんな、世界に...
「......すぅ........ごめん」
涙が、空へと飛び上がった。
黒い物体が、覆い被さる。
周りの蟻たちの顔が、私に刺さる。
途方も、ない。赤い魔物が、私を見ている。
空に浮かぶ、蜂が私を見ている。
ブーンッという羽音が、空から落ちる。
モゾモゾと、赤い化け物の触手が、空へと伸ばされる。
ザクザクザクザクッと、蟻の胴体が蜂の針に刺さる。
「ぁ....」
私の心臓に、刺さる。
私の血が、空へと飛び散る。
蠢く触手が、私たちを飲み込む。
「お、おいっ!!おいっ!な、なんだよっ!!!なんだってんだよぉおお」
空へと浮かび上がる。精神が、空へと...身体は、下へと落ちていく。
昇華されていくこの世界に生きる魂として...
穢れてしまった心が、私を浄化していく。
ポタリと、死んだ目から、涙が零れる。
「生きててよかった」
夢で、よくこういう夢を見るんですよね。
ずっと、底の見えない地下に、植物でできた階段を、人間がただひたすらに歩いている。
友達が出てきて、穴の底へと度々落ちていく。
そんな光景が...ホラー的夢?なのかな...怖さは、あまり感じないんですけど、呪術廻戦みたいな人間の顔のような化け物が、殺しにくる。みたいな...
んー、そこに恐怖は、なくて...いるだけで、恐怖を感じるんですけど...
夢の出来事って、言語化すると、大抵ちっぽけなモノになるんですよね。そこを言語化できるといいんですけど....
あと、俺の小説の中のキャラは、大体イキるwww