第一章 第七話
……おいおい待て待て俺。現実逃避してる場合じゃねーぞ、まじで少し冷静になれ……
よし、ちょっと一回整理するぞ。
えーと、確かに"七海"は目の前にいる。長年一緒に過ごしてきた俺がそれを見間違えるはずもない。今、着てる制服だって間違いなくこの学校の制服だ。髪型だっていつもの左右に二本出したお下げだし、眼鏡だって普通の人が掛けたら目がちっちゃくなるような眼鏡を掛けてて……って掛けてねーし!?
「なぁ……七海、眼鏡どーした?」
俺は親指と人差し指で輪っかを作り、おなじみのメガネジェスチャーをした。ちなみに膝枕されている状態でだ。そうしたら"暫定七海"はそれに気が付き、
「ふむ。妾にあのような物は必要ない。なんせ妾は千里先まで見回せるからのう」
「………………」
……はぁ、これ以上現実逃避してもしょーがないよな……
のらりくらり自分の思考を誤魔化しても何も変わらないってのは、たった十五年しか生きてきてないけど、それでも痛いほど身に染みてきた。なぁ、そうだろう?優記。
俺は意を決して意識的に蓋をしていたいくつかの出来事を目の前にいる"暫定七海"に問いかけた。
「なぁ、さっきの奴は一体誰なんだ?今はもう居なくなってるみたいだけど……」
「ふむ、玄武の事じゃな?あれはただの下僕じゃ。うぬが気に止めるような輩ではない」
そう、即答された。それだけだった。
俺は一度目をつぶりゆっくりと深呼吸をした。そして心を落ち着け、まず現実逃避の一番の要因である膝枕を離れ、"暫定七海"の前に正座でちゃんと対面した。
「………ふぅぅ…………そうか。じゃあさっきまで、そう、さっきまでここに居た速見先生や卒業式会場に居たはずのクラスメート達のみんなは一体何処に行ったんだ?」
俺は逸る気持ちを出来る限り抑え、ゆっくりとそう尋ねた。
「知りたいのか?」
……くっ!……ふぅ……ふぅ……落ち着け、落ち着け優記!
「……あぁ、もちろん知りたい。知りたいに決まってるよ」
「………………ふん。そう心配するな。うぬが想像してるような事にはなっておらん」
七海は"いつもの"優しい顔でそう答えてくれた。
「……え?」
「なんじゃ、すっとんきょうな顔をしおって」
「……いやだってさ、さっきの玄武ってやつはみんな蒸発して消えたって……」
「ふふん。その状況、あやつの性格を考えれば直接見ずとも目に浮かぶようじゃわ。大方うぬを怖がらせて悦にでも浸っていたのであろうな」
「……いや、七海だってその場に居ただろ?今さっきの事だぞ?」
「知らん」
「……まぁいい、みんな無事だって事でいいんだよな?俺はそう捉えたからな!じゃないとビックリするぐらい暴れるからな!!」
「くどい!」
……えーー…………めっちゃ大切な事なんだけどなぁ……はぁ……
くそっ、もういい!切り替えて次の疑問!!
「さっき俺の事、玄武ってやつから庇ってくれただろう?……ありがとうな!……いやそれもそうだけど、そん時に俺の事なんて呼んでたっけな……確か、"きょうたろう"って。そうだ!俺の事"きょうたろう"って呼んだよな?」
「恭太郎を恭太郎と呼んで何が悪いのじゃ?」
「……いやいや、俺、優記って名前なんですけど!?」
「いや、恭太郎じゃ」
「………………」
……ええい、次!!
「九尾の姫ってのは……」
「勿論、妾の事に決まっておる」
「………………………」
……うわーん!誰かたすけてーーーーー!!