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第三章 第十一話

「うおおぉぉぉーー! 何回掛けてもらっても、この『ホーリーアクセル』に慣れなぁーーい!」


「ユウキ、毎回言ってるけど、高速移動中(ホーリーアクセル)は舌噛むからしゃべるな……あぐぇっ!」


「アリスちゃん……」


 さて、お約束はさておき、もう少しで資材置場が見えてくるはずなんだけど……あ、見えた!


「よし、あれだな!」


 もっとこじんまりしてる所かと思ったけど、めっちゃでかいな! アトラの森の木の、数パーセントくらいはありそうな木材の量だわ。


「たしか、ここの裏に獣道があるんだよね?」


「って、シャンクスに襲われたモブスさんが言ってたけど、資材置場の裏が広すぎて、何処がその獣道なのかわからない!」


 確かに資材置場の裏にはアトラの森の端部分があるけど、そんな覆い繁ってるわけでもないし、何を獣道と言えばよいのやら……


「ふふん! こんな時はボクの出番だな!」


 出たな! 妖怪でしゃばり聖女(仮)め!


「アリスちゃん、なにか言い案でもあるの?」


「ナナミ。ボクの魔法は迷える子羊を救うためにあるのさ! 聖なる光の女神よ、我に眼力(ちから)を! 『ホーリーアイ!』」


 いつもの如く、杖から発せられた光は、アリスの両目へと宿った。

 つーか、アリスの両目が光ってて、なんか怖いんですけど。

 いや、待てよ。これはこれで夜とかに先頭に立たせたら、懐中電灯代わりになっていいかも!


「うーん、あっ! あそこから魔力(マナ)生気(オド)の流れを感じる! 多分、あそこが獣道の入り口だぞ!」


 しれっと中二っぽい単語を初登場させないでくれます?

 ただ、道を探して欲しいだけだよ?


「あ、たしかに人や獣が踏み均した道が見えるね!」


 相変わらず目が良くてよかったね!

 かたや、目が光ってるし、かたや、目がアフリカの少数部族より視力が良いし、実は俺ってば、自分が思ってるより役立たずなんじゃね?

 まぁ、ここから少しくらいは、でしゃばらせてもらいますか。こう見えてもリーダーだしね!


「よし、みんな俺について来てくれ!」


「「了解!」」




 ーーそうして俺たちは、獣道へと入っていった。




 獣道と行っても舗装されていないだけで、ちゃんとした踏み固められている道だった。

 ただ、馬車とかの大型なものが通るには少し狭いかなぁ?


 淡々と忍者の様に三人で一列で走っていると、早速、最初の分かれ道が見えてきた。


「おっ! 最初の突き当たりだな! えーと、たしか道の覚え方が、コ◯ミコマンドだったから、"上下"はなくて先ずは左!」


「お、ユウキ、良く覚えているな?」


「コ◯ミコマンドだからね」


「こ、コナ◯コマンド……?」


「優記くん! アリスちゃんにイジワルしちゃダメだよ?」


「いやいや、七海。そうは言うけど、他に説明の仕方が思い付かないんだけど」


「そ、それはそうだけど、少しハショり過ぎだと思うよ?」


「いいんだ、ナナミ。ボクがそのコナミコ◯ンドとやらを知らないのがいけないんだからさ!」


「そうだそうだ!」


 ーーバシッ!


「あだぁっ!」


「きゅー……」


 くそっ! たまに存在を忘れちゃうクラマさんじゃないか! ひどいや!


 ーーなどとわちゃわちゃしたやり取りを踏まえながら、(くだん)の目的地付近に来ていた。


「あ、優記くん! この先の開けた所に洞穴が見えるよ!」

 

 ……ふ、七海君。役立たずの僕には、それが全く見えないのだよ。

 まぁ、それは心に留めといて、


「七海、残された二人は見える?」


「えっと……洞穴の入り口付近で……お、女の人が倒れてて男の人が片膝付きながら、凄い勢いの槍の攻撃から懸命にその女の人を守ってる! あっ! やっぱりあの槍の人だよ! 早くしないと……」


 凄い情報量だ! さすなな!

 それにすでに全滅という、最悪の事態だけは起きてなくてよかったわ。


「おっけー! んじゃ、俺が初っぱな切り込むから、七海はパーティーの補佐、アリスはホーリーシールドの準備を頼む!」


「「了解!」」


 ーーよし、道が開けた!

 

 あっ、タンクの人の盾がちょうどシャンクスの槍で弾かれて、飛んでったぞ!? くそっ、これ、間に合うか!? 

 よし、こちらに気を引かせて時間を稼ぐ!


「おい! おまえ! 他の冒険者から嫌われてるからって、見えない所で八つ当たりしてんなよ、クソのシャンクスさん!」


 くそ、急いでるせいで、俺の煽り特性がいまいちだぜ!


「ーー!?」


 よし、寸前の所でこっちに意識を向けたな! ってか、シャンクスって野郎、目が"ガンギマリ"じゃねーか!? こわっ!


「ユウキ、よく走りながら、そんな酷い事を言えるな!?」


「アリスちゃん、優記くんにしては優しめだったよ?」


「えっ!? 今ので!?」


 なんか、状況にそぐわない会話が後ろから聞こえるけど、今は無視無視。


「天魔!」


 俺は猛スピードの中で天魔を手に取り、両者の間に滑り込んだ。


 ーーキィーン


 トドメと言わんばかりの重い上段からの槍の一撃を、間一髪、俺は天魔で受け止めた。


「あ、危ねぇー。ギリギリ間に合ったわ! ってか、毎度毎度、俺ってば滑り込んでね? 普段がスベり散らかしてるからって、戦闘でも滑る必要はなくね?」


「き、キサマ! あの時のクソガキか! 邪魔をするならおまえも殺すぞ」


 うわぁ、目がギンギンじゃないっすか。それに食い縛った歯の隙間からヨダレがダラダラ垂れてるし……きもっ!


 ってか、それより、


「アリス!」


「了解! 聖なる光の女神よ、『ホーリーシールド!』」


「七海! 後ろの二人に"これ"を!」


「うん!」


 俺はシャンクスの槍を天魔で受け止めたまま、エリクサー(笑)改め、神ノ雫の入った瓢箪を七海に優しく投げた。


「ふ、二人ともこれを飲んでください! ぽ、ぽ、ポーションでふ!」


 めっちゃ、人見知り出てるじゃん!

 こんな状況じゃなきゃ弄り倒すのに!


「ぼ、ぼくは後でいいよぉ。さ、先に、カイダにあげて」


 その図体の割に優しい口調のグリスが、必死に守っていた魔女みたいな格好のカイダを気遣っていた。


「わ、わかりました! えっと、カイダさんでしたよね? こ、これを飲んでください!」


「う、うぅ……」


 お、意識はあるみたいだな。これなら神ノ雫を飲めそうだね。


 そんな俺のすぐ後ろの光の壁の中でのやり取りから、俺は目の前のシャンクスに意識を向け直した。


「アリスも『ホーリーシールド』の中に入ってろ!」


「ユウキ一人で大丈夫か!?」


「あぁ、大丈夫! それに一応、何でこんなことしたかも聞いとかないとな!」


 魔物や獣と違って一応、こいつも人間だからな!

 まぁ、少し気が触れてるっぽいけど。


「えらく余裕だな、クソガキ!」


「あんたは第一印象から最悪だったけど、今はその時以上に悪印象だけどね。一応、今言った通り、何で今回こんなことしたか聞くけど? まぁ、どうせ言わないだろうけど」


 俺は目の座ったシャンクス相手に、鍔迫り合いをしながら、形式的な会話を試みた。

 もしかしたら、今日に至るまでに何かの理由があったのかも知れないし、例えそれらしい理由がなくても、出来ることなら人殺しなんて俺はしたくはないのだから。


「……俺は元々、群れて冒険者ごっこをしてる奴が気にくわなかった」


 お、普通に話してくるやん?

 顔は相変わらず、狂人みたいな様子だから、そのギャップがエモいな。悪い意味で。


「ふーん。だから、今までソロだったのね。俺もある意味、人生の大半をソロ活してたから、言わんとしてることは何となくだけど、わかるかもな。でも意外と仲間と共にするってのもいいぜ? まぁ、最近わかったことだけどね」


 ……とは言ってみたものの、俺みたいな小僧が、年上の半グレみたいな奴を諭せる訳、ないよな?


「俺はこの前、この森で会った、その見知らぬ男にある事を言われたのさ」


 え? 僕の話し聞いてくれてます? カツ丼が無いと言うこと聞いてくれないタイプなの?

 それになんか話の脈絡がいまいち掴めないんだが。


「なんて?」


 まぁ、聞いとくか。


「『あなたは魔物を刈りたいのではありません。本当は人を刈りたいのです。自分の気持ちに素直になることで、あなたがこれまで抱いてきた葛藤から必ず解放されますよ』ってな」


 ヤバ! 誰だよそいつ! 先ずはそいつを刈れよ、シャンクス。


「いやいや、そんなことを初対面の怪しい奴に言われただけで、『じゃー早速、人、殺しちゃおっかな~』とは、思わないだろ!?」


「確かにな。その時は多分、お前と同じ事を思った。ただ、その時の会話と同時に、その男は一粒の薬を俺に手渡して来たんだ」


 あいおい、原因は絶対にそれですやん!

 絶対にその薬、飲んじゃダメなヤツですやん!

 まさか、そんな怪しい男の、そんな怪しい薬を飲んだってのか!? まずは孤高を気取る前にそんな奴を信用しちゃダメやろがい!


「それで、その薬を飲んだと。はぁ、どうしよっかなぁ……」


 元々の性格もクソだったけど、その時も殺すほどムカついたって訳でもなかったし、気が触れてる原因も、モブスさん達を襲った理由も、ほぼその薬のせいってわかったからなぁ……


「勘違いするなよ、クソガキ」


 ーーカッチーン!

 

 何が勘違いなのか全くわからんけど、ホント、コイツの話し方はムカつくな!


「あぁっ!? 何がだよ!」


「俺はその男に感謝してるってことだ! 俺はお前らを殺す決心が出来て今では清々しい気持ちで満たされてるのさ。そして邪魔な理性、抑圧された感情から解放されたんだからな」


「はぁ? 何で俺らがおまえに殺されなきゃならないんだよ? まさかあの時のやり取りが原因とか言わないよな?」


 確かにあの時の結果だけ見れば、コイツはみんなの前で醜態をさらして怒り心頭なのかもだけど、元々の原因はコイツが俺達に因縁を付けてきたからじゃんかよ!


「あの時にはすでに俺はお前らをターゲットにしていた。さすがに会ったことも喋ったこともない奴らを、いきなり殺すにはまだその時は抵抗があったからな」


 さっきから何を言ってるのか全くわからないぞ?

 だってコイツが今言った話の(かなめ)の部分は、"俺達を殺す"ってことが大前提ってことだろ? 

 あっ! ってことは、その怪しい男がシャンクスに俺達を殺す様に促した張本人ってことか!

 薬が原因? でも、それだけだと俺達をターゲットにする理由にはならないよな? それとも魔法か何かで俺達を殺す様に洗脳された? そうじゃなきゃ呪いとかの類いで操られているとかか? これじゃーどっちにしろコイツを殺す訳には尚更いかなくなったじゃねーか! まぁ、その方が精神的にも助かるわけだけれどもさ。

 ……でもなぁ、コイツ、俺ら以外にも現に襲いかかってたしなぁ……


「じゃー、何で今回、モブスさん達を襲ったんだよ?」


 俺達をターゲットにするなら、あの時から今日に至るまでに、いくらでも"その機会"はあった筈だろ?


「……もちろん、お前らを狙っていたさ。しかし、お前らはいつも高速で移動しやがるし、かなりの確率でお前がトラブルを起こして大事にするから、今の今までその機会が訪れなかったんだよ! ……まぁ、でもいい。結果、そいつらに八つ当たりしてる所にお前らが飄々と現れたんだからな」


 あぁ。俺、決めたわ。

 シャンクスが操られていようが、元の性格だろうが関係ない。

 俺はコイツをここで仕留める。

 だって、シャンクスを元に戻す解決策もないし、今さらモブスさん達にした事を無かった事には出来ないしな。


「………まぁ、いいや。とりあえず本人の意志か、はたまた操られているかは置いといて、ここいらで決着はつけとかなきゃな!」


「生意気なガキが。あの時の屈辱、その死を持って償え!」




 ーー俺は今回、良くて半殺し、最悪は人を殺すことになるだろう。でも、そんな事は俺にとって、実は些事な出来事なのだ。だって、一番大切な事は、俺の魂に生まれる前から刻まれているのだから。

 



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