第一章 第四話
「「…………えっ?」」
…………先生………は?
_____また頭が真っ白になりそうになる_____
……間違いなく、速見先生は"たった今、この瞬間"まではそこに居たはずだ。俺も七海も背中越しの先生に向かって思い思いに話しかけた……はずだった。
あぁ、駄目だ……思考が全然まとまらない……
「……ゆ、優記くん……」
っ!……そうだ、しっかりしろ馬鹿優記!!お前がしかっりしなかったら誰が七海の事を守れるんだ!!
「七海!とりあえずここから出るぞ!!」
「……う、うん!」
俺は再び七海の手をとり閉まっている校門の方を見た。
「…………え?…………なんでだよ…………だって……」
俺はその後に繋げなければならなかったはずの言葉が口に出来なかった。
何故ならそこにあるはずの風景が完全に"切り取られて"いたからだ。そんなものは言語化出来るわけがなかった。
そこに見えるのは限りなく黒色に近い霧状の濃いもやで、学校の境界線に沿って立ち上っている様に見える……
……おかしい……おかしすぎる。だって今感じる朝の日の光は、登校した時と何も変わらないものなのに、"それ"は完全に自然法則を無視したかのように何処までも上にそびえ立っていた。
まさかと思い後ろを振り向けば、やはり遠目に見えるのはそびえ立つ黒いもやの壁。
……間違いなく、学校はこの黒いもやに囲まれている様だった。
「……くそっ!……一体、何がどーなってやがんだよ!!」
「…………ゆ、優記くん…………わ、私達、どうなっちゃうのかな………?」
「……し、心配するな……七海!俺が……俺が、絶対どうにかするから!!」
「………うん!」
……あぁ……ほんと、七海は優しいよな……こんなやせ我慢な事しか言えない俺なのに、たった一つの返事だけで俺を奮い立たせてさ。
そんな場違いな、それでいて救われるような事を思っていたら、"その声"は突然後ろから聞こえてきた。
「おやおや?こんな強力な妖気の結界内で、蒸発しない人間が居るとは、これはこれは驚きですね」
「っ!?誰だ!!」
そういい放ち俺は、頭で考えるより先に七海を後ろに庇いながら、その"声"の方へと振り向いた。
「これはこれは、名を名乗らずに話しかけるなど不躾でしたね。我は"九尾の御姫君"の眷族が一人、名は"玄武"と申します。以後、お見知りおきを。……これはこれは失敬。以後があればのお話でしたね」
…………そう、"玄武"と名乗った長身のスーツ姿の男は、そのスーツの色と同じ黒く長い髪を神経質そうに両手で交互に後ろに流し、切れ長の目を更に細めて笑顔でそう語った。