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第三章 第七話

 俺達は『トランの西門』へと向かっている。


 初の依頼を受け、気持ちよくギルドを飛び出したまでは良かったのだが、俺も七海ももちろん西門の場所を知らないので、何故かジト目のアリスが、しぶしぶ先頭で案内をしている。


 ……まぁ、アリスは人目をさけるために、猫耳フードを頭に被ってるから、ジト目ってのは、あくまでも俺の勝手な想像なんだけどね!


「ユウキは本当に威勢だけはいいけど、あとはいつも人任せだよな?」


「自分でバリバリ頑張るより、バリバリ人に指図できる人の方が、出世できるって、ひ◯ゆきが言ってたよ?」


「誰だよ、そのヒ◯ユキって!それに、自分だけ出世したってボク達はパーティーなんだから、そんなの意味ないからな!」


「ごめんね、アリスちゃん……優記くんは元の世界でも少し変わってる男の子だったから、あんまり気にしないでね?」


「う、うん。ナナミがそういうなら、ボクも少しは我慢するよ……」


 ……七海がだんだん(たくま)しくなってる気がするのは、俺の気のせい?


 ってかさぁ、今の俺らって三竦(さんすく)みの状態じゃね?

 だって、アリスは俺に弱いだろ?そんな俺は七海に弱い。そんで七海は……一番強い!


 ごめん、全然三竦みじゃなかったわ。


 正確に言うと、アリスは俺と七海に弱い。俺は七海に弱くてアリスに強い。そんでもって、七海は俺とアリスに……優しい!……やっぱり一番強い!


 ……はぁ、西門はまだなのかなぁ?そんなどうでもいいことを考えちゃうぐらい暇なんだが。




 ……あれ?なんかやたら大通りの坂道を歩いて来たけど、かなり遠くの方に見えてた城下町の城壁が、かなり近くに見えてきたんじゃないか?

 でも『ランティス城下町』って、俺達が昨日入ってきた門から北の方角にあったはずだよな?……多分。


「アリス、西門に行くんじゃなかったのか?こっちって、北方向じゃね?」


「うん?あぁ、この町は北から南までが長いだけで、東から西までは、結構せまいんだぞ?だから冒険者ギルドから、城下町の方角に向かって歩いて、ある程度したら今度は西の方角に歩いていけば、意外とすぐに西門に着くんだぞ?」


「ふーん。それだと『トラン』って地形的に、"おにぎりの上部分"みたいな形なのかな?」


 ……まぁ、そこまで急な勾配じゃないけどね。


「え?"オニギリ"ってのがよくわからないけど、多分それに近いと思うぞ?」


 ……いや、わからないなら、無理して話を合わせなくてもいいからね?

 こっちはわからないのを前提で、アリスに話してるんだからさ。

 なんたって俺は"少し変わってる男の子"らしーからね!

 それに俺は、そんな流されやすいアリスが、変な男に騙されないか、とっても心配なんだぞ?……って、誰だよ俺は!アリスのパパかよ!?


「アリスちゃん、おにぎりっていうのはね、わたし達の世界にあった食べ物なんだよ?」


「へぇー!そうなんだな!……っていうか、二人とも異世界人なんだっけ?……なんかボク、変な感じだよ……」


 ……どんな感じだよ?ムズムズしたりするの?


「や、やっぱり、アリスちゃんも……い、異世界人が怖かったりするのかな?」


 ……おや?七海のその話し方は『アリスちゃん、わたしのこと、どう思ってるのかな?』って、不安がってる話し方だな!

 七海研究第一人者の俺が言うんだから、ほぼ間違いないぞ?


「……ううん、怖くはないよ。ただ異世界人の話は、よく幼い頃に教会の人達から、イヤってなるほど聞かされてたからさ。何でも前の聖女様が、それこそ異世界人だったんだってさ。あと、その時代の勇者様も異世界人だったんだって……」


「ご、ごめんね、アリスちゃん……わたしのせいでイヤなことを思い出させちゃったよね?」


「え!?そ、そんなこと全然ないから……き、気にするなよな、ナナミ!それよりボクは初めて……と、友達ができたことの方が嬉しいんだから……さ!」


「……うん!ありがとう、アリスちゃん!……わたしも、優記くん以外のお友達は初めてだったから……わたし達、一緒だね!」


「そ、そうなのか!?うんうん、一緒だよナナミ!」


 ……あらあら、二人で両手を重ねて仲良くピョンピョン跳ねちゃってさ!

 なにこの急なライトな百合(ゆり)展開……もしかしてこのパーティーに俺って必要(いら)なくね?


 ……ちなみに七海に友達がいなかったのはほぼ、俺の素行の悪さが原因なのだ。もし、七海がそんな俺のことに(かま)わなければ、いくら奥手の人見知りだったとはいえ、七海は優しくてとても思いやりのある子だから、その気になればいっぱい友達ができてたんだと思う。ちょっと、そこは後悔だなぁ……


「なぁ、アリス……俺のことは嫌いになっても、七海のことは嫌いにならないでください!」


「はぁ?ユウキにいちいちそんなこと言われなくったって、もちろんそうするから心配すんなよ!」


 ……けっ、冗談が通じない子って、あたしゃーキライだよ!




「よし、ユウキ、ナナミ。ここらへんから西方向に向かって歩けば、すぐに西門に着くからな!」


「うん!わたしも、アリスちゃんばっかりに負担をかけないように、頑張って道を覚えていくね!」

「はいよー……うん?それにしてもこの『ランティス城下町』の外観って、スゲーなぁ?」


 かなり接近して感じたのだが、『ランティス城下町』をぐるりと円周状に囲む城壁の壮大さに、俺は少し感動してしまった。

 それもそうなのだが、さらに城壁の前にはお堀があり、それもまたぐるりと城下町を囲っていて、日本で言うところの"皇居"みたいな造りだった。

 ただ、大きさの規模はこちらは町なので、とてつもなくデカいし、限りなく中世ヨーロッパ風なので、比べる意味なんてないんだけどね?

 それとお堀を(また)いでいる跳ね橋(これを上げると門の入り口がピッタリと塞がる)の先には、兵士らしき人達が結構いた。門番なんだろうけど、寄合所やこのトランの門番に比べると、人数も装備も段違いだった。

 それに、その門の先には……


「優記くん?」

「ユウキ、この外観に見とれるのはわかるけど、今は依頼が優先だぞ!」


 ……うぉ!またもや思考に没頭してしまったぜ!


「ごめんごめん。それじゃー急ごうか!」


「「うん!」」




 俺達は西門へとたどり着いた。


 そこにもやはり兵士っぽい格好をした門番が二人いたが、アリスがギルドカードを見せることによって、特に話すこともなく、なんなく町の外へと出て行けた。




「へぇー。こっち側もほとんど草原ばっかなんだな!……あ、でもこっちの方が村みたいな集落がちらほらあるなぁ……」


「ユウキ達は南門の方から来たんだよな?ボクが知っている限り、そっち方面は寄合所とアトラの森、その先は高原くらいしかないもんな!……それにこの草原のほとんどが『アッサー』だから、これも立派な資源なんだぞ?ボク達が着ている服のほとんどが、このアッサーから出来ているんだぞ?」


 ……いやいや、"アッサー"って!そこはもう、(あさ)でいいやん!


「アリスちゃんはこの大陸のことに、とても詳しいんだね!」


「うん。他所(よそ)の大陸の出とはいえ、一応、公爵家の一員だったからさ。だからこの世界、『パンテラン』の事なら、必要最低限の常識くらいなら、大体わかるよ!」


 ……衝撃の新事実!この世界は『パンテラン』っていうのでありました!

 なんか、どっかの胃腸薬みたいな名前でなんか変じゃね?


「わぁ、すごいなぁ、アリスちゃん!」

「アリス、スゴイ!アリス、テンサイ!」


「や、やめろよ、二人とも!ぼ、ボク、人からあんまり誉められるのに、なれてないんだからさ!」


 ……あらあら、顔を真っ赤にしちゃってさ。……そっか、ホントにアリスって女の子は、純粋なんだな。

 だってさぁ、普通、いくら"元"とはいえ、公爵令嬢とかって、もっと"お高く"とまっててもよさそーなもんなんだけどな?やっぱり"聖女の再来"ってのが少し影響してるのかな?

 それに、七海もアリスに負けないくらい心が透き通ってるし、それに比べて俺ときたら……

 

 まぁ、俺くらいの"腹黒"が、このパーティーに一人くらいいないと、他の二人は素直過ぎて知らないおじさんとかに付いて行っちゃいそーだし、俺がいることによって、案外いいバランスが取れてるのかもな!……と、自分で自分を励ましてみたものの……少し(むな)しいぜ!……はぁ。


「アリス、ここら辺は人気(ひとけ)がないから、そのフード取ってもいいんじゃね?」


 ……顔が真っ赤でなんか暑そうだしね。


「そ、そうか?じゃーそうする」


 ……うん。やっぱり素直過ぎるな!

 こんな素直過ぎると、アリスのお父さんもお母さんも、心配でしょうがなかっただろーな。




 そんな何気ないやり取りをしながら足を進めていた俺達だったが、突然、七海が緊張した面持ちで声をあげた。


「あ!ゆ、優記くん、アリスちゃん!あそこの集落の動物さん達に、ゴブリンが……3体襲いかかってるよ!今は丈夫な柵のお陰でなんともないけど……それが壊されちゃったら、大変だよ!」


「「え!?」」


 ……どこだよ!例にもよって、全く見えないんだが!?


「うーん……やっぱり全く見えん!」

「な、ナナミ!どっち方面だ!?」


「あ、あっちだよ!」


 俺とアリスは、七海が指差した方向を目で追った。


 ……うん。やっぱり何も見えない!


「ユウキ、ナナミ!身体強化の魔法をかけるから……いくぞ!」


「うん!」

「お、おぅ……」


 ……どーした、突然!足でも速くしてくれるってこと!?




「時間がないから略式でいくぞ!?……聖なる光の女神よ、我に俊足(ちから)を!……『ホーリーアクセル!』」


 すぐさま呪文を唱え、身の丈ほどある杖を両手で掲げたアリスからは、眩しいくらいの光が(ほとばし)っていた。

 その光は掲げている杖の先端に集中していき、それを正面に構え直し、先端に圧縮されていた光の玉が、俺達に向かって真っ直ぐに飛んできた。


「うおぉぉーー!やられたぁぁーー!」

「ゆ、優記くん!今はそういうことをしちゃダメな時なんだからね!……あ、なんか足が軽くなったかも!」


 ……え?そんなすぐに魔法の効果って表れるの?プラシーボ効果とかじゃなくて?


「よし、みんな大丈夫そうだな!……ナナミ、先導を頼むよ!」


「うん!任せてアリスちゃん!では、二人ともわたしに付いてきてね!」


「あぁ!わかったよ!」

「お、おぅ」


 ……よし、頑張れ二人とも!俺はこのパーティーの"その他一名"として、それなりに頑張るからさ!




 そうして俺とアリスは、物凄い勢いで飛び出していった七海の後に、なんとか取り残されないように必死に付いていった。


「うひょーーー!!めっちゃ速いやん!!……あ、舌かみそう……」


「だろ?ボクはこの魔法を使って、いろんな魔物から逃げてきたんだからな!」


 ……いや、そこは自慢できなくね?




「みんな、もうそこだよ!」


 ……やっと見えたよ。確かにゴブリンが三体、家畜の柵を必死に壊そうとしてるな!


「なぁ!せっかくゴブリンが三体いるんだからさ、一人一体をノルマにしてみないか?」


「わ、わたしにも出来るかな……?」

「え!?……べ、別にいいけど……」


「大丈夫だよ七海!こんな時は七海の"異世界知識"で魔法をブっ(ぱな)せば、なんとかなるよ!アリスも肩の力を抜けば大丈夫だって!」


「うん!それじゃあ、なんとかしてみせるね!」

「じゃあ、ぼ、ボクも頑張ってみる!」


「おう!俺もせっかく魔力があるみたいだから、今回は天魔は封印して、魔法だけで倒してみるよ!」


「……っていうか、ユウキもナナミも、なんか魔法に関してノリが軽くないか!?魔法って使える様になるまでに、それなりの修練が必要なんだぞ!それに、相手はウスノロのゴブリンだとはいえ、魔物にはかわりないんだから、あんまり相手をナメてちゃ危険だぞ!」


「うん?最悪、七海とアリスが危なそうなら、俺の命に代えても二人を守るから心配すんなよ!」


「もう!また、そんなこと言って!」

「え!?そ、そうか、ありがとう、ユウキ……」


 ……七海の反応はいつもの(よりは強めだけど)だからいいんだけど、アリスの反応はなんかやりづらいだろ!?

 ま、俺の軽い命なんて、こんな時にしか使い道ないもんね!

 ……お!もうかなり近くなってきたぞ?

 それじゃー、なんか呪文でも唱えてみますかね!


「それじゃー最初は俺からいくぞ!……えっと、俺は"闇属性の塊"らしいから……闇魔法、闇魔法……よし、これにしよ!こほん。……『ダークソウル!』」


 ……俺が好きなゲー◯のタイトルを、ダーク繋がりでとりあえず叫んでみたけどどうかな!?


 目についたゴブリンの一体に遠くから右手を重ねる様に広げて、そんな適当な呪文を唱えた俺だったが、意外や意外、俺の手からは黒い光線のようなものが、照準を合わせていたゴブリンの心臓らへんを、何故か(とらえ)えていた。


「やったぁーー!何か凄いのが出たぞ!」


『グガアァァァーーー!!…………グガァ?』


「え?おいおい、なんともなってないやん!?」


 ……これじゃー俺とゴブリンが、ただ黒い光線で繋がってるだけやん!


「ゆ、優記くん!その手を握ってみて!」


「え!?……お、おう!」


 俺は七海に言われるまま、ゴブリンに照準を合わせたままの掌を"握った"。




『……グェ?…………グギャァァァァーーー!!』




 ーーーバタンっーーー




「うお!?なんかゴブリンが突然叫びながら倒れたぞ!?」


「多分だけど、ゴブリンの心臓に照準を合わせていた優記くんが、その掌を閉じることによって、ゴブリンの心臓も黒い光と一緒に、"閉じた"ってことじゃないかな?」


「え!?心臓も"閉じる"ってどーゆー意味なの!?まさか、心臓だけ握り潰しちゃったってこと!?」


「うん!多分そういうことだと思うよ!……ふぅ、良かった。"わたしの知識"が優記くんの役にたって!」


「「…………」」


 ……いやいや、その知識、どこから入手したのよ!?

 いくらライトノベルマスターの七海でも、それはちょっとご都合主義すぎない!?

 あ、そうか、七海はクラマの分体(俺はそのことについて、あまり考えないようにしているけど……)だから、なんか魂的(たましいてき)にわかったりしたのかな?……まぁ、そこら辺のことは、今は疲れるからいっか……


「次はわたしがいくね!」


 ……おいおい、呆けてる時間もくれないの!?

 アリスなんて俺の魔法と七海の発言のせいで、"ダブルに食らってる"んだから、そこは少しくらい空気読んでくれてもよくない!?俺にそれを言われちゃーおしまいだよ!?


「わたしは、闇と水と風の三属性(トリプル)みたいだから、今回は水の魔法を使ってみるね!……それじゃーえっと、『ウォーターボール!』」


 ……まぁ、ありがちな魔法っちゃ魔法だけど、なんだか楽しそーだね七海さん!


 七海も俺と似たような動作で『ウォーターボール』という、なんだかありがちな魔法名を唱えた。

 すると直径2メートルほどの大きな水の玉が、七海の掌の先に現れた。




「「「…………」」」




 ……まぁ、現れた"だけ"なんだが。

 

「……えっと、"これ"どうしたらいいかな?あ、そうだ!あそこの『ゴブリン』に向かって飛んでけぇーー!!」


「「…………」」


 ……飛んでけぇーー!!って、なんだよ!?毎回その魔法を唱える度に、そんな恥ずかしいことを言うわけ!?まぁ、可愛いからいいけど。


 そんな恥ずかしいセリフとは別に、放った魔法の方はちゃんと七海の言うことを聞いたらしく、何故か素直にゴブリンの方へと向かって飛んでいった。

 するとその大きな水の玉は、ゴブリンを勢いよく吹き飛ばした……気がしただけで、そのままゴブリンを水の玉の中に取り込んで、その場で停止してしまった。


『ブガァ?……プガッ、ブガァッ!!、プガァララッ!……ゴボゴボゴボ…………』




 ーーーバサンッーーー




「え?」

「え!?」

「はい!?」


 ……もう誰が何を言ってるかわからない状態だよ!?

 これってただの"溺死"じゃない!?


「……やったぁーー!初めて魔法が使えたよ!任務成功(ミッションクリア)だね!」


「お、おぅ」

「う、うん」


 ……いやいや、それでいいのか、七海よ!!


 ……たまに思うんだが、俺が初めての異世界にあまり躊躇してなかったのって、七海世界(ナナミワールド)に先に(てんい)していたせいもあるのかもしれない……だって"そっちの方"が、難易度が桁外れに大変だからね!?




「最後はアリスちゃんが、かっこよく決めてね!」


「…………」


「アリスちゃん……?」


「……うへ!?……あ、う、うん。……そうだな、ボクだってナナミやユウキに負けてられないもんな!」


 ……よし!よく耐え抜いたぞ、アリス!


「ボクは戦いは苦手だけど、こんな機会だから、初めて使う魔法でゴブリンを倒してみるよ!」


 ……え?無理すんなよ、アリス。だっておまえって"逃げ専"のアリスなんだろ?


「じゃーいくぞ!……聖なる光の女神よ、我に神器(ちから)を!……『ホーリーランス!』」


 先ほどの様に呪文を唱えたアリスは、身の丈ほどある杖を両手で掲げ、例の如く眩しいくらいの光が(ほとばし)っていた。

 その光は掲げている杖全体に行き渡っていき、瞬く間にその形状を、神々しいまでに光る槍へとその姿を変えていった。


「よし!成功だ!……いくぞ!……うりゃあぁぁーーーー!!」


 ……いやいや、その槍、投げないんかい!!

 てっきりその槍を投げて攻撃するのかと思ったら、めっちゃ走り出したやん!まさかの近接攻撃!?聖女(仮)なのに!?


「……うりゃあぁぁーーーー……あっ!足が……!?」


 ーーーコテン!……バタン!ーーー


「あっ!()けた!」

「アリスちゃん!?」


 ……だから言わんこっちゃないでしょ!?


(いた)たたぁ……」


『グァ?……グガァァァァーーー!!』


「あ、……きゃあぁぁーー」


 ……あ、やば!そんな無防備な姿を晒してるから、ゴブリンに狙われてるやん!それに、悲鳴がなんか可愛い……いやいや、雑念よ去れ!!


「アリスちゃん!……あ!ゆ、優記くん、アリスちゃんがゴブリンに襲われそう!」


「合点承知の助っ!後は俺に任せときな、七海!」


「う、うん!!」


 俺は襲われているアリスの元へと全力で駆け出し、その最中で亜空間から天魔を取り出すことにした。


「『亜空間!』……よし!走っててもちゃんと出せたぞ!……後は……『出でよ天魔!』……これも成功!……あとは……」




 ーーーズササササッ!!ーーー




「秘技、『スライディング、真一文字(まいちもんじ)!!』」


 あわやのタイミングだったが、間一髪、アリスとゴブリンの前に滑り込み、その勢いのままに天魔をゴブリンへと振り抜いた。




 ーーーザンッーーー




『グガァ?』




 ……お前らってそのリアクションしか出来ないのかよ?


 じゃーな!『お前はもう◯んでいる』ってな!




 ーーーズサンッーーー




「よし!今日も見事に()(ぷた)つ!やったね!」


「……あ。……ゆ、ユウキ…………う、うえ~ん!こ、怖かったよぉ~!」


「……うへ!?お、おい、アリス……いきなり抱きついてくるなよ!?」


 ……な、七海が凄い勢いでこっちに向かって来てるから、なんかイヤな予感が……ね?


「ゆ、優記くん!そ、そんなのダメなんだからね!?」


 ……えっ!?なになに!?どーゆーこと!?

 "そんなの"ってどんななのよ!?


「ふぁっ!?……も、もちろんわかってるよ!?……はい!後は七海が代わってね!」


「……もう!」


 俺は何故か身の危険を感じたので、泣きながら抱きついてきたアリスを無理やりひっぺ返して、鬼気迫る形相の七海にアリスを押し付けた。


「……ナナミ、怖かったよぉーーー……うえ~ん!」


「うんうん、よしよし。怖かったよね、アリスちゃん。今度からはわたしに抱きついてきてね?」


「……うえん?……う、うん。わかったよ……」


 ……こわっ!!七海がアリスを抱き締めながら頭をよしよししてるよ……無表情で!!

 その表情を見たアリスが、ピタッと泣き()んじゃったやん!?


「……あ、ユウキ……助けてくれてありがとうな?」


 ……やめろ!今はそんな上目遣いをしていい時じゃないのが、今のお前にはわからないのか!


「お、おう。今度からは無茶しないで後衛で俺達を援助してくれると、"いろいろ"と助かるよ……」


 ……マジでな!


「アリスちゃん、あんまり無茶なことはしちゃダメだよ?これから前衛は優記くんにお願いしようね?」


「うん!わかったよ!二人ともありがとう!」


「うん!」

「お、おぅ……」


 ……まさか戦闘より"こっちの方"が大変なんじゃね!?




「きゅーーー!!」


 ……はいはい、お前はお前で気楽でいいよな?そーやって魔素を吸ってるだけでいいんだからさ!

 おや?しっぽも二本目の半分くらいまでエネルギーチャージ出来たやん?

 これならしばらくは、"昨日みたいな状態"にはならなそーだな。

 ……はぁ、それはそうと、なんかどっと疲れたかも……


「優記くん!魔石が三つ手に入ったよ!」


「……ん?……お、ホントだ!じゃー魔物関連の素材は七海の『アイテムボックス』で管理しててくれる?俺の方は狐様(クラマ)のお古だから、私物以外は入れない方がいいかもしれないからさ!」


「うん、いいよ!」


 ……よし、一段落したし帰ろうかな!……あれ?なんか忘れてないかな?……あ!そうそう、確かこういうのって、討伐の(あかし)みたいのが必要なんじゃなかったっけ?

 たしか、右耳を切って持って帰るとかそういうやつ……って、クラマが死体を魔素に変換して、全部吸収しちゃったやん!?


「なぁ、アリス」


「……な、なんだ?……ユウキ」


 ……なんで伏せ目がちで頬を染めてるんだよ!ちょっと(我ながら)格好よく助けたからって、そんなにチョロい雰囲気を漂わせてると、俺は逆に心配になる性分(たち)なんだからな!

 ホント、しっかりしてよね!


「こほん。……ゴブリンを倒したはいいけど、クラマがゴブリンの死体を魔素に変えちゃったから、これって倒した証拠が魔石しかないんだけど……あれ、魔石でいいのかな?」


「あぁ、なんだ、そんなことか。確かにユウキの言う様に、討伐の証として魔石を持ち帰るのも、その時の状況によってはアリなんだけど、それ以前にギルドカードに自然に記入されるから、そこら辺は何の心配もないんだぞ?」


「え?そうなの?」


 ……お前も今日から冒険者になったくせに、知識だけはベテラン並だな!


「あ、本当だね!ほら、これを見て、優記くん」


「あ、確かにちっちゃく『個人=ゴ1、パーティー=ゴ3』って書いてあるな!……って、わかりづら!」


 ……こんなの虫眼鏡で見ないとほとんど内容がわからないぞ!?

 そのうち討伐を重ねていったら、ギルドカードの裏面が相撲の番付表みたいになるよ!?


「あはは!それは今だけで、討伐の報告の際に、ギルドの受付のところにあった石板にカードをかざせば、その文言(もんごん)は消えるからね!ただ情報としてはギルドに残って管理されるから、そこら辺は何の心配もないんだぞ?」


「あ、そういうシステムなのね!……なんかこっちの世界の方がテクノロジー的に凄い気がするんだけど……」


「優記くん、そういうものだよ。"異世界"って!」


 ……おいおい、そんな簡単にそんな素敵な"魔法の言葉"で片付けないでおくれよ!

 俺があれこれ考えているのが、馬鹿らしくなってくるでしょ!?

 ……まぁ、七海がそう言うなら、そういうことにしときますか!


「そっか、そういうものなのね?……ふぅ。なんか疲れたし、そろそろ戻ろっか?」


「うん!」

「あぁ!」






 ーーーーそうして優記達は初依頼を見事に成功させ、冒険者ギルドへと戻っていくのであった。ーーーー





 

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