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第三章 第五話

 翌朝、俺達は朝の鐘の音で目を覚ました。

 確かこの鐘の()は、この宿の食事の時間を知らせるためのものだ。

 それをきっかけに、俺と七海は"ムクッ"とベッドから体を起こし、お互いに配慮しながら黙々と着替えを済ませ、半分眠気まなこのまま、下の食堂へと向かった。


 いちいち説明する必要はないとは思うが、クラマのことはなるべくなら人目を避けたいので、周りに誰もいない時や食事の時、それに入浴の時以外の時間は帽子形態になってもらっている。


「おーい!こっちこっち!」


「あっ、アリスちゃん!今、そっちに行くね!」


 アリスが一番奥のテーブルから手を振っていた。

 他の席もちらほら他の客で埋まっていたが、昨日の夕食の時間程の埋まり方ではなかった。

 多分、ここの宿泊客は見た目からして冒険者が多かったので、すでに何組かはギルドへと向かって行ったのであろう。

 

「あれ?俺達の朝食も頼んでおいてくれたんだ?」


「まあな!ボクも君たちと一緒にギルドに行かないと、なんかギルマスに怒られそうだから、少しでも早くギルドに行けるように、勝手に君たちの分も頼んでおいたよ!」


 ……勝手にとは言いつつも、なかなか細かい配慮が行き届いてるよな、アリスって。俺も少しは見習わないとな!


「ありがとな、アリス!」

「ありがとう、アリスちゃん!」


「よ、よせよ!なんにも大したことなんてしてないんだからさ!そ、それより早く食べないと料理が冷めちゃうぞ?」


 ……さすが、ツンデレロリボクっ子のアリス。

 それにしても、今は猫耳付きフードを頭に被ってないから顔がよく見えるけど……ホントに言動と顔に、"天と地ほどのギャップ"があるよな?マジで黙ってたら、俺らの世界でトップアイドルグループのセンターを、楽に張れるくらいの可愛さだぞ?

 ……まぁ、俺は七海一筋だから我慢?出来るけど、普通の思春期の男の子なら発狂するレベルだな。


「おし、それじゃーお言葉に甘えて……いただきます!」

「あ!わ、わたしも……い、いただきます!」


 ……昨日は説教のオンパレードだったから、夕食に何を食べたのか、ほとんど覚えてないぐらいの状態だったけど、こうして改めて見るとなかなか旨そうな朝食だな!

 太めのベーコンに目玉焼き、それにポテトサラダに黒パン、そんでジョッキに入ったミルク。とても"あっち"の朝食に似ていて違和感なく食べれそうだよ!……まぁ、全て食材の冠には『何かの』って単語が付くけどね。


「うん?その"いただきます"っていうのは、ユウキ達の育った場所での、食べ始めのお祈りか?」


 ……ん?……あぁ、忘れてたわ!確か、『豊穣の女神様があーだこーだ』だったよな?うん。絶対に思い出せないな!


「そうだよ!"命を頂きます"ってことさ!」

「ゆ、優記くん……その言い方だと、何か怖いよ?」


「ふーん。まぁ、ボクも昔は一般的なレムリアス教徒だったから、お祈りしてから食べるのが習慣だったけど、冒険者を目指し始めてからはお祈りするのをやめたんだ」


「え?何でわざわざやめたんだ?」


 ……なんかいちいち大袈裟な子だよね?


「まぁ、大したことじゃないけど、一番の理由は宗教の対立を避けたいからかな?」


 ……大したことじゃないとか言いつつ、内容の規模がちょっとデカすぎない?なんで『いただきます』の言い方が違うだけで宗教が対立するんだよ。もしかしてあれかなぁ?アリスって、"自己評価高過ぎ系女子"なのかな?……まぁ、いいや。


「そ、そうだね!それに、冒険者は冒険者同士の詮索は御法度(タブー)だもんね!」


「ま、そういうことだな!」


 ……おぉ?七海のヤツ、上手いこと自分達のことは伏せつつ、うろ覚えの冒険者理論で、今のアリスの話を"しれーっと"うやむやにしたな?

 ホントに七海は頭も良くて、顔も可愛くて、性格も良いなんて……天使そのものじゃんか!あ、今の内容と全然関係なかったか。まぁ、それよりも……


「……早く食べようぜ?」


「うん!」

「あぁ!」

「きゅー!」


 ……『きゅー!』って、君はそこそこ目立つんだから大人しく食べてね?……ってか、アリスの野郎、ちゃんと小皿にクラマの分も用意してあるじゃんか!?マジで喋んなかったら、女子力の(かたまり)みたいなヤツだな!?


 そうして俺達は朝食を済ませ(かなり美味しかったよ!)、冒険者ギルドへと向かって行ったのであった。




    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「あのー!受付のお姉さん!ギルマスを呼んでもらっていいですか?」


「あら、またあなた達ですか……わかりました。少々お待ちください……」


 俺はギルドに入ってすぐに、昨日の受付のお姉さんを探して、そのお姉さんを見つけるや否や、一直線でそこへ向かい、今に至っている。


 ……あら?今日の"鉄壁のモブ姉さん"はやけに素直だね?

 俺達がギルマスを直接呼べる人間だとわかったから、大人しくなっちゃったのかな?それとも、長いものには巻かれろ的な権威主義者なのかな?……って、どんだけ俺は性格が悪いんだよ!自分で考えてたのに自分でビックリしたわ!

 ダメだぞ、優記。昨日の説教の数々を思い出すんだ!ここは悪態付くのを我慢して…そう、スマイルスマイル!


「はい!お願いします!」


 俺の返答を聞き次第、受付のお姉さんは席を外した。


 俺達は他愛もない話をしながら待っていると、しばらくして受付のお姉さんが戻って来た。


「お待たせしました。ギルドマスターから『あん?やっと来やがったか……昨日の面子で俺の部屋に直ちに来い!って、あいつらに言え!』との言付けを頂いたので、早速ですがそちらに向かってもらえますか?」


 ……わざわざギルマスの声真似する必要、なくない?


「「「わかりました!」」」


 俺達はすかさずギルマスの部屋へと足を運んだ。




 ーーーコンコン!ーーー


「優記です!」


「おう、早く中に入れ!」


「「「失礼します!」」」


 俺達は部屋に入るや否や、昨日の様にギルマスに顎で促されてソファーに腰をおろした。


「今日は宜しくお願いします!」

「あ……よ、よろしくお願いします!」

「うへ?……よ、よろしくお願いします!」


「おうおう、ごちゃごちゃとうっせーな!誰かを代表にして喋りやがれ!……坊主、今日はお前が喋れ!」


「はい!お任せください!」


「……あん?今日はやけに殊勝だな?」


「性根を入れ換えて参りました!」


「はん!昨日の今日で性根を入れ換えられるなら、俺はギルマスで苦労なんてしてねーよ!いいから、取って付けたようなその敬語をやめろ!」


 ……え?いいの?あとで怒らないでよね?


「うん!わかった!」


「……黒髪の嬢ちゃんは芯が太いと思ったが、坊主は神経の方が、かなりぶっといのか?それとも麻痺してるのか?どっちなんだよ!」


 ……どっかの芸人みたいな言い回しだな?筋肉の付き方もそっくりだし。


「よく言われるけど、多分その両方だよ?」


「はぁ。おめーはマジでヤバいヤツなんだな?まぁ、今さらそれはどうでもいい。それで今日ここにお前達を呼びつけた理由だが、何点かある。いいな?」


「うん!」

「「は、はい!」」


「まず1つ目は……そうだな、勿体ぶって一番後にしよーとしたが

、冒険者登録の件についてだな」


 ……おぉ!言い方は気に食わないけど、やっと冒険者になれるのか!オラ、ワクワクしてきたぞ!


「うん!」

「「はい!」」


「坊主、何がなんでも敬語を使わない気だろ?……まぁ、それでいいんだけどよ。まずはこの紙に名前と性別、年齢と出身地、あとは得意なスタイルを書け!あと、そのなんだかよくわからない狐の主人も今ここで決めろ。そいつをテイマーとして上手く纏めといてやる!」


 ……なるほどな、冒険者になるための履歴書みたいなヤツってことね。

 それじゃー、一応記入する前に記入欄を確認しておくか。まずは……名前は当たり前だけどわかるだろ。性別と年齢ももちろんわかる、出身地は……冒険者ギルド直営の寄合所?でいいのかな?

 あとは得意なスタイル……得意なスタイルってなに!?

 えーと、髪型とかのことですか?それなら"モヒカン"って書けばいいのかな?……モヒカンじゃないけどさ。うーん。わからん!


「わからない所はどーしたらいいの?」


「あとで適当に埋めといてやるから、名前以外は適当に書いとけ!」


「うん、わかった!」


 ……そんなんでいいのかよ!?考えて損したわ!

 あ、そうだ、クラマの主人(飼い主みたいなことか?)を決めなきゃいけないんだよな?

 それなら俺はパスだな。なんたっていつも飼い犬(狐)に噛みつかれてるからな!もちろん、アリスは関係値的に無理だし、七海一択だな!考えるまでもなかったわ。


「えっと、クラマの主人のことだけど、七海にクラマの主になってもらっていい?」


「うん!わたし達は家族だけど、形式的(しょるいてき)な主になるなら、九ちゃんも嫌がらないと思うから、それでいいよ!」


 そんな会話を挟みつつ、俺達はそれぞれに手渡された書類を備え付けの羽ペンで書いていった。

 俺達は、日本語で書類の空欄を埋めていったのだが、そこである驚くべきことにお互いが気付いてしまった。

 それはなんとペンの走り方と日本語の書き順がまるで違っていたのだ。

 俺達は日本語を書いているようでこちらの文字を書いていたのだ。

 わかり辛いと思うので簡単に説明するが、俺達の書く日本の文字や、俺達が話す日本語が、ごく自然にこの世界の言語に翻訳変換されていたのだ。

 俺達には日本語に見えている文字や耳に入ってくる言葉等は、一切のラグもなく、お互いの言語に変換されていたという訳だ。


 ……異世界あるあると言えばそこまでなんだけど、なんか何とも言えない気持ち悪さもあるんだよね?

 便利だからってすぐに受け入れられる異世界小説やマンガの主人公達が羨ましいぜ、まったく。


 


「おう、書けたみたいだな?つーか、ホントならこんな七面倒くせぇーことなんか、ギルマスの俺がやることじゃねぇーんだからな?お前ら、俺とタフィーに本気で感謝しろよ?……そんで次はこの水晶だ。とにかく誰でもいいから手を当てろ!」


 ……以外に面倒見良いよな、ギルマスって。口は死ぬほど悪いけど!

 じゃー次はよくある水晶の鑑定ね?

 もしかしたら壊しちゃうかもしれないけど、そこは許してね?

 やっぱり"テンプレ的"なことが起きちゃうと思うからさ!ってことで、まずは……


「……俺からいくね!ほい!」


 俺はすかさず水晶に手を添えた。

 すると、直径30センチ程ありそうな水晶玉の色が、一気に真っ黒になった。


「おいおい!?驚くほど坊主は闇属性だな!?……一応面倒くせぇーが説明しといてやる。その水晶の発色で光、闇、火、水、風、土、雷の属性がわかって、色の濃さでその属性の内包している魔力量を計るんだが……真っ黒じゃねーかお前!?見たことねぇーぐらいに真っ黒けだな?坊主の腹ん中を調べたわけじゃねぇーんだけどな……こりゃ、まいったな……」

 

 ……え!?俺の腹ん中の色がバレちゃったの!?って、なんか"こんなんじゃない感"が半端ないんですけど?

 まず、闇属性ってなんだよ!俺ってやっぱり、いつの間にかに闇落ちしてたのか?……まぁ、ホントはなんでもいいんだけどね?


「つ、次はわたしが行きます!」


 ……お?次は七海だな!間違いなく属性は"光"です。


 七海が水晶に手を添えたとたんに、水晶の色が何色かに発光しだした。


「……黒髪の嬢ちゃんは嬢ちゃんで、闇と水と風の三属性(トリプル)かよ!?どれだけ貴重な人材かわかるか!?はん、どーせわかんねぇーだろーな?それも坊主と一緒でかなり濃い色だぞ!?しかも、なんで闇が紛れ込んでるんだよ?普通、光と闇は他の属性と混在出来ねぇーんだぞ!?坊主と一緒に居すぎて闇が無理やり紛れ込んできたのか!?どーしよーもねぇ、坊主だな!」


 ……なんで俺のせいなんだよ!

 それにしても七海に光属性が無いなんて……どーせこれは、イカサマ占い師が愛用している水晶か何かなんだろ?


「さ、最後はボクが……行きます」


 ……アリスは多分"風"だな!

 なぜなら、自由気ままっぽいし、それでいて流されやすそうだし、そんな吹けば飛びそうな軟弱ワガママ猫だ!


 そんなアリスも俺達を見習い、少し緊張した面持ちで同じように水晶に手を添えた。

 すると、水晶から光が光線の様に飛び出し、その光が部屋中に溢れかえっていた。


「……白髪の嬢ちゃんはせめて普通だろぉ?って思った俺が馬鹿に見えてくるわな?なんだよ、そのピカピカピカピカ光りくさりやがってよぉ!目がおかしくなるじゃねぇーかよ!光も光、見たことねぇーくらいの光属性だ!……お前、レムリアス教の奴らに見つかったら、間違いなく聖女にされちまうぞ!?」


「ボクは……そ、それは困ります……」


「はん!冗談だよ!んで、そこの狐!なんで俺の前でも帽子になってんだよ!昨日の恩を忘れたのか?早くそいつにも水晶に振れさせろ!」


 ……おいおい、あんまりその狐様を煽らないでくれよ?被害が俺に及ぶ可能性があるから、地雷の様に丁寧に扱ってくれる?

 見ろよ、七海とクラマの顔を。二人仲良く目を細めて睨まれてますよ、ギルマスさん?……あれ?俺もついでに睨まないでくれると助かるんですけど。


 七海はギルマスの言動に少し怒りの感情を表したが、一瞬でそれを引っ込めて、クラマの手(前足……もう、手でいいよね?)を水晶に触れさせた。

 するとその水晶はまるで虹色のように輝きだした。


 ……なんか、フィーバータイムみたいな光り方だな!?なんか踊りたくなって来たぞ!?


「おいおいおいおい!?ひ、光以外全部じゃねーかよ!?それも限界まで濃い色だぞ!?大丈夫か、その狐?魔王の再来とかじゃねぇーよな?場合によっちゃ……いや、黒髪の嬢ちゃん、その狐の舵取りはもちろん出来るんだよな……?」


「はい!もちろんです!この命に掛けても、ご迷惑になるようなことにはなりません!だって、九ちゃんはわたし達の家族ですから!」


「おう、それでいい。満点の答えだ。……ふぅ。朝から疲れんなぁ、なんかよぉ……誰かギルマス代わってくんねぇーかなぁ?」


 ……なんだと!?いきなり新米冒険者(仮)がギルマスになれるだと!?


「あ、じゃー俺が……」


「ゆ、優記くん!昨日のこと忘れたの!!」


「ホントにごめんなさい!」


 ……うぅ、今のは笑ってもらえる冗談だと思ったのに……芸の道は険しくて長いんだね?


「ぼ、ボク、ユウキのことが少し怖くなってきたよ……」


 ……なんで怖がるんだよ!それも結構ガチ目にさぁ!

 俺だって少しは傷付くんだからね?


「おう、漫才はそこら辺にしとけ。俺はさっきから全く笑えないこと続きなんだから、少しは年長者に気を遣えや?……はぁ。そんで、次は坊主の持っている薬の鑑定だ。良かったな坊主?普通ならこんな面倒なことを俺はしねぇーんだからな?タフィーの頼みだからするんであって、坊主の頼みなら拳骨くれてやるところだったぞ?ちゃんと感謝の手紙でも後で送っておけよ、いいな?」


 ……こわっ!なんで鑑定頼んだら代わりに拳骨くれるんだよ!?ただのバーサーカーじゃねーかよ、このギルマスは!

 まぁ、ここで反応したら相手の思うツボだ。ここは可愛く、一つ返事でもしとくか?


「うん!」


 俺はそんな返事と共に、手早くリュックからエリクサー(笑)入りの瓢箪(ひょうたん)を取り出し、テーブルの上に置いた。


「ふん。じゃー始めるぞ!?『アイテム鑑定!』…………ん?…………はぁ!?……………こ、こりゃー、やべぇーだろ…………?」


「え!?違法薬物かなにかだった?」


「…………そんな生易しいもんじゃねぇ……どんな鑑定結果が出たか教えといてやる……」


 以下がギルマスの鑑定結果だ。


 [アイテム名]

 神乃雫(かみのしずく)

 [効果•効能]

 使用した者を全快させる神薬。

 体力、魔力を始め、傷や欠損、病気や不治の病までも元通りにして治してしまう、異界の神が生成したと云われる伝説の神薬。ただ例外もあり、精神生命体やゴーストなどの、この世の理から外れているものに対しては効果が薄かったり、逆に猛毒になる恐れもある。


 [アイテム名]

 九尾の瓢箪(ひょうたん)

 [効果•効能]

 中に入れた液体を使用後に必ず元の量の状態に戻す入れ物。

 別名、魔王の薬筒。いくつもの世界を渡り歩き、その全ての世界で厄災を振り撒いたとされる、伝説の魔王の持ち物。


「「「………………」」」

「きゅー?」


 ……えっと、まさか今日一番驚いたことが、まさかのエリクサー(笑)のことだったなんて!

 いや、中身もそうだが、その入れ物(瓢箪)の方がもっとヤバいだろ?だから飲んでも飲んでも減った気がしなかったのか!

 いやいや、それもそうだけど、特にその瓢箪の説明が一番驚いたぞ!?……って言葉だけじゃ言い表せないくらいのヤバい内容だったわ。


 なんだよ、"魔王の薬筒"って!


 なんだよ、"伝説の魔王"の持ち物って!


 ……ってことはなんだ?狐様(クラマ)は魔王だったってことか?

 大妖怪じゃなくて?それとも、その両方ってこと!?


 なんか、頭が痛くてなってきたわ……


 あ、こんな時はこれ飲んじゃお!




 ーーーーきゅぽん!グビグビ!ーーーー




「ふぅ。落ち着いた!」


「おい、おめぇ、こんの馬鹿野郎が!今の流れでなんでそれを飲めるんだよ!?」


「え?だってなんか頭が痛くなってきちゃったから、いつもみたいに『グビッといっとく?』って感じで飲んだだけだよ?」


「……俺の方が頭が痛いに決まってんだろぉーがよぉ!?……あぁ、くそっ!そんでその薬の持ち主は誰なんだ!わりぃーがそこだけは嘘も誤魔化しも無しだ。いいな?これはお前らがここの冒険者になるための最初で最後の試験だと思え!」


「うへ!?ぼ、ボクもそれに入ってるんですか!?」


「あたりめぇーだ!こんな秘密を共有しちまったら一蓮托生になるに決まってんだろ?白髪の嬢ちゃんには悪いがこいつらが本当の事を言わなかったら……言わなくてもわかるよな?」


 ……ヤ◯ザの脅迫キターーーー!!


「ゆ、ユウキ、ナナミぃーーー!!ボク、ここで冒険者になれないと本当に困るんだよぉーー!……え~ん、え~ん!」


 ……めっちゃ可愛く泣くやん、アリス。

 もう、お前は喋らなきゃ、何もしないでも衣食住には困らないと思うぞ?

 ……うーん。それにしてもどーしよーかなぁ?さすがに七海と相談しなきゃいけないだろ、これは。


「七海、どうする?」


「うん。……そうだ、九ちゃんに聞いてみるね!」


「お、おう」


 ……なんか、ここから先はシュールな感じになりそうだぞ?


「九ちゃん、本当のことをギルマスさんに教えても、クラマ様は怒らないと思う?」


 ……いや、いきなり持ち主の名前、思いっきり言ってませんか!?


「きゅ、きゅ、きゅきゅーー!」


「た、たしかに!クラマ様はそんな小さなことで怒ったりするわけないもんね!」


 ……いやいや、もう答えたようなもんだから、そのやり取りやめてもいいよ?


「きゅーーー!」


「だよね!じゃあ、ギルマスさんに言わなきゃね!……こほん。あのね、優記くん。九ちゃんがクラマ様のことを話しても大丈夫だって言ってるよ?」


「うん。よかったね」


「も、もう!いつも優記くんはそうなんだから!」


 ……うん。そうだね!君もだけどね!

 はっ!ダメだぞ、優記!七海ワールドに入り(びた)っていたら、いつの間にかにおじいちゃんになってしまうぞ!?


「ご、ごめんごめん!それじゃーギルマスにそれを言っちゃってくれる?」


「うん、わかった!」


「「………………」」


 ……ギルマスと、アリスが面白いぐらい"キョトン"としてるぞ?

 そりゃそーだよな?誰が持ち主かこれで分からなかったら、俺以上に間抜けだぞ?


「……ギルマスさん。実はこのかわいい狐さんが、実はクラマ様という偉大なお方の"写し身"なんです。とても信じてもらえる内容だとは、わたしも思いませんが、本当のことなので、信じてくれると嬉しいです。今、九ちゃんは魔素……多分本当はそれだけではないのかもしれませんが、いろいろとエネルギーが不足していまして、今はこんなかわいい狐さんの姿になっているんです。それで、本題なんですが、その薬の持ち主は……実は……そ、そのクラマ様の持ち物なんです!……で、でも、決してここだけの秘密にしておいてくださいますか?わたしはその了承を元に、九ちゃんから教えてもらったので、そこだけは宜しくお願いします!」


「………………」


「えっと、ギルマスさん?」


「……あ、あぁ。わりぃな黒髪の嬢ちゃん。少しいろいろとありすぎて呆けちまったわ。……わかった、わかったから、もう気楽にしといてくれ。じゃねーと、俺もその薬の世話にならなきゃいけなくなりそーだからな?」


 ……どうせ、減らないらしーから飲んでもいいよ?

 でも、間接キスはやだから、ちゃんとマイコップに注いでね?


「え!?そ、それでは、今の話を信じていただけるんですか!?」


「……あぁ、まあな。ぶっちゃけ真偽はわからねぇーけど、そんだけ間抜け……必死に説得されちゃー、俺だって少しは(ほだ)されちまうだろ?別にそこまで俺は鬼じゃねぇーからな?」


 ……あっ、おま!俺の七海に向かって"間抜け"って言おうとしただろぉー!?

 せめて"お間抜けさん"ぐらいにしてあげないと、次は許さないからな!!


「で、では、わたし達は冒険者になれるってことですね!?」


「あぁ、なれなれ。強くて立派な冒険者に、この"トラン"で是非ともなってみせろよ!わかったか、お前達もだぞ!?」




「「「は、はい!!!」」」




 ーーーーそうして俺達は無事にここ、『冒険者ギルド、トラン支部』の新米冒険者になることが、出来たのであった。ーーーー








 



 











 そこそこ文字数も増えて来たんですけど、いまだに優記達は異世界に転移してから3日しか経過してないんですよね。

 このままではス◯ムダ◯ク並みに時間経過しない物語になってしまうぞ!?

 そんな作者に"叱咤激励"という名の、ブックマーク、評価等をしていただけると嬉しいです!

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