第二章 第十六話
「では、始めるわね……」
うぅ……なんかタフィーさんの"異世界講座"が今から始まるみたいだけど、俺さぁ、お金とかの話ってあんまり興味ないんだよなぁ……
『この銀貨1枚でリンゴが◯◯個買えるぞ?』ぐらい、わかれば十分なんだけど。
七海は七海で最初は"ビクッ"としてたけど、今では目がキラキラ輝きだしてるし、この世界のお金の話しなんか聞いてなんか楽しいことでもあるの?
七海の影響で俺も"異世界もの"とかは好きっちゃ好きだけど、『元いた世界の知識で商売始めて儲けちゃいました!』とか、『元いた世界の物をスキルで取り寄せて~異世界転売無双!』とかの話しも嫌いではないんだけど……そんなにお金の話しとかでワクワクとかはしないかな?どっちかって言ったら、剣と魔法の入り乱れる壮絶バトルとかの方が、よっぽどワクワクするけどなぁ……あ、もちろん今のは個人の感想ですよ?
あれ?そーいや、この世界って魔法とかってあるのかな?今のところ、こっちの世界にしか無いものってなんだ?
えーと、魔物がいたな。魔石もあった。特殊技能もあるみたいだし、それと異世界人も昔は存在していたかもしれないらしい。今んとこ、見たり聞いたりはそれくらいだよな?……あ、忘れてた!冒険者がいるって言ってたじゃん!ってことは冒険者ギルドもあるってことだろ!?おら、ワクワクしてきたぞ!
……うーん。それならなおさらタフィーさんに魔法がこの世界にあるのか聞いてみよーかな?……ん?だってさぁ、冒険に魔法はつきものじゃんか!……でもなぁ、"今"聞いたら、また白い目で見られそうだし……
「……ユウキ君、私の話しをちゃんと聞いているのかしら?」
ーーーギクッ!?ーーー
「も、もちろんですとも!タフィー先生!!」
「…………………」
……あ、やばっ!?またやっちゃった!今のはちょいとダメだったかも?……でもさぁ、仕方ないんだよ?タフィーさん、ホントに学校の先生みたいなんだもん。
「……ゆ、優記くん。一緒にあやまろ?……ね?」
「は、はい……」
……こんな時はすぐに謝らないと後々面倒なのよ。俺はそういうのは経験則でよくわかってるからね。
それにしても昔から七海は、自分は何も悪いことしてないのに、なぜか俺と一緒にいつも謝ってくれてたよなぁ……だからこういう時の七海には、僕はまったく頭が上がりません!
では折角なので、お言葉に甘えて……せぇーのぉ、
「「タフィーさん、ごめんなさい!」」
「はぁ……まぁ、いいわ。ナナミちゃんのためにもユウキ君はもう少し真剣に取り組んでちょうだいね?余計なお節介であなた達を引き留めてるのは私の方だけど、これからのあなた達にとても重要なことなんですからね?」
「「はい!」」
「よろしい!では続けるわよ?……この世界にはね、いろんな種類の通貨があるの。例えばこのトランティス大陸で一般的に流通している通貨は"ティア"というわ。北のムーナインザニア魔大陸では"ムーア"ね。東のシフェスタ帝国では"スタン"、西の聖レムリアス皇国では"リアス"、最後に南にある、自由国家連合ガラニカ共和国では"イエン"よ」
……え?そこから!?この世界に流通してる通貨の話しなんて、今の俺らにあんま関係なくないか?……そりゃあ、いつか必要になる時はあるかもしれないけど、今からそんなに詰め込んでたら頭がパンクしちゃうよ!?
それになんで、最後の自由なんちゃらだけ"イエン"なんだよ?なんか親近感わいちゃうじゃん。『お会計は150イエンになります!』みたいな感じだろ?
それより、タフィーさんが今話してた通貨の話だけど、ちょっと内容が壮大すぎやしません?だっていろんな国や大陸の名前がバンバン出てきたよ!?この世界の一般的な人の知識レベルがどれくらいかわからないけど、タフィーさんは間違いなく俺よりも頭が良いです!まぁ、最初からわかってたけど。
……あれ?なんか隣で七海がモジモジしてるぞ?ふむふむ。これは多分、タフィーさんに聞きたいことがあるけど、失礼になるかもしれないから我慢してるやつだな?
わいが助け船だしちゃるから、待っときぃ!
「タフィーさん!質問いいですか!!」
「あら、今の"間"はよかったわね?……うふふ、冗談よ。質問は何かしら?」
「七海どうぞ!」
「……え!?」
「どうぞ!」
「……あ、はい。えっと、い、今タフィーさんが仰っていた、この世界で流通している通貨の話は、とても興味深いものがたくさんありました。それにいろいろな国や大陸がこの世界にあるのにも、とても感動しています。そ、それで質問なのですが、優記くんが持っていた"この共通金貨"って一体、何なのでしょうか?き、共通という冠が付くからには、他の通貨との関係がどの様なものなのか、少し疑問に思ってしまって……」
……堰を切ったように話し出したやん?あんまり言いたいことは我慢しちゃだめだよ?
「ごめんなさいね?"昔の癖"で、少しうんちくが多くなってしまったわ」
……ん?昔の癖ってなに?タフィーさんって、ホントに学校の先生だったりしたの?
「それでナナミちゃんも気になっていた本題なのだけれど、このユウキ君が持っていた"共通金貨"……それも大金貨なのよね……」
……だから、なんでそこにいちいち引っ掛かるの?そんなんじゃ一生話しが終わらないよ?それに流石の俺でもそんなに引っ掛かられると、気になってお昼寝出来なくなっちゃうよ?
「そっき話してたことは、国や地域によっては様々な種類の通貨があるって事を知ってほしかったの。それは所謂"物の価値は人種や住む地域によって変動する"ってことなのよ?……でもね、その"共通金貨"は、この世界では不変の価値が保証されている物なのよ。神託を得た大昔のエルフとドワーフが、お互いの魔法と技術の粋を集めて製造した、"破壊不可"や"偽造不可"の魔法付与が組み込まれた、この世界唯一の"不変価値"のお金なの。それはつまり、この共通金貨が基準となって世の中の通貨の基準もそれぞれ決まる。という訳なの」
……ごめんなさい。『……という訳なの』っていう所しか、頭に入ってこなかったです。あれかな、タフィーさんはいちいち"うんちく"を所々に入れないと、死んじゃう魔法でも誰かにかけられたのかな?……っていうか、思わぬところでこの世界にも魔法があるってのがわかったけど、なんかこういうのじゃないんだよな……?『ファイヤーボール!』とか『サンダーアロー!』みたいなのが俺は知りたいのだよ。
それにエルフにドワーフか……おぉ、なんか"異世界冒険もの"っぽくなってきたんじゃないかぁー!?
「……それで私が言いたかったことは、その金貨……大金貨はこの大陸の通貨『ティア』に換金しないと一般的には使えないってことなのよ。もちろんそのままでも使えないことはないのだけれど、なにせ"金貨から下"が存在しないので細かいやり取りが出来ないのよ。それぐらい価値がある物ってことなの」
「そ、それはつまり、共通金貨は金額の位が、かなり大きいってことなのですか?」
「そういうことよ。このトランティス大陸では……ランティス王国と言った方が一般的ね。このランティス王国では共通金貨1枚は10万ティアとして流通してるわ。そしてその共通大金貨1枚は100万ティアとして流通しているのよ……はぁ、なんだか胃が痛くなってきたわね……」
「「………………」」
……おいおい、何てもの持たせるんだよ、狐様よぉー!?しかもこんなに大量に!!20枚はかるくありますよ!?ってことはいくらだ?……くそっ!計算出来ない!
「そ、それでいうと、3300万ティアあります……」
……七海、計算はや!しかも枚数もいつの間にかに目算で数えてるし!こりゃー、俺が悪い事してもすぐにバレちゃうのは仕方ないよな!?
しかし、どうするよ?こんな大金……ぶっちゃけこんなにいらなくね?……いや、そりゃーあって困るもんじゃないのはよくわかってるし、亜空間に仕舞っとけば盗まれる心配は無いのはわかるけど……なんたって俺ら中学卒業したての若造よ?細かいこと言うと卒業式に出れなかったから"中学卒業(仮)"なんだけど……まぁ、それは置いといて、元の世界の感覚で考えたら、子供がいきなりそんな大金を手にしたら、その先の人生ダメにならないか?例えばこれから向かう『トラン』で俺と七海のスイートホームを買うとするじゃん?そこで何も問題が起こらずに、不動産屋さんから家とか普通に買えると思う?それも子供達だけで来て、そんな大金をいきなり持ってきてだよ?……あれ?この世界の成人って15歳なんだっけ?まぁ、それも今はいいとして、ここが適当で曖昧な人達がたくさんいる世界なら心配ないんだけど、始めて会ったタフィーさん達ですら、俺よりも頭いいし、あんまり簡単に物事を考えちゃいけない気がしてきたわ。まぁ、なにせ今の身の丈に合わない大金を所持してる状況は控えた方がいいんじゃないかな?
でも普通、"異世界もの"の主人公でこんなことを考える奴はいないわな。まぁ、俺は主人公でも何でもないんですけどね?それにこの考え方は、うちの母ちゃんと七海の教育の賜物ですね。
「そ、そうね……余計に、いろいろ考える事が増えちゃったわよ……早くあなた達は寄合所に向かいたいわよね?細かいお金は私の餞別があるからいいとして、最寄りの換金所は寄合所にあるし……でも金貨1枚ぐらいなら問題ないのだけど、大金貨は流石に子供だけで換金させれないわよね……どうしましょ?」
……ほら、タフィーさんも俺らがこの世界の成人年齢満たしてるの知ってるのに、いまだに子供扱いしてくるし。
「あ、タフィーさん!話しの途中で悪いんだけどさ、『ティア』ってどういう種類があるの?」
……なんか長くなりそうだから今のうちにドンドン聞いとこ。
「えぇ、それもまだ話してなかったわね。今からこの紙に書き出すから、これも持っていってちょうだいね」
……へぇ?紙はちゃんとあるんだな。……あ、変な意味じゃなくて、この世界には!ってことだよ?……なんか紙は藁半紙みたいな感じで、ペンはなんかの鳥の羽ペン?みたいな物だ。それをガラスの小瓶に入った黒いインクらしき物に少し付けて、スラスラと書き込んでいる。
……うーん。紙もペンもガラスもあるなら『異世界知識無双!』は出来なそうだな?……ん?もちろん、俺の知識がメインだった場合の話よ?七海だったら、もっといろいろ知ってるからな。
しばらくして、タフィーさんが『ティア』の事を全て書き込んでくれた紙を、俺達に渡してくれた。
以下がその『ティア』について書き記してくれたものだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[1ティア]
鉄貨1枚
[10ティア]
銅貨1枚、又は鉄貨10枚
[100ティア]
大銅貨1枚、又は銅貨10枚
[1000ティア]
銀貨1枚、又は大銅貨10枚
[10000ティア]
大銀貨1枚、又は銀貨10枚
[100000ティア]
共通金貨1枚、又は大銀貨10枚
[1000000ティア]
共通大金貨1枚、又は共通金貨10枚
[10000000ティア]
共通白金貨1枚、又は共通大金貨10枚、又は共通金貨100枚
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……ふーん。こんな感じなんだ?とりあえず、これを見て覚えとけば、ぼったくりの被害は遇わなそうで済むな。……ん?ってメチャメチャ綺麗な日本語書いてるな!タフィーさん!達筆で羨ましいな、おい!……じゃなくて、こういうご都合主義的な"異世界もの"はよくあるからいいんだけどさぁ、実際に目の当たりにするとなんか怖いよな?イメージとしてはヨーロッパの金髪美人がいきなりスラスラと日本語書き出したらちょっとはビックリしない?
それにしても、少ない硬貨の方はなんとなくイメージつくけど、大きい硬貨は位がデカすぎないか?共通白金貨なんて、たった1枚で高級外車が1台買えそうじゃね?そんなの怖くて持ち歩けないぞ?
ん?あと、ご丁寧に"又は10枚"とか、くずして細かく書いてるけど、なんでこんな当たり前の事をわざわざ書いてるんだ?俺、そこまで頭悪くないよ?……え?もしかして相当かわいそうなオツムだと思われてるのかな?もしそうなら、泣く準備は出来てますけど?
「ありがとう、タフィーさん。これ見て覚えるよ!あとさぁ、ここに"又は10枚とか100枚"とか書いてあるけど、どういう意味なの?」
「あら、それね。基本的に物やサービスの対価に払う同一硬貨は基本的に10枚まで。って決まっているのよ。あくまでも基本的にって事だから、多少なら10枚から増えても良いのだけれど、あんまりに多いと数える時に大変になるから、嫌がられる事が多いわね」
……あー、なるほどね。『98ティアになります!』って言われて、1ティア鉄貨を98枚渡したら、『はっ?嫌がらせはよしてくんな!』って、言われても仕方ないもんな?確か日本にもそういうのが、うーん。……あったような、無かったような?
まぁいいや。これ以上は頭が痛くなるから本題に入っちゃおう!
「タフィーさん!いろいろ俺達の為に考えてくれたり、教えてくれてありがとうね!それでこの大金貨、33枚もあるから、30枚をタフィーさん達にあげるから受け取ってね!」
「……はい?」
「……くすっ」
……タフィーさんにしては面白い返しがみれたぜ!美人でキリッとした顔が"すっとんきょう"になってるしね?七海はなんとなく俺がしたいことを理解してくれたみたいね。ちなみに他の三人は退屈していつの間にかに小屋の外で遊んでるわ。さっきから"きゃっきゃ、きゃっきゃ"聴こえてきてうるさいもん。
「優記くん、ちゃんと説明してあげないと、タフィーさん困ってるよ?」
「え?説明したじゃん?33枚あるから30枚あげるね!ってさ」
「……優記くん?ちゃんと説明してあげないと、タフィーさん困ってるよ……?」
……こわっ!?ちゃんと説明するから声のトーン下げないで!
「こほん。タフィーさん達にはお世話になったし、これからもドンドン幸せになっていって欲しいって俺達は思ってるんだ。それに俺達には300万ティアでも身の丈に合わない金額だから、ホントにそれで十分なんだよ。それに亜空間……アイテムボックスの中には他にもいろいろな物がありそうだし、本音で言えばそれで手一杯だよ。だからさ、トムやジェリー、そしてタフィーさんには是非ともこのお金を受け取ってもらいたいです。そんで万が一、俺達がこの先で素寒貧になる様な事があっても、いざって時にはここにタカりに来れるでしょ?そんな保険もかねた、下心満載のお礼だよ?」
……ふ。最後まで真面目ムーブが保てなかったぜ。それこそ身の丈に合わない事をするもんじゃないわな?
「…………ユウキ君、あなたはアイテムボックス持ちでしょ?その中にいれとけば何も困らないはずよね?」
……そりゃー、素直にありがとね!もらっとくわね?とか、タフィーさんは言わないよな……
よし、最終手段だ!これでダメなら床の上に寝転んで手足バタバタさせながらヤダヤダ言いながら駄々こねまくってやる!!
「お金のせいで七海を危険に晒したくないのが一番の本音だよ。使う使わないは別として、"持っている"ってことで自分に隙を作りたくないんだよね。それに使うお金はなるべく自分達で稼ぎたいじゃん?甘い考えってのは言われなくてもわかるんだけど、自分自身の心がなんかそれを許してくれないんだよね。だから大金貨3枚は俺達が、残りの大金貨30枚はタフィーさん達が貰ってくれると助かるよ!人助けだと思ってホントに受け取ってほしい!ちなみにもう一回言うけど、300万ティアは初期費用にしては俺達には多すぎるからね?」
……どうだ?これでダメなら天音家代々に伝わる伝家の宝刀、『究極駄々っ子乱舞』の準備に入るけど?
「……そうね、ユウキ君の優しい気持ちも強情な性格も、本当にこの短い間で痛いほど身に染みたわ。えぇ、わかったわ。わかりました。そのあなた達の思いのこもったお金をありがたくいただくとしますね!…………本当にありがとう、ユウキ君、ナナミちゃん…………」
……タフィーさん、また泣いちゃいそうじゃん……いつも毅然としてて、こんなに優しいお母さんを何度も泣かせたくなんかないんだけど、ここはどうしても受け取って欲しかったから、仕方ないよな?
あ、言わないといけないことが後一つ、ん?二つあったわ……
「うん。こちらこそありがとう、タフィーさん!それと余計なお世話かも知れないけど、タフィーさんが受け取ったお金をちゃんと使ってるかまた確認しに来るからね?次来た時には立派な小屋になってるのを期待しとくよー?」
「……も、もう!優記くん!どうして最後にそんな憎まれ口を言うの?て、照れ隠しにしては言い方が悪すぎるからね!!」
「ごめんなさい」
「もう!」
「……本当にあなた達は相性がピッタリね?……結婚式には必ず私達を招待してね?」
「「もう!タフィーさん!!」」
ーーーートランに夕方までに着くのかいよいよ怪しくなってきた優記達であったーーーー
設定をあれこれ考えていたら、頭が痛くてなってきて、モチベが少し減少しちゃいました(泣)
そんな本作を読んで下さっている心優しい方がいらっしゃいましたら、ブックマークなどしてくれると、作者は俄然ヤル気がみなぎります!はい。




