第二章 第十四話
はぁ……もういいや。なんか怒ったり笑ったりでなんだか腹が減ってきたわ……よし!いろんな肩の荷も降りたことだし、早く朝ご飯を食べよう!
「まぁ、そういうことで……いただきまーす!」
「あ……わ、わたしも、いただきます!」
「うふふ。あらあら、切り替えが早いわね?」
「"腹が減っては戦は出来ぬ"っていうありがたい言葉が俺達の地元ではあるからね!」
「い、いくさはしたことありませんけど!」
……おぉ!稀に出る七海のツッコミ!これはかなりのレア度だよ?
「まぁ!本当に七海ちゃんは可愛いわね」
「……た、タフィーさん!か、からかわないでください………………ゴニョゴニョ」
「うふふふ。さぁ、早く食べてちょうだいね?あなた達のこれからのことで少しお話ししたい事があるから、ね?」
……え?まだなんか話すことあるん?おいら、もう話し疲れたよ?
そんなやり取りを終え、俺達はやっと朝食にありつけた。
ちなみに朝飯の献立は固めの黒パンと山菜とキノコが入ったスープだ。フランスパン並に固いその黒パンをお吸い物みたいな薄い塩味のスープに浸して柔らかくして、よく噛んで味わいながら食べた。あ、別に俺はグルメな味覚の持ち主じゃないから、特に言うことはないからね?ただ、育ち盛りの俺には少し量が物足りないってぐらいだよ?まぁ、こんな不審な子供たちにご飯を提供してくれるだけでもありがたいし、そもそも贅沢なんて言える立場じゃないしね?
……あっ!それよりも七海が朝食の手伝いをしてたみたいだから、ある意味この朝食が初めての"愛妻料理"ってやつじゃね?そう考えるとこの味気無い朝食が超高級ディナーの様に思えてきたぞ!…………え?おれの考え方がキモいって?そんなのは知らん。
「……ふぅ。ごちそうさま……じゃない、えっと……大いなる豊穣の…………」
「「ごちそうさまでした!」」
「あ……ご、ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様です」
……うん?"ごちそうさま"はこっちでも共通な感じなのね?そこは『大いなる豊穣の女神よ、抱擁とその慈悲に今日も感謝致し終わりましたぁ!』的な感じゃないんだ?……ま、いいか。さて、本題に入るとしますか!
「……それでタフィーさん。俺達のことで話したいことってなんです?」
「……あなた達、町に向かうって言ってたわよね?」
「うん。とりあえずは人が居るところに行けば最低限の衣食住は確保出来るかなぁーって思ったからさ。それなら何もわからないなりに最悪の事態は避けれるんじゃね?……って感じかな?」
「何て言うか……言い方はともかく、ユウキ君はそういうところは子供らしくないわよね?」
「え?そうかな?……何て言うかクヨクヨしててもお腹は膨れないし、いじけて蹲ってても、誰かが手を差し伸べてくれるわけじゃないしね?」
「……あら、そう……あなた達が居た世界って、思っていたより大変なところだったのね」
……ありゃ?タフィーさんになんか勘違いさせちゃったかな?
「……あ、あの、タフィーさん。たぶん優記くんが少し他の人と、ちょっと違うというか……か、変わってるだけです!」
「ぐさっ!!」
……やべ!あまりのショックに心の刺殺シーンが声に出ちゃったよ!……え、七海がそれを言うの!?ってか、やっぱり七海も俺のこと、も、もしかして、キモいとか思ってたりするん!?……もしそうだったら僕、クヨクヨしていじけて蹲っちゃうよ?そんな時は優しく手を差し伸べてね?お願いだよ?
「うふふっ……まぁ、いいわ。とにかく本題に入るわね?……あら、ごめんなさい。その前にあなた達の年齢はいくつだったかしら?」
ん?そういや、タフィーさんに俺らが何歳か言ってなかったっけ?あぁ、教えたのはトム達にだけか。それなら年齢を知らない割に見た目だけでえらい子供扱いしてくれたじゃんかぁ、タフィーの姉さんよぉ、えぇ……?どうすんのよ、もし俺らが向こうの世界では"赤いちゃんちゃんこ"を着るような世代だったらさ?責任とって老後の面倒、ちゃんと観てくれるのけ?
「……こ、この世界と同じ数え方かは、少しわからないですけど、優記くんとわたしは、十五歳です」
……すごいな?そんなとこまで気がまわっちゃうの?それなら少しは俺の気持ちにも気付いてくれてもよくね?じゃないとそろそろクヨクヨしだすよ?
「……………………」
その七海の言葉を聞いて、タフィーさんは少し悩んだ素振りを見せて、一拍置いてから口を開いた。
「……それならこちらの世界ではちょうど成人ね。うーん、どうしようかしら……」
「うん?タフィーさん、何か悩んでる?」
……僕に打ち解けてごらん?ほら?
「あら、ごめんなさいね?あなた達の立場を自分に照らし合わせて考えていたら、とてもじゃないけど私なら挫けてしまっていたでしょうね。そんなあなた達に私達は何が出来るのか少し考えていたのよ」
……あー、そんなことか。
「それならすでに十分いろいろしてもらってるからね、タフィーさん達にはさ。昨日は野宿しなくて済んだし、ご飯もごちそうしてくれたし、さらに今着てる普段着も七海の分も含めて貰っちゃったし……でも一番はこれかな?タフィーさん家族に出逢えたこと!あはは!照れちゃうね!……だからさ、これ以上助けて貰っちゃったら"バチ"が空からいっぱい降って来ちゃうから俺達は大丈夫だよ?」
「"バチ"っていうのがよくわからないけど意味は何となくわかるわ。……この短い間でユウキ君の事は……うん、よくわかったわ。そうね、決めたわ。あなた達、ここで私達と一緒に暮らさないかしら?勿論あなた達が良ければの話しよ?それに……少し急なのだけれど、私達の身の上話を今から少ししていいかしら?去年まで……そう、冒険者だった夫がまだ生きていた去年までの事の話……実はね、私達はあなた達が向かおうとしてる町にずっと住んでいたのよ。夫はその町のちょっとした腕利きの冒険者でいつも家を空けていたわ。それでも帰ってきた時にはみんなでその日の事を話し合いながら、笑顔で食卓を囲んだものなの。私は私で家事の合間に日用雑貨とかちょっとした服なんかを作ったりして専業主婦としてトム達をみながら生活していたわ。家計の戦力にも少しはなってたんだからね?それとトム達にも友達がそこには沢山いて、私達家族は……そう、裕福とは言えないけれど、それでもとても幸せだったの。それがある日、冒険者だった夫がちょうど去年の今頃に"ある魔物"の討伐に向かって、その依頼中にその魔物からパーティーメンバーを庇って……死んでしまったの。それで私は……」
……あぁ、すごい辛そうな表情してるじゃん、タフィーさん……
「タフィーさん、俺らの為にそんな無理して辛かった時のことなんて話さなくていいんだよ!?」
「わ、わたしもそう思います、タフィーさん!」
「ううん。大丈夫。少し思い出してしまっただけだから……続けるわね。……それでそのことを夫のパーティーメンバーの人達に伝えられて、その時私はすごい取り乱し方をしてしまって、その夫に庇われた方にとても人前では言えないような酷い罵声を浴びせてしまったわ。本当に今でも謝りたい気持ちでいっぱいなの。でもその時は他に何も考えれなくなっていて……そのせいでとことん自分を責めてしまって、町をトム達と一緒に逃れるようにここに移り住んだの。元々この小屋はね、夫達のパーティーが森に入る前やクエストをこなして来た後の拠点みたいな使われ方をしていた小屋だったの。私達をみかねたメンバーの人達が、ここを譲ってくれたのよ?それで町を、あの人との思い出がある家を離れれば少しは気持ちも楽になれるかと、自分ではそう思っていたのだけれど……思いの外どんどん気落ちしていってしまってね、昨日まであんな調子だった、ということなの」
「「……………………」」
思いの外に心が締め付けられるような、そんなタフィーさんの話を聞いて、俺と七海は何も言葉に出来なかった。そんな俺達の様子をみかねてか、タフィーさんが優しい笑みを浮かべて、助け船を出してくれた。
「あらやだわ、あなた達を困らせるつもりで話した内容じゃないのよ?私達はあなた達に救って貰えて、また心から笑顔になれた。そう、続けたかったのよ?……私の体調もそう、トムやジェリーの笑顔もそう、あなた達のおかげなのよ。本当に本当にありがとうね」
……こういう時はどんな言葉を返せばいいのかな?まぁ、ホントの気持ちを伝えれば、あとは受け手の問題だもんな……よし!
「タフィーさん、昨日から何回もお礼の言葉は聞いたからもう大丈夫だって!それにありがとうはお互い様なんだし、それよりお互いの明るい未来について今から話そうよ?」
「ゆ、優記くん……」
……あれ、七海のその表情はちょっと読めないぞ?あっけらかんと話し過ぎてちょっと怒ったのかな?もし、そうだったとしてもしょうがないよな?ホントにそう思ったんだもん。
「うふふ。そうね、そうしましょう!……私の夫もそうだったけど、あなたも相当タッケーを割ったような性格の持ち主ね?それで最初の質問の答えを聞かせてくれる?もう一度言うわね?……私達とみんなでここで暮らさないかしら?」
……タッケーって!……いやいや、話しの内容的に今ツッコんでいいタイミングじゃないわな。それくらい俺にだってわかるぞ?
……質問の答えか……七海と相談もしないで悪いけど、ここは俺の意見を通させてもらうわ。
「タフィーさん。その気持ちはメチャクチャ嬉しいけど……ごめん!俺達やっぱり町に行こうと思う。元々なんの目的もない漂流者みたいな俺達だけど、せっかく新しい世界に来たんだったら、いろんな場所やいろんな人達をこの目でちゃんと見てみたいんだ!それにタフィーさん達が住んでいた町に俄然興味も湧いてきたしね?」
「……そう。ユウキ君ならどこかでそう言うじゃないかと私は思ってたわ。それならナナミちゃんはどうかしら?」
……えっ?七海だけ残るって言ったら俺、どーしよ!?それならクルっと前言撤回も視野だよ!?
「……えっと、とても気持ちのこもった、今のわたし達にとっては願ってもないお話だと、そう思います。……でも、わたしは優記くんと一緒に、どこまでも一緒に居たいと、そう、思っています……本当にごめんなさい、タフィーさん」
………………俺、七海のこと一瞬でも信じられなかったみたいだ……くそっ!……いろんな意味で泣いていい?
「えぇ、わかったわ。だからそんな思い詰めた顔をしないでちょうだいね?私がいじめてるみたいに見えるわ?……うふふ、冗談よ。残念だけど仕方ないわ、そんな"告白"を聞かされては引き下がるしかないわね?」
「……え?…………あっ!?……………た、タフィーさん!もう!!」
……うお!?ビックリした!俺が手のひらクルクルで自己不審に陥ってた最中に何が起こった?
「うふふ。それも私の冗談ってことにしとくわね?」
「…………し、しなくていいです……」
「あらまあ!ですってよ、ユウキ君?」
「……へ!?ごめんなさい!マジで聞いてなかったです」
「「……………………」」
ーーーー優記はそんな致命的な男の子なのであったーーーー




