第二章 第十二話
タフィーさんが無事に元気になった後、みんなで少し赤い目のまま、他愛のないことを話し合ったり、タフィーさん自慢の郷土料理を振る舞ってもらったりで、あっという間に時間は過ぎていった。特にタフィーさんからの感謝の言葉は、もう、それはそれは数えきれないくらいに伝えてもらった。そんなこんなでいろいろあったが、かなり夜も更けてきたのでその日は仲良く全員で床に就くことになった。
寝室に元々あった二つのベッドには、タフィーさん、ジェリー、七海が一緒に寝ることに。俺とトムとクラマは、タフィーさんが用意してくれた、藁をシーツに詰めた簡易布団で寝ることになった。想像ではもっとチクチクするかと思ったけど、実際に寝てみたら体の接地面に大きめのタオル(厚手の布)を気遣いで敷いてくれていたので、とても気持ちよく寝れた。
俺としては『七海と一緒に寝たい!』と、お約束の様にタフィーさんに申し出たのだが、気持ちの良い笑顔で見事にスルーされてしまった。……残念!
そしてこれが記念すべき初めて異世界での就寝となったわけだ。怒涛の一日だったが、良い出会いに恵まれて順調な滑り出しだったんじゃないかな?……なんてことを考えていたらいつの間にかに深い眠りに就いていた。
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「ほらほら、みんなもう朝になったわよ!朝食を用意したから早く身支度をして席に着いてちょうだいね」
……うへぇ?……もう、朝なん?…………ふわあぁぁ…………
俺は自分でもビックリするぐらいぐっすりと寝てたみたいだ。一緒に布団で寝てたトムの方をふと見たら、体育座りをした状態の眠気まなこでムニャムニャしながら着替え始めていた。俺も"よいしょっ"との勢いで上半身を起こし、借りていた来客用の寝間着を脱いで早速制服に着替えようとしたら、
「ユウキ君、取り敢えずこれを着てみてちょうだい」
……ん?なんだろう?っつーか、頭がまだちゃんと起きてないや……
そんな状態のまま俺はタフィーさんから何やら服を受け取って半分無意識のまま袖を通した。
「……はい、あざす。……あれ?……タフィーさん、これ誰の服?」
「"それ"はね、去年亡くなった夫が着ていたものなの。今着てた寝間着もそうだったのよ?それで、ユウキ君には少し大きいかも知れないけど、他に合いそうなものがないからそれで我慢してくれると嬉しいわ?」
……あ、そりゃー子供がいるってことはお父さんがいたってことだもんな?うちは母ちゃん一人だったから当たり前のようにそこが抜け落ちてたわ。
「あ、これすごい着やすいよ!タフィーさん、ありがとー!」
トムの着てた服をそのままでかくしたような、シンプルな作りの長袖長ズボンの普段着だった。見た目は麻っぽい生地だったから、少しゴワゴワするのかな?と、ちょっぴり思ったんだけど着てみてビックリ、とても肌触りの良い、快適な着心地の服だった。
「ふふっ、あなたは本当に素直で元気ね?見てるこっちもなんだか少し楽しくなってくるわ。亡くなった人のだから普通はもっと嫌がってもいいのよ?」
「うん?嫌なことなんてなんもないよ?だってトム達のお父さんのでしょ?逆に俺としては少し嬉しいくらい!」
……ちなみに俺は目上の人に対しても普通にタメ語で話すタイプである。時折、敬語を混ぜたりもするけどね。
「……まぁ?この子ったら……七海ちゃんはこれから大変ね?」
「……えっ!?…………はい。……ゆ、優記くんは、昔から"そう"なんです……」
……へ?なんで急に七海が大変なの?それに俺が昔から"そう"ってなに!?おねしょとか!?……ふぅ。俺してないよ?
まぁ、よくわかんない話しはどうでもいいんだけど、いつの間にか七海も、タフィーさんに渡された服を借りて着ていたみたいだ。……あれは多分タフィーさんの服かな?……どこで着替えたのかな?……くそっ!俺はその瞬間を見逃したというのか!?……それにしても麻みたいな生地のワンピース姿の七海もなんていうか、その、"たわわ"なお胸がなんとも強調されて……どうしよ?布団から出られなくなる、そんな思春期のお盛んな敏感な予感……
ーーーバババチンっーーー
「い、痛たたたぁー!?」
「……きゅー……」
……こいつ、さっきまでスヤスヤ俺の枕元で丸まって寝てたくせに、いきなりジャンピングトリプルテールアクセル決めてきやがった!なんだよおまえ、技の宝庫かよ?
「クラマちゃん、すごーーーい!」
ジェリー様もお目覚めの様子ですね?さ、お腹も空いたし朝ごはんでも頂きましょうかね?
「「いただきます!」」
「きゅーーー!」
「「「大いなる豊穣の女神よ、抱擁とその慈悲に今日も感謝致します」」」
……え?なにこの不協和音?……タフィーさん達、手を組んで目を瞑ってお祈りしてるけど、ここってカルトなスポットじゃないよね?
「あら?変わったお祈りね。手を合わせて『頂きます』って発音したのかしら?……そうねぇ……わかったわ。食べるということは命を頂く、ということかしら?」
朝からプロファイリングご苦労様です!今回は百パーセント合っていたので少し怖かったです!
「あ、あの、タフィーさん。豊穣の女神さまって……思い出せないみたいで……もしよければ、教えてもらってもいいですか……?」
お?七海、今日も頑張って異世界データを収集してるな!
「あなた達の状況は理解してるわ。だからわからないことがあったらなんの遠慮もなく、素直に聞いてくれればいいのよ?」
「あ、ありがとうございます!」
「あざす!」
一応、俺も感謝を伝えなきゃね?
「…………………」
……あれ?なんかタフィーさん、急に黙っちゃったよ?流石に"あざす!"はフランク過ぎた?
「……ちょっと長くなるけどいいかしら?昨日の夜も散々話したから少しくどいかもしれないけど、もう一度だけ言わせてちょうだいね?ユウキ君とナナミちゃんは私達家族の恩人なの。本当に感謝しても感謝しきれないのよ。勿論クラマちゃんもね?だから私も正直に言うわね。あなた達二人には、"人に言えないこと"や"隠さなければいけない秘密"があるのはわかってるつもりなの。特にユウキ君はそういうのに向いていないものね?でもそれが私のただの勘違いならそれが一番いいのだけれど……でもいい?よく聞いてね?あなた達は本当に真っ直ぐな子達なの。だから私達と話す度に後ろめたい気持ちになんてならないでほしいの。これはあなた達に救ってもらった私達家族からのお願い。それに無理して嘘は言わないで?勿論隠しておきたいことはそのままでいいけど、私は本当のあなた達の"素"でいてほしいと心の底からそう思います。……あら、ダメね……年を重ねるとだんだん説教臭くなっちゃうわね?」
「「……………………」」
……七海は今のタフィーさんの会話を聞いてどう思ったんだろ?優しい七海のことだから頭と心でいろいろと葛藤してるんだろうけど……まぁ、ここからは俺の出番だから心配しないでゆっくりしててちょーだいよ!
……すぅぅー……はぁぁー……よし!
「……タフィーさん。突然だけど、ちょっと聞いてもらえるかな?俺達さ、実は別の世界から来たんだよね……」
ーーーーそうやって俺はタフィーさんの気持ちに応えて本当のことを話しだしたんだーーーー




