第二章 第五話
「七海さんや」
「どうしたんだい?優記くんや」
お?相変わらず"そういう"ノリは良いよな。
「この先に町があるとの事なんだが、わしには一切見えないのだけれど本当にあるのかね?」
「もちろんありますとも。この先の森のさらに抜けた先に見える地平線にポツポツと建物らしきものの影が見えるだろう?……あぁ、君には見えない、そういう話しだったね。そうか……君と同じ景色が観れないなんて、僕、ちょっぴり悲しいな」
いやいや、なんの世界観か知らないけどちょっと没頭しすぎじゃない?若干相違のズレが出てますよ?一緒にやる時はもっとライトなノベルティーにしてもらえる!?
「……こほん。……じゃーこの先の森を抜けなくちゃ町にはたどり着けないってことか……」
「……た、多分見た感じ、そうかなぁ?って思うよ。あ……それに今、お昼ぐらいだから早く森に入って抜けないと、その中で一夜を明かすことになるかもだから、せめて今日のうちに森を抜けちゃおうよ、ね?優記くん?」
キャラの切り変えはやっ!……とても同じ人物には思えないのですけれど!?……まぁ、これが七海クオリティだから今さら仕方のないことなんだけどさぁ。それはさておき、確かにこの世界の今の気候は暑くも寒くもなく、今のところとても過ごしやすい陽気だ。ちょうど俺らの居た世界と同じ春みたいな気候だったのは最低限助かった。だけど、それなりの衣食住を早く用意しなければ、ただの中学生(卒業したけど)二人がこの先、この土地で生きて行く未来なんて全く想像出来ない……ぞ!?
「よし!森に向かって急ごう!」
「うん!」
俺たちは早足でその場所から目的地に向かって動き出した。そんなやっと歩き出した道中に少しある疑問について考え出してしまった。
……七海には言えないから(言ったところでいろんな意味で伝わらないだろうし)ここだけの話し、七海はクラマとほんの少しの間、同一化した影響なのか、やたら能力が上昇した気がする。それは肉体面(視力が双眼鏡並み)に始まり精神面(元々斜め上方傾向だけど魔物の死体を見ても少し驚いただけで収まった事)や感覚的(クラマの身に今起きている現状や森を抜けるための所要時間など)なものが以前の七海とは大分変わった気がする。……それとも元々"クラマの分体で構成されている肉体"だから、この世界に転移したことが切っ掛けで覚醒したとか……いや、もうよそう。何度も言うが七海が"俺が思う(想う)七海"だったらなんだっていいんだ。よし、それについて考えるのはもう"やーめた!"
「あ、そうだ。とりあえず森の入り口に着くまでの間に亜空間が制御出来るように頑張ってみるわ」
「……?さっき優記くん、制御してたよ?」
「いやいや、あんな恥ずかしいセリフ毎回言いたくないよ!?」
「……か、格好良かったよ……」
え?あんな戦隊ものの変身シーンみたいな掛け声が?あの時言ったセリフなんて『みんな~!僕は道具箱から包丁を取り出すよ~?』みたいな内容だぞ?……早急に何とかせねば!
……あ、そういえば、クラマが『刀の出し入れの仕方は妾の動作をなぞればよい』って言ってたけど、どういう意味だ?真似ればいいって意味かな?取り敢えず歩きながらだけどやってみよう!
確か、空中に手をかざして……流石にかざすだけじゃダメだよな。取り敢えず念じてみるか!
(アイテムボックスオープンアイテムボックスオープンアイテムボックスオープン……)
「……?ゆ、優記くん、早歩きで片手上げてすごい真剣な顔してるけど、何か悩み事でもあるの?わ、わたし、いつでも相談に乗るよ?」
確かに、悩み事か悩み事じゃないかって問われれば、悩み事の類いに僅差で入選だけど、右手を空にかざし、左手は腰にそえて、元気よく行進行進!しているマーチング部みたいな今の俺の姿を見て何か悩んでるように見えましたか!?
「……言葉に出さなくても亜空間を開きたいなーって」
「あ、そうなんだね!わ、わたしもやってみるね?」
……え?なんで?
「……ゴニョゴニョ……あ!で、出来たよ!」
……えー!?なんでー!?っつうか、何故に七海も亜空間出せるのーーーー!?ってホント出せてるし!!
「ゆ、優記くんもやってみて?」
……お、おぅ。
「わ、わかった。えーと、どーやってだしたの?」
「ちゃんと言葉にして『アイテムボックスオープン』って言って出したよ?」
「いやいや、それがちょっぴり恥ずかしいから今の今までの一連のやり取りだった訳で……あ、そうか!周りに聞こえないように呟けばいいのか!」
「……え?ち、ちゃんと聞こえるように言わないと、アイテムボックスさんに失礼だよ?」
「……ゴニョゴニョ……あ!出来た!やったーーーー!!よし、今度は消すぞ!……ゴニョゴニョ……よし!消えた!次は物の出し入れだ!……ゴニョゴニョ……」
何やらゴニョゴニョ言ってる(俺もゴニョゴニョ言ってるけど)七海をいつもの様に放置して、俺は見事に周りに聞かれずに亜空間の制御に成功したのであった。
そんなそうこうしたやり取りを交えつつ、俺たちは体感的に一時間ぐらい歩いて、やっと森の入り口に着いた。
「おぉ、結構緑が生い茂ってるな……一応、人が利用してそうな踏み固められた道があるからよかったけど」
「馬車の轍の跡もあるから、この先の町の人も利用してるんじゃ、ないかな?」
すごいなこの人、俺が知らなかっただけで斥候とか隠密に向いてるんじゃないのか!?
「まさしく"希望の轍"だね」
「そうだね」
「……おぅ」
「うん!」
「……」
……よし、ドンドン森の中を進んで行きますか!




