第二章 第四話
「「………………」」
俺と七海は暫くその"割れた"ゴブリン(仮)を見ながら茫然としていた。
俺は今しがた起きた一連の事を思い返す。
なんの手応えもなく、まるで豆腐を半分にした時の感覚みたいにゴブリン(仮)が真っ二つになった……なんかこっちに向かって襲いかかって来たようにみえたから、ついつい"パッカン"させちゃったけど、まさかこの世界では一般的な町外れに住んで居た、ただのジョギング中のおじさん!とかはないよな?もしそうだったとしたら最初から闇堕ち確定案件なんだけど!?
「……あ!……ゆ、優記くん、見てあれ!」
暫く茫然としていた七海が少し慌てた様に声を上げた。
「……っ!?ゴブリン(仮)が光ってる?」
ゴブリン(仮)って死ぬと発光するのか?発酵じゃなく?
「クラマさま……九ちゃんがゴブリンに触れたら急に光り出したの!」
え?なんで呼び名を急に変えたん?復活した時に本人に怒られますよ?
「きゅーーーーー!!」
「「えーーー!?」」
クラマ(九ちゃんっていう二つ名が先程爆誕した)がいつのまにかにゴブリン(仮)に触れていて、その途端、ゴブリン(仮)は光の粒になってその漂う光の粒がクラマの鳴き声をきっかけにモフモフな体に吸収されている様に見えた。
「すごいなクラマ」
「あ、ゴブリンの跡地になんか小さい石が落ちてるよ!……!?わ、これ……魔石だよ、ゆ、優記くん!」
「うん。そうだね。拾っておくね」
俺はゴブリン(仮)が土地になったことや魔石とやらの事は軽く流した。
「もう!……あ、九ちゃんのしっぽの先がちょっと光ったよ、優記くん!」
「うん。そうだね。……ん?……ホントだ!」
光の粒を吸収し終えたクラマは再び宙にフワフワと浮き直して何やらドヤ顔で体を捻ってしっぽを見せてきた。よく見ると九つあるしっぽの内の一本が僅かに光を帯びたように淡く発光していた。それも先っちょの方だけだが。一体全体どーいう事だ?
「……た、多分、ゴブリンの魔素を九ちゃんが吸収して、クラマ様の完全復活に必要なためのエネルギーにしてるんじゃないかな?」
「ふへっ!?」
ヤバい、また変な声がもれちまった。……えっと、"魔素"を吸収?復活のための"エネルギー"にした?……うーんうーん……それってば誰かに教わったの?それとも完全創作ドリーマー?いやいや、ここまでくると畏敬の念すら芽生えてくるよ、七海さん!
「そ、それでね、今、一本だけしっぽの先端が元の金色よりさらに光った金色になったように見えるでしょ?た、多分だけど倒した魔物から魔素をエネルギーにどんどん変えていくと、それに応じてしっぽもどんどん光った金色になっていくと思うの。そ、それで最終的に九つのしっぽが全部光った金色になったら、九ちゃんがクラマ様にジョブチェンジするんだと思うんだけど……ゆ、優記くんはどう思う?」
「うんうん、そうだね」
「……も、もう!ゆ、優記くん、ちゃんと聞いてくれてる?……い、いつもそうやって優記くんは、誤魔化すんだから……プンプン!」
はい!プンプンいただきました!魔素よりこっちをエネルギー源に変えた方が俺はジョブチェンジ出来そうだけど?……まぁそれは置いといて、まず七海さんや……誤魔化すも何もツッコミ処満載すぎてぼかぁ、"無"に浸っておることしかできやしなかったでござんすよ。そもそも初めての異世界、初めての魔物(近隣のおじさんだった疑惑はまだ解消されていないが)との遭遇、初めてのクラマに起こった変化ですよ?流石の七海耐性高ランクの俺でも面食らっちゃうよ!?
「きゅー!」
「え!?どうしていきなり抱きついてきたの九ちゃん?か、かわいい!」
七海のかわいいが留まることを知らない……しかし、あえて俺は心で叫ぼう。かわいいのは君の方だと!!眼鏡も外したままだからパッチリ二重の垂れたお目めがかわいいかわいい……ヤバい、俺も止まらなくなってきた……ってホント誰かとめて!
……はぁ。でも普通、いきなりこんな知らない土地に飛ばされてきちゃったら、もっと二人でガクガクブルブル震えてるもんじゃないのかな?やっぱり精神面でもかなり七海には助けられてるな、俺……もしかしてクラマもそれを感じとって抱きついたのかな?……ん?いや、まてよ。今までのクラマを見ると言葉は喋れないがなんとなくだけど、俺らの言葉は伝わってる様な気がする。それにゴブリン(仮)の存在を俺らに教えてきたのもクラマだ。ってことはだ。今、このタイミングでクラマが七海に抱きついたってことは……それが正解、っていうのを体で表現しているってことにならないか?……よし!その事を立証してみるか!
「……なぁ、クラマ。お前ってやっぱりスリープモード中のクラマなのか?」
「……?い、いきなりどうしたの、優記くん?」
七海、申し訳ない!今はこれ以上俺の心をかき乱さないでくれ!
「きゅー」
おいおいその感じはわかりずらいな!質問が悪かったか?
「なぁ、クラマ。お前ってやっぱり俺のこと好きか?」
「……?い、いきなりどうしたの、優記くん?」
壊れかけのレィディオか何かですか!?……そーゆーとこだぞー?七海ぃー!?……やべっ、速見先生出てきちゃったよ。え?俺ら以外に速見先生もこっちに来ちゃってた?……だから、俺の心を乱さないでってばーーーー!
「……き、きゅー……」
おっ!?なんか何やら良い反応したぞ?少し"驚異のツンデレ狐様"の片鱗が見えた気がする!よし、次で決める!
「なぁ、クラマ。お前ってチューしたことあ……」
ーーーバババババババババチンっーーー
「な!?いたたたたたたたたたっーーー!?」
まさかの呼んで字のごとく腰の入った"究極奥義しっぽ九連打"をくらってしまった。モフッた質感の割にはしなりの効いたかなりの強攻撃だった。
しかし払った代償は決して少なくないが、これにて検証終了だ。結果、クラマは俺らの言葉がわかる。これにて一件落着!!…………あー、ほっぺが痛いよぉーー…………
「だ、大丈夫?優記くん?九ちゃんがかわいいのはわかるけど、あんまりからかっちゃダメだよ?」
「なるべく気をつけます……」
「……くすっ……変な優記くん!」
あ……そっか、あの時なんか引っかかったのは笑い方がそっくりだったからか。俺はついつい七海の顔を見つめてしまっていた。
「……?……ど、どうしたの?……あっ、九ちゃんが手でなにか向こうの方を指してるけど……なにかな?」
あ、ちょっと照れてる?……そんなわけないか。そういえば俺の一世一代の大告白は今の七海は聞いてなかったんだもんな……俺の男気メンタルがもう少しは貯まらないと告白なんて恥ずかしくてとてもじゃないけど暫く出来ないぞ?
まてまて。逃避はいいから。今、七海がなんか言ってたな?九ちゃんが手(前足じゃないの?)で向こうの方を……
「わ、わかった!手で指してる方向の先に町があるから、早くそっちに行こうよ、ってことだよね!」
「きゅー!」
「…………………」
ーーー相変わらず町なんて遠すぎて見えない優記であったーーー




