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第一章 第十二話

「……ぁ、な、七海!?七海……だよな?」


「………………?ど、どうしたの、優記くん?……あ、走って先に教室に行ったこと、まだ、怒ってるの……?」




 ……っん!間違いない!この受け答えは"七海"のだ!!




「……え?そんなことで怒ったことなんて一回もないだろ?ってか、いつの話しだよそれ?そ、それより七海だよな?うんうん。間違いなく七海だ!あっ、何か体調とかおかしくなってない?大丈夫?…………そっか、それならよかった!あ、そうだ!もしかして"しっぽ"みたいのとか生えてきてないよな?ちょっと振り向いてお尻の辺りとか確認してもいいかな?どれどれ……」


 俺は七海が意識を取り戻したという事実に心から喜んだ。あまりの嬉しさに口数がいつもの倍になるくらい気持ちが(たかぶ)ってしまったのはご愛嬌だ。そのうえ、今さっきした"キス"のことが(いかずち)(ごと)く何度も脳裏によぎるもんだから、そのことで異常なまでのハイテンションになり、自分でもよくわからないことをセクハラ気味に口走って、戸惑う七海をかなり困惑させていた。

 そんな中、先程まで、もたれかかっていた大きな桜の木が、突然風も吹いていないのにゆさゆさと揺れ動き出した。


 ……ん?木が揺れてる?……おっ!桜吹雪だ!……ん?何だあれ?


 揺れている桜の木の天辺(てっぺん)の方から大量の花びらと一緒に人影の様なものが舞い降りてきた。

 ……うっ、逆光でよく見えない!


 "パシッ!"


「……っつ!?い、痛っ!……え、なに!?」


 その人影は桜の木の根本らへんに降り立ち、すかさず俺の頭をなぜか叩いた。そして大きめな木洩(こも)()の一部がその人影を照らしだした。




「この()れ者め!七海が戸惑っておるではないか!」




 そう優記(おれ)のことを(しか)りつけてきたその声は、その発した言葉の内容とはまるで裏腹の、幼い天使たちが神を(たた)(うた)う天上界の音色(メロディ)の様な声質だった。そしてその姿は天女かと思えるほど神々しい金色の光を(まと)った絶世の美女で、その容姿(かお)は全く(けが)れを知らない透き通った白。目元はどちらかと言うと俺や母ちゃんと同じ系統のやや大きめの、それでいてあまり嫌みのないクリクリ猫目。鼻筋はピンと通っていて、その唇はほんのりと桜色だった。髪は発光した金色の絹糸を幾千も散りばめた様で、その長さは両手で掴めるくらい(くび)れた腰らへんまで届いていた。肌はあまり晒されてはいなかったがほっそりとした長い首に、小さい手のひらには少しアンバランスな印象の細くて長めの指先、そして手首には大きめの数珠のような薄紫色の腕輪を両手首にしていた。背丈は見た感じ七海と同じぐらいの推定150㎝ちょっと。格好は純白に所々に金色や薄紫色が混じった十二単(じゅうにひとえ)の様な着物だった。履物は天狗が履くような一本歯下駄(ひとつあしのげた)、その色は(うるし)が塗ってあるような漆黒(しっこく)。そして今まで述べたどんな特徴よりも一際目を引いたのは、金色の頭髪からぴょこっと付き出した、まるで秋田犬の様なモフッとした耳と、括れた腰の少し下らへんから豪華な着物を突き破り、所狭(ところせま)しと漂う黄金の太くて長いこれまたモフッとした九つの(しっぽ)。…………あー、なんと言うことでしょう。この世の男性の嗜好(しこう)を全て散りばめたような見事なそのお姿!この魂が震えるようなこの高鳴る思いはまさか…………


 "バシっ!"


「……っつ!?い、痛たたたぁーーーー!!」


 俺は先程よりもかなり強めに頭を叩かれてしまい、惜しくも現実に引き戻されてしまった。


「ええい!いつまで舐めるように妾の事を眺めておるのじゃ!とても(わらし)とは思えんくらい嫌らしい目付きをしおって!汚らわしい事この上ないのじゃ!」


 俺は目の前にいる絶世の美女……いや、本来の姿の"狐様"にそう結構強めに怒られてしまった。


「……………………」


 ……ん?……あ、まずい!七海が狐様を見て呆然としている!くそっ、俺ってば突然の狐様の登場に気をとられて、七海のことを少しの間放置してしまった!!


「……あ、七海。今、とても驚いてると思うけど心配するな……大丈夫。なぜなら俺もとても驚いているからね!」


 "キラーン!"……じゃねーわ!今のセリフに光るところなんて皆無ですからーーー!!って、自分で自分をツっこんでる場合か!?……あ、やべ。今の俺、ダメなとこ全開だわ……よし!ちゃんと七海にフォローしないと……えっと、うーん、うーん。


「…………す、すごく綺麗………!」


 ……え?


「そうじゃろうそうじゃろう!やはり七海は見る目があるのう。どこぞの変態童とはわけが違うのう」


 ……え?変態わらし?


「……あ、あなた様は、て、天女様ですか……?」


 ……え?どーした七海?


「まぁ、そうとも言うな」


 ……え?何、この既視感?


「……!?……や、やっぱり天女様でいらっしゃいましたのですね!!」


 ……え?何、その敬語?お店の店主さん?


「うむ。それよりも七海よ。些か意識を取り戻すのが予定より早かったようじゃな?」


 ……え?この人、当たり前のように『うむ。』って言った?


「……え?い、意識ですか?……よ、よくわからないですが、な、なんて言えばよいのかわからないですけど……と、突然、雷に打たれた様な衝撃が、身体中を駆け巡って…………いた様な?」


 あ、俺もその感覚わかるかも。


「……っ!?ほ、ほう。(みな)まで言わずともよい。合点がいったわ。妾の想像以上に儀式の効果があったようじゃな!」


 でたよ。驚異のツンデレ狐様。


「……え?……は、はい。そのようです、天女様」


 話し合わせちゃったよ。


 ……って、二人に相手にしてもらえないからって心の中で冷静に実況解説してる場合じゃないんじゃない?だってほら、あの結界の壁とやらがいつの間にかこっちに向かって動き出してるぞ?ってか確実に(せば)まって来てるよ!?


「狐様!け、結界がどんどんこっちに向かって狭まってきてる!」


 ……くそっ!散々狐様が時間がない、って言ってたのは多分この事だったのか!


「わかっておる。お主ら、妾の方に近う寄れ」


「わかった!」

「え?わ、わかりました!」


 すでにかなり近接していた三人だったが、さらに寄り添う様に肌を密着させた。


「では()くぞ!"()の地へ。……いや妾の"故郷(うまれこきょう)"へとな」









 _______俺と七海の異世界転移ストーリーはこうして幕を開けたのであった。_______




 



 





……ふぅ。やっと異世界転移してくれました。このまま転移しないで終わるんじゃないかとドキドキしていました(涙)


多分、とても見つけにくい本作ですが、もし目に留めて一読してくれた方がいらっしゃいましたのでしたら、それだけで作者は救われます。誠にありがとうございます!

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