第一章 第八話
……はぁ、このままじゃ全く埒が明かないぞ……
恐る恐る意を決して問い掛けた疑問を悉く目の前の"暫定七海"にあしらわれてしまい、そこで俺は開き直って最後の疑問をぶつける事にした。
「なぁ、学校全体をぐるりと囲ったこの霧状の黒い壁はなんなんだ?まぁ、どーせ、答えてくれないんだろーけどさ……」
しかし俺のその予想は外れ、
「……九羅魔結界じゃ」
と、そう簡潔ながらも答えてくれた。まぁそれが何かを尋ねたんですけどね?
……もー怒った!せめてこの"九羅魔結界"ってのが何なのか俺が納得出来るラインになるまでは絶対に聞き出してやる!!
「なるほど。九羅魔結界か!あんまり聞き覚えがない結界だけど、それはどういう効果がある結界なんだ?」
……結界ってのも全く何なのか分からないんだけどな、俺は。
軽く知ったかぶりを踏まえて"暫定七海"に俺はそう尋ねた。
「ふん。無理して背伸びするでない。ちと、妾も意地が悪かったかも知れんな。久方のうぬとの馴れ合いじゃ。赦せ」
……え?……全部わかってて意図的にはぐらかしてたのか、こいつ!?……それに俺の知ったかぶりにも気付いてやがった!……くそっ!この野郎……!
俺は恥ずかしさやら怒りやら惨めさなどの何とも言い表せない感情を抱いた。そうしたらその感情さえも見透かしたように、
「顔に出ておるぞ?……あいわかった。うぬにも分かるように一から順に教えてやるわ。だからそう機嫌を損ねるのはやめよ」
そう、優しく宥めてきた。
……なんか感情がぐちゃぐちゃになりーだよ、ほんと……
「まずは消えた者達の事じゃが死んではおらん」
「……し、信じて良いんだよな……?」
「妾はうぬには嘘など吐かん」
「……わかった……」
「正確にはこの九羅魔結界を構築するための人柱になってもらっただけじゃ」
「……って!?おい!……それって……」
「いいから黙って聞いておれ。悪い様にはせん」
「………………」
「うむ。素直な事じゃ。それで良い。……人柱とは言うても生け贄などの類いの事ではない。この"約束の地"を所謂うぬが"がっこう"と呼んでいるこの土地を現世と切り離す為の歯車にしただけじゃ」
「………………」
「お主少しやけになっておらんか?まぁ良い。暫くそのまま素直に耳だけ傾けておれ。それでの先程の話しじゃが、結果から申せばこの九羅魔結界がその役割を終えれば自ずとその者達は元に戻る。それも歯車になった事も気付かないままでじゃ。……うむ?なぜ気付かないのか?って顔をしておるな。可愛いのう……こほん、何でもない。それでじゃ、何故それに気付かぬかと言うと結界が発動してる間は結界を起点にし、そこから外側に向かって時が止まっているからじゃ」
……えーーー!?"時が止まっている"って言ったのか!?……いやでも俺も"暫定七海"も動いてますけど!?
「妾達は結界の内側にいるからのう。その為の結界じゃ」
……ついにこの人、俺の心まで、読み出しちゃったよ……