絶対守る
ティアラの身辺警護を任されているジョーには、気がかりな事があった。
突然団長の屋敷にやってきた、第二皇太子の事だ。
レインの事は、本来俺なんかが知っているはずはない。しかし、数年前に、団長にある頼み事をされ、どういう立場の人物なのか、理解していた。
団長にされた頼み事、とは、城の研究者に、誰にもバレないように、毒薬作りを薬作りに変更するよう話をしてほしい、との事だった。
皇后が絡んでいるので、ヘマしたら俺はアレでナニをバンされる、ひじょーーーーに危険な案件だ。
それを分かってて、命令ではなく頼み事にするあたりが、断れない理由だった。団長は俺の出来た人間性を見抜いているのだ。やらない訳にはいかない。
……だが。
本音を言うと、どうせだったら中庭でしょっちゅうサボっているアイツに頼んで欲しかった。
真っ直ぐな茶色の短髪に、逞しい体。薄灰色の瞳がミステリアスだと屋敷の女性達に評判の……アレク、だったか。アイツのそういう無駄にイケメンなとこも腹が立つ。
寝てるばっかなのにやたらガタイが良いし、俺より背が少しだけ高い。
所詮、俺が不在の時の代わりなんだから、あんなとこで堂々と寝て目立つなよ。柱の影とか目立たないとこがもっと色々あるだろうに。
ま、俺のように外見だけでなく、知性にも恵まれた男というのは少ない。まったく可哀想な奴だ。
俺の華麗なる足運びにより、事が上手く運び、無事に側室の女性の薬は完成したそうだ。
毎日団長が薬を飲ませた甲斐あって、余命数ヶ月だったところを、2年ほど生きられた。だが、訃報を聞いたその後すぐ運び込まれた男が、その息子だなんて、本当に偶然か……?
レインはずっと穏やかに笑ってるが、他の感情が全く読み取れない。
団長は第二皇太子に対して、近くにいながらあまり守ってやれなかった事と、彼の母親が、結局亡くなってしまった事に責任を感じ、レインのしたいようにさせろと言っていた。
団長は薬の事についてレインに話してないようだ。下手したら恨んでいてもおかしくは無いぞ。他に行き場も無いだろうから、大事には至らないかもしれないが……野放しにするのはあまりに危険だ。
とにかく、アンとお嬢様を泣かしたら絶対に許さない。アイツが第二皇太子でも、不幸な生い立ちでも関係ない。見ず知らずの赤の他人を、人目も憚らずドレスをボロボロにして、あの華奢でか弱い女性達がたった2人で抱え、連れ帰ったんだ。
俺にできる事は、彼女達の笑顔を何としても守る。それだけだ。