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7/13

暗闇



 第二皇太子の最大の不遇は、皇帝の側室である母ニーナが亡くなってからだった。


 元から皇后から目の敵にされていた彼は、全てにおいて第一皇太子であるアルファードの上を行くことは無かった。同じ教育を受けさせてもらえず、礼儀やマナーに関しては、使用人と同じ教育内容だったからだ。それでも剣の稽古だけはまともな教師だ。……少し気を抜けば、大怪我をしてしまいそうなくらいに。


 だが、実母であるニーナは慈愛に満ち溢れていて、いつでも彼の味方でいてくれたし、乳母もメイドも優しかったので、そんなに辛くはなかった。



 ニーナは青みがかった銀髪で、病弱さが肌の白さと相まって、儚げな雰囲気を纏っていた。少し垂れ下がった大きな黄金の瞳は庇護欲を誘い、皇帝に寵愛されていた。



 ーーそれが皇后は気に食わなかった。ニーナの見舞いへ行くと言って、何度も離宮に向かう皇帝。自分の部屋なんて、皇帝から来てくれたことなど、もう何年前だろうか?そして嫌がらせをしても幸せそうに笑っているその息子。皇后である私がこんなに辛く惨めな思いをしているというのに!!


 私の息子であるアルファードは、私のおかげで第二皇太子に負ける事もなく、何もかも完璧なのに、私の話を一向に聞かない。いや、誰も私の話を聞いてくれない。少し前までは皆、私の命令に背くことなど無かったのに、あの親子を始末しろと命じても、誰もやらない。


 今では私の命令を聞くのは馬鹿みたいな忠誠心の塊の、ディーンぐらいである。

 ニーナの病気が治ればこの寂しさも無くなるのではと、涙ながらにある薬を渡した。ディーンがニーナの病気を治す薬だと思っているそれは、私が城の研究者に家族を人質にして作らせた毒薬だ。これを毎日ニーナのコーヒーに入れてくれと頼んだのだ。


「皇后様の優しさに気づかず酷な事を言う輩もおりますが、ニーナ様の為に薬まで開発なさっていたとは、感動致しました!!このディーンが必ずや!」


 うっすら涙まで浮かべている。これから彼は毎日朝晩ニーナの病気を治す為に薬を盛るのだ。数年かけて苦しみながら命を削っていく毒薬を! 笑いを堪えるのに必死だった。




 日に日に病状が悪化するニーナ。長期間かけて身体を少しずつ蝕む毒は、誰にも気づかれないままニーナは命を落とした。


 城の研究者の処分をどうするかディーンが聞いてきた。俯き肩を震わせぶるぶると笑いを堪えた。泣いていると勘違いしたのか、人払いしましょうかと言ったので、コクリと頷いた。たまには良い提案をするじゃないか。


 あの生意気な第二皇太子はどんな顔をしているだろうか?落ち着いたら見に行こう。あのへらへらした笑顔が消えて悲しみに暮れている泣き顔を見るのが楽しみだ。



 ーーーーそう思っていたのに。まだヘラヘラ笑っている。


 気に食わない。コイツも残りの毒薬で処分してしまおうか……いや、身体が健康な奴が体調を崩すのは流石に疑われる可能性がある。そうだ、剣の稽古中に死んだ事にして追い出そう。金を払えば適任者は雇えるだろう。何の苦労も知らないお坊ちゃんが貧民街で野垂れ死ぬ。あの美しい顔がボロボロに痩せこけて、母親譲りの青みがかった銀髪も霞み、路地裏で終わるのを想像したら最高の気分だ。へらへら笑いながら楽しみにしているがいいーーーーレイン!!


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