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デート


           


 私は小走りでいそいそとお父様の元へ向かった。


「お父様! お会いしたかったですわ!! 」


 お父様は一瞬目を見開き、嬉しそうに目を細めた。


「ただいまティアラ。突然の事で驚いたろう? 残念だが今日は面倒なお客様が来るのでな。早急にアンとどこかへ出かけておいで。必ずジョーかレインについてきてもらうんだ。分かったか? 」


「はいっ! レインと出かけてきます! 」


 やったー!! 本当にレインの言う通りになった!


「そうか、レインと……んん?! 男と二人きりはダメだぞ! 」


 時間が惜しい私はお父様のセリフを聞くより先にその場を去っていた。




「お待たせ!」



 朝日に照らされて、レインの銀髪が輝いている。出会った時のボロボロの状態でもわかった、端正な顔立ち。大きな美しい青紫の瞳が優しく細められ、私を見つめる。



 …………そっ、そんなに見つめられると照れますわ。


「わわわ、私の顔に何かついてる? 」


「陽の光で、光って綺麗だ。」


「あ、ありがとう。」


 おんなじ事考えてたなんて、なんだかちょっと嬉しい。でもやっぱり恥ずかしい。今、絶対私の顔、真っ赤だ。


「レインも、キラキラしてて、綺麗、よ?? 」


 ーーーー物理的な意味でもね。


「ありがとう。良い天気で良かったね。」


 ……ダメだ、耐えられそうにない。滅多に浴びれない陽射しと、あのキラキラの光も相まって、イケメンの笑顔の威力半端ない。いや、でも今日は絶対ティラミスを食べるんだから、頑張らなきゃ!! 


 それに、緊張はするけど、嫌ではない。でも、いつもは話が途切れた事なんて無いのに、何だか今日は何も思い浮かばない。話したい事は沢山あったはずなのに。


 次の話題をぐるぐる考えながら、真っ赤な顔をして歩いていると、屋敷の敷地の裏門を抜けたところで、アンと出会った。



「お嬢様! 街中ではぐれては危険です。必ずレインと、手を繋いで歩いてくださいね。後のことは私に任せてください!! クソアル…皇太子様が、お忍びとか言いながら堂々といらしてるので、今日は家庭教師も来ないです。昼前までは大丈夫かと。」


「アン! ありがとうーー!! 」


 すごい! そんなに外に居られるなんて何年ぶりだろう?? 確かに、こんな貴重な時間にはぐれるなんて絶対嫌だ。迷惑をかけてレインに嫌われたくない。


 手を繋ぐのも嫌ではない。


 嫌ではないけど、今の私、絶対に手汗がひどい。……臭い手だと思われたらどうしよう。色々考えていると、少し冷たい、白く大きな手が私の手に触れた。

 

 ーーぎゅっ。


 レインの長い指が、私の手に絡められた。こ、これって恋人繋ぎとかいうやつでは。。。?!


「行こうか。」


 平静を装っているけど、レインの顔も真っ赤だ。自分と同じだと思うと、何だか安心した。ふと、背後に圧を感じて振り返ると、アンが天を仰いで両手を合わせていた。


 ーーそうか、これが限定スチルってやつだったのか。

 


 屋敷を出て、大通りに出ると、パステルカラーのピンクや水色、色とりどりの綺麗な建物が並んでいた。小さい頃、この風景を見て、どこの国なんだろう? って、真剣に考えてたんだよね。まさかゲームの世界だったとは。


「あそこだよ。」


 ……意外! 馬車とか使わなくても良いくらい近くにあった。


 こじんまりした北欧風の白い木の壁に、黄色の屋根がついた、可愛らしいお店だ。テラス席も広くて、かすみ草のような小さな白い花や、ピンクのガーベラの花が朝日に照らされて本当に綺麗! 小鳥やリスなんかも居て、とても可愛い。人馴れしているのか、近づいても全然逃げない。


 前世でもたまに見た白いハトも、逃げないけれど、間違っても落ちているクッキーやらパンやらを狙って食べるような感じでは無い。


「いらっしゃいませ。」


 黄緑の髪をしたおさげの小柄な可愛らしい女性店員さんが来てくれた。私達は、案内された、テラスの明るい水色のソファー席へ座った。


 腰掛けると、想像していたよりフワフワで心地良い。


 ただ、思っていたより距離が近い。レインが隣に座ると、うっすらレモングラスのような、柑橘系のいい香りがした。


 緊張しないように、メニューを真剣に見つめる。


 


「どれ頼む? 」



 メニューに夢中だった私の視界に、レインが入り込んでくる。


「……ティラミスと、ミルクティーにしようかな。」


 本当は、クレープも食べたかったけど、ティアラの身体だと、そんなに食べられない。前世ではカフェ巡りに付き合ってくれる友達と沢山頼んでシェアして食べていたのに、ケーキ1つで満腹なんて、最初は信じられなかった。


 しかし、たまにある家族のお茶会なんかでオリバーに沢山持ってきてもらっても、いつも食べきれないのだ。


 分けてあげようにも、オリバーは甘い物好きじゃないし、庭師のリーフは丁度仕事が終わったらしく、たまたま通りかかったのか、全部半分こして食べてくれるとか言ってくれた時もあって。


 だけど、私の食べかけなんて、残飯処理させてるようで悪いし、お父様も


「食べきれなかったら残しなさい。庭師も仕事が終わったなら帰れ。」


 って、リーフに助け舟を出していた。


 でも残すなんて、作ってくれてるルトガー達に申し訳ない。だから最近は量をわきまえているのだ。食べ物を粗末にしたらバチが当たるのよ!


「じゃあ別の物頼むから、少し分けてよ。俺のも分けるから。」


 嬉しいーー!! そしてなんて優しいの?! 素晴らしい提案だわ!!! レインも甘い物好きだったんだ! これはもうカフェ友決定ね!!


「ありがとう!!」


 私の笑顔の圧がすごかったせいか、レインが顔を逸らしてしまった。


「……可愛すぎ。」


 声が小さくて聞き取れなかった。やっぱり手汗が気になってたのかしら? ……くっさ! とか言われてたら嫌だから、あえて聞かない事にした。



 

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