表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/13

前世の終わりと今世の始まり


             




 ーーーー神崎 美子 28歳 黒髪ロングヘアーの、身長も体重も顔も、勉強も、スポーツも、全てが平々凡々なOL。ただ、料理やお菓子作りだけは大の苦手。


 趣味はカフェ巡りと雑貨屋さん巡り。


 会社の飲み会の後、お気に入りの雑貨屋さんで買ったアロマキャンドルを炊きながらお風呂に入ったら、段々と意識が遠のいていって、目が覚めたら赤ちゃんになってふかふかのベビーベットにいた。


 これってもしかして、転生……ってやつ?!


 ティアラ、と言う名のお肌真っ白すべすべ、淡い金髪に、少し吊り上がった、エメラルドのような深い緑の大きな瞳の、とんでもない美少女だ。


 見た事のない大きなお屋敷。専属の侍女。赤ちゃんの頃から手触りの良い高そうなドレスを着せられている。


 ーーわぁああ、絶対お金持ちだ!!


 ティアラの身体は元の作りが良いのか、一度教わったら何でもすぐに覚えられるので、マナーの勉強や乗馬、ダンスの練習、何をやっても楽しい。

 前世でこんなだったら、今頃死んだ事を悔いているに違いない。今世では現在18歳だ。華奢だけど、お胸は立派に成長して下さった。


 ここはマスカルポーネと言う国らしい。隣国は、チェダー国、ブリー国…………うーん、チーズの名前でしか聞いた事ないけど。


 とりあえず周りの人達の髪の毛が普通にどピンクだったり緑だったりしているから、私の知っている世界とは違うみたい。そして、男性がやたらキラキラしていて整った顔をしている。


 というか、たまにだけど比喩的な表現ではなく、本当にキラキラした光を纏っている男性もいて、驚いた。


 最初はあの光の粒が何なのか不思議に思っていたけど、あんまり言うと頭と目の検査をされそうになったから、あのキラキラな光は何なのか、もう誰にも聞かない事にした。どうやら他の人には見えていないみたい。


 それにしても、建物の作りや街並みは昔のヨーロッパ風だけど、色んな色の家があって可愛い!お風呂もトイレも日本で使い慣れた立派なのがちゃんとあって快適。



 お父様は、この国の皇室近衛隊騎士団の団長で、ディーンという名前。情に熱く、部下からの支持も厚い。


 何の研究をしているかは分からないけど、お城で働いている研究者とか、お城の騎士なのに、なぜかいつもうちの中庭でずっと昼寝をしている人とか、なんかふわっとした設定が多いこの世界では、割とまともな方。


 また、その生真面目さから、国王からの絶対的な信頼を得ているそうで。ゆるく束ねられた艶やかな長い黒髪に切れ長な紺色の瞳。筋肉質だけど高身長だからか、長い手脚も相まって、見た目はスマートだ。


 整った容姿も含め、貴族にも平民にも愛される、もはや国民的スター! 既婚者なのに、王族主催のパーティーなんかでも積極的に声をかけるご婦人が跡を絶たない。


 私からしたら、仕事で滅多に会えないし、習い事を尋常じゃないくらい入れてくるので、やっぱり軍人なんだなぁって感じ。


 セアドラお母様は、元の身分は不明なのだけど、お父様とはお見合い結婚だったらしい。愛の無い結婚だと囁かれているが、実際にはお父様が帰ってきたら必ず顔を見せに行くし、食事も必ず一緒にとっている、仲の良い夫婦。お母様は口数が多い方じゃないから、誤解されやすいみたい。


 華奢で、真珠のような艶やかで真っ白な肌に、淑女と呼ぶにふさわしい、淑やかさをまとった仕草。ペリドットを連想させる、淡いグリーンの大きな瞳に、長いまつ毛、波打つプラチナブロンドの艶髪は、櫛通りが良くサラサラしている。その美貌は王国一だと言われるほどだ。


 お母様は私の知らない事を沢山教えてくれるし、寝る前にいつも絵本を読んでくれたり、刺繍を一緒にしたり、悩んだ時は私が納得するまで話しに付き合ってくれるから、大好き。


 そういえば、うちの屋敷をよくウロウロしている謎の騎士も光の粒を纏っているんだよね。確か、ジョーとか言ってたっけ。


 あの人、勉強漬けでほぼ引きこもりの私がしょっちゅう見かけるくらい、屋敷の至る所でウロウロしてるけど、何してるんだろう?


 今日は次の家庭教師が来るまで少し時間があるし、ちょうど良い、お母様にでも聞いてみよう。今なら執務室へ行けば会えるはずだ。


 屋敷を歩いていると、モノクル眼鏡をかけた、細身で青い髪をオールバックにした、切れ長の細い目に、黒い瞳をした、執事のオリバーが足早に寄ってきて、声をかけてきた。


「お嬢様、お時間があるようでしたら、良ければいつもの紅茶を庭園へ用意しましょうか?お嬢様のお好きなティラミスもお持ちしますよ。」


いつもは家庭教師が入れ替わりですぐ来るので、この時間は部屋でオリバーが淹れてくれる紅茶を一杯飲む。


 だが、今日は次に来る予定の先生が急に来られなくなったので、もっと時間に余裕があるのだ。常時私のスケジュールを把握しているオリバーは、この微妙な空き時間に、私がどうやって過ごすのか心配してくれているようだ。そしてティラミスは私の前世からの大好物である。うーん、さすがオリバー。出来る男だわ。


「ありがとう。じゃあ、庭園ではなくて、お母様のいらっしゃる執務室へお願い出来る?」


「………………かしこまりました。」


 ーー何、その間。気を遣ってくれたんだろうけど、庭園に行ったってアンも庭師もいない時間だし、一人でお茶を飲んだってつまらないじゃ無い。

 私のぼっちティータイムをただひたすらオリバーが側に控えて見てるだけになるのに、準備に向かった後ろ姿が何だか少し残念そうだ。



            



「ーーそう、ティアラは、王国騎士団のジョーが気になってるのね。ジョーは、ティアラの周りにはいなかったタイプよねぇ……。うーーん、彼は仲の良い女性が多いから、知り合いの女性に巡回がてら挨拶でもしてるんじゃ無いかしら。メイドに聞いた話なんだけど、街で女性と一緒にいるのをよく見かけるそうよ。」


 ーーなるほど、あれは退屈でふらふらしているとかじゃ無く、巡回だったのね。


 ティラミスを頬張りながら一人頷く。知り合いの女性……


 そういえば! 私の専属メイドのアンが、先週だっただろうか、ジョーにデートに誘われたって、キャーキャー言っていたわ! じゃあ、街で一緒にいた女性って、もしかして、アン?! 私は思わず身を乗り出した。


「知ってるわ! アンでしょ? 少し前に、デートに誘われたってはしゃいでいたわ! 」


 お母様が一瞬目を見開いて、口元に手をやった。


「あら。」


 アンは基本ポーカーフェイスだけど、細かい事によく気づくし、本当に優しい。

 息抜きにこっそり私を街に連れ出してくれたり、ある日私の部屋の窓辺によく来る小鳥を、最近見かけないな、と思って何となく外を眺めていたら


「いつもの小鳥は庭園の木々に巣を作っているようですよ。見に行かれますか? 」


 と、教えてくれたり、私の事をよく分かってくれている。たまになんで分かるの?! って時もあるくらい。

 

 ただ、いつもあまり表情が変わらないから、周りの人間から冷たいとか遠巻きに言われる事が多いの。陰口叩いてるあのメイドさん達も、少し話してみればアンの優しさがすぐに分かるのに、もったいない。


 アンに言わせれば、あの子達と仲良くする事より、毎朝私のドレスを選ぶ事の方がずーーっと重要なのだそうだ。


 この座は絶対に渡さない、といつものポーカーフェイスで、だけどその、ルビーのような真っ赤な瞳に情熱の炎を灯しながら、椅子に腰掛ける私の両肩に手を添え、熱く語ってくれた。……そ、そんなに?!


 揺れる赤茶の三つ編みと、高身長も相まって、無表情ながら迫力がある。椅子に座ったまま、上目遣いでアンを見つめ


「アンが本当にそれで良いなら強くは言わないけど……アンにはいつも助けてもらっているから、私で力になれることがあったら、遠慮なく言ってね?」


 って言ったら


「……無理、しんどい。推しの悪役令嬢が可愛すぎて無理……神様ありがとう。」


 とかなんとか、真顔のままよくわからない事をぶつぶつ言いながら、アンの耳は真っ赤になっていた。……もしかして、照れてる?? クールビューティーなアンだけど、耳を真っ赤にしながらもごもご言ってる姿は、なんだか可愛いかった。



 そのアンが!! 今までに見た事のない、満面の笑みでキャーキャー喜んでいたのだ。アンの幸せは私、全力で応援するわ! 


「…………アン? あの人アンにも声をかけてるの? 私が聞いたのは王国騎士団のキャシーよ。あと、花屋のリリーに、ジェシカ嬢と…… 」


 お母様があきれた表情でソファーにもたれかかり、ため息を吐いた。憂を帯びたお顔もお美しいーー! って


「えっ」


「……とにかく、ティアラは彼の事、好きとかそういう感情は無いのよね? 」

 

「え、ええ。だけど、アンが……」


「そうねぇ…………。」


 ーーーーそっ、そんなぁ! 嘘でしょーー!!


 母は、一見とっつきにくいツンとした女性だけれど、話しかければ親身に応じてくれるし、恋愛経験も豊富だから、こういう時はとっても頼りになるの。


 ぅうっ、認めたくないけど、私のお母様が言うなら、間違いない。アンに会ったら教えてあげなくちゃ!! でも、もしもそれでもジョーが好きって言われたらどうしよう。


「……まぁ、何かあったら相談なさい。アンなら大丈夫な気もするけれど。」


「はいっ! 」


 首が折れそうなくらい勢いよく、ブンブンと頷いた。この後の座学が全く頭に入る気がしない。とりあえず、一旦落ち着くために、オリバーが再び淹れてくれた美味しい紅茶とティラミスを堪能しておいた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ