第四話
「わがままでごめんね。なんだか寂しくなってリョウスケくんに癒されたくなって。」
泣きながらしゃべってるような声、リョウスケの胸元に顔をうずめるユキさんの香り。
何も声を出せずにいた。
喉の奥をつかえて出てこない言葉たち。そんな言葉の中から選んでいく。
リョウスケは意を決して言った。
「俺はユキさんのこと好きだよ。会いたいって言ってくれてうれしかったし、そんなわがままなら全部受け入れるよ。」
彼女は黙っている。
ユキさんがリョウスケの胸に飛び込んでから、どれだけの時間がたっただろう。
今まで女の子をこんなに近くで抱きしめることのなかったリョウスケは、そのなんと言っていいか分からない高揚感に包まれていた。この時間がずっと永遠に続いて欲しいなんてさえ神様に願った。
もし神様がいるとしたらたぶん、初めての神様へのお願いだ。
告白するとしたら今このタイミングなのだろうか。人生初の告白はこのタイミングで間違っていないだろうか。
だが、このこれ以上ない幸福の感覚がリョウスケの判断力を鈍らせる。
ねえリョウスケくん、と彼女は長い沈黙を破って言った。
「やっぱり私もリョウスケくんのこと好き。大好きだよ。だからさ。」
「付き合ってほしい。」
二人の声が重なった。
あの日、リョウスケにとって初めての恋人が出来た。
そのことはシュウにもすぐに報告して一緒に喜んでくれた。明日の晩、祝賀会を開こうといった。
祝賀会にはサキも来てくれるとのことだ。
「ねえ、リョウスケの彼女はいったいどんな子なの?写メないの?」
三人での祝賀会で最初に切り出したのはサキだった。
リョウスケはユキさんが送ってくれた自撮り写真を見せる。
「え!めちゃめちゃかわいいじゃん。こんな子リョウスケと似合わなくない?」
サキはリョウスケとスマホの画面を交互に見遣る。
俺にも見せて、と言ってシュウはサキからスマホを取った。
そしてシュウはスマホ画面を少し見つめた後に、黙ったままリョウスケにそれを返した。
ね、リョウスケなんかにはもったいないでしょ、とサキが言うもシュウは何かを考えている風で何も言わなかった。