第九話 翌朝
部活入部を決めた翌日の朝。
涼介は学校の最寄り駅に到着すると、瑠美と合流し一緒に登校する。
校門前の坂道を歩いていると、和也が後ろから「よぉ!」と自転車を立ちこぎしながら現れ、二人に追いつくと自転車から降り、二人のペースに合わせて自転車を押しながら歩く。
「おはよう二人共。涼介、自分家の印鑑を押した入部届、ちゃんと持って来たか?」
「あぁ。先輩に今日届を出すと約束をしているしな。」
入部届の話に瑠美は驚く。
「えっ、何!?二人とも何か部活入るの!?」
「実は昨日、偶然家庭科部の先輩に出会って、少し事情があって俺と和也は家庭科部に入部することに決めたんだ。」
「二人が家庭科部なんてすっごくギャップを感じるけど、どんな事情があったの?」
「それが……」
涼介は昨日の出来事を一から話す。困っていた先輩を助け、廃部を回避するために先輩が弱い体でも気を張って勧誘をしていることを。瑠美は涼介の人の好さに感心する。和也も雰囲気で入部を決めたものの、人を助けることに変わりは無かったため、和也の評価を瑠美は少し変える。
「それで、瑠美は女子バスケ部の見学に行ったんだろ?どうだった?」
よほどバスケが好きなのだろうか。涼介が女子バスケ部の話を振ると瑠美は興奮して話し始める。
「それがさぁ!文武両道を謳ってるだけあって部員数多くてレベルも結構高いのよ!設備も充実してるから、地区予選を突破してウインターカップに出場したのも頷けるわ。」
瑠美は小学校のミニバスからバスケを始めたと言っていた。ずっとバスケを続けている瑠美にとってはよほど嬉しいことなのだろう。
話し込んでいると、もう教室の側まで歩いていた。三人が教室の前扉から入ると、席に座っていた青山が「おはよう」と挨拶をしてきた。青山は出席番号が一番なため、今の座席順では右角の一番前が彼女の座席となっている。
青山の挨拶に三人は快く「おはよう」と挨拶を返し、席に着く。そして数分後、九条先生が相変わらずのゴスロリ衣装をまとって教室に入って来た。
「よし、全員登校しているな?ではホームルームを始める。」
朝から先生はキリッとした態度をとっている。生徒数が多いため、それに比例して教師の数もそれなりに多いが、その中でも九条先生が体格差気にさせない程一番威厳のある教師である。
「この入学の一週間は、ほぼ消化週間に等しい。今日も一応授業はあるが、昨日に無かった授業がある。つまりはまたオリエンテーションということだ。そして明日は体力テスト、その次の日は模試がある。」
オリエンテーションということで、楽な授業に生徒は一瞬安堵するが、最後の模試という言葉にクラスの生徒は落胆する。和也だけ「えぇ~!」と声を出したため、名指しで九条先生に「黙れ」と言われ、その怖さに和也は委縮し、余計に落胆する。
「模試と言っても、高校受験レベルの模試だ。焦って何かを準備する必要はない。入試で測りきれなかった範囲を模試で確認するということだ。」
白雲高校は瑠美が先ほど言っていたように文武両道。学習面でも抜かりの無いことがここの校風である。
こうして一週間の残りの予定を九条先生がホームルームで話し終えると、切りが良く予鈴が鳴り、先生は教室から立ち去って行った。