第六話 昼休みー後編ー
瑠美と同じ位の髪の長さ、しかし瑠美とは違って髪先を両端で結んでいるため可愛らしい印象を放つその女生徒は、声に緊張を乗せながら涼介たちに話しかけてきた。
「ええ、いいわよ。そんな過度に緊張せずともいいのに。」
少女の申し出に瑠美が答え、瑠美の言葉に涼介もコクンと頷く。
「その、私昔から初対面の人と話すのが苦手で、変に緊張しちゃうんだ。あっ、申し遅れちゃってごめんなさい!私、青山 光といいます!」
「アタシは福原瑠美。で、こっちが……」
「矢野涼介だ。よろしく、青山さん。」
瑠美が涼介の分まで紹介しようとしたため、涼介は自分から名乗らないのは失礼だと感じたのだろうか、割って自分から挨拶をする。
「よろしく、福原さん、矢野君。」
二人の自己紹介に青山は笑顔で答える。
青山の言葉に何か問題があったのだろうか。瑠美は少し気まずそうな顔をしながら青山に提案する。
「ねぇ、お互い名前で呼び合わない?男の子はともかく、女の子からも名字呼びじゃあ、何だか変に距離感じちゃうから。」
確かに男子では名字、名前関係なく呼び捨て合って話すが、女子はそうはせず、下の名前かあだ名で呼び合うことが多い。男子と女子で友人への距離の感じ方は少し違うものがあるのだろう。
「そうだね瑠美ちゃん。私もその方がいい!」
瑠美の提案に青山は快諾する。
「じゃあこれからよろしくねヒカリ。」
三人が自己紹介を終えたところで青山は椅子に座る。
机が三つくっつけてあることに疑問を持った青山が二人に質問する。
「ねぇ、他にもう一人誰かお友達がいるの?」
青山が涼介たちに訪ねて来たのは、和也が購買へ昼食を買いに出かけたのと入れ違いになっていた。そのため、青山はまだ和也の存在を知らない。
青山の質問に、今度は涼介が答える。
「ああ。山本和也って言う、俺の一つ後ろの席に座ってる奴がいるんだ。今は昼食を買いに購買へ行っている。」
「あっ、昨日いきなり九条先生に怒られてた人?悪い人じゃないと思うんだけど、少しデリカシーに欠けてそうな人だよね。」
やはり入学の日にいきなり担任を怒らせるのは目立つようで、和也はもうクラス全員には覚えられているのだろう。青山が顔を引きつって話す様子から、和也のイメージは残念系になってしまったのかもしれない。
「欠けてそうじゃなくて欠けてるのよ、それも群を抜いてね。」
青山の言葉にすぐさま瑠美が反応する。その悪態ぶりに青山は涼介に質問する。
「二人は、仲が悪いの?」
「いや、仲が悪いというか、性格の不一致かもしれんな。」
二人の様子をまだ一日しか見ていない涼介でも、その一日の中で何度もいざこざを見せつけられると、二人の相性が悪そうなのを悟ってしまうようだ。
「あんなヤツとは、未来永劫気が合う気なんてしないわ。ほっといてもうご飯食べちゃわない?」
瑠美がそう提案した瞬間、和也が少し息を切らして戻ってきた。
「気が合わないってのはこっちのセリフだ。それよりも、俺を差し置いて昼食をとろうとすんなよ!」
「っていうかアンタ帰ってくるの早すぎない?三人だけで昼食とれなかったじゃない!」
「だから運動は何でもできるんだよ!走るくらい訳ねぇよ!」
瑠美とここでまた軽い言い合いになるが、青山の存在に気づき、和也が涼介に尋ねる。
「ん?涼介、この人は?」
「同じクラスの青山さんだ。一緒に昼食をとろうと来てくれたんだ。」
涼介が軽く青山の自己紹介をすると、和也と青山は改まって二人で自己紹介し合う。こうして四人が揃ったところで彼らは昼食をとり始める。
***
昼食時の会話。和也が話題を持ち出す。
「そう言えばさ、購買に行ったついでに軽く見たんだが、部活勧誘えげつなかったぜ。何かの祭りと勘違いする位大騒ぎでよぉ。」
購買は涼介たちの教室がある一棟の一階に位置する。つまり教室の真下である。そして購買は中庭と隣接しているため、和也は勧誘の様子を見ざるを得なかったのである。
「ヒカリは何か部活入る予定あるの?ちなみにアタシはバスケ部で、涼介君たちは特に予定は無いらしいよ。」
部活動の話題に瑠美が反応し、自分たちの予定を話しつつ青山へ話を振る。
「私はサッカー部のマネージャーをやろうと思ってるんだ。中学でもそうだったから。」
「マネージャーかー。確かに、ヒカリって可愛いからマネージャー似合ってるわね。」
煽てではなく瑠美はヒカリの容姿を褒める。
「そんな、私なんて瑠美ちゃんやクラスのみんなに比べたら地味な方だよ!」
瑠美の誉め言葉に青山は頬を赤くしながら自らを蔑む。
だが青山の言うことも分かる。瑠美は少しボーイッシュな面があるものの、黙っていなければ男受けのいい顔立ちをしている。
青山が謙遜するのを涼介と和也は軽く笑う。
そしてちょうどよく区切りがついたところで昼休み終了の予鈴が鳴る。
涼介たちは机と椅子を元の位置に戻し、四人は各自の席へ着く。