第四十七話 答案返却
試験は月曜から木曜にかけて行われた。
試験終了日の木曜日、涼介の所属する家庭科部は活動日なのだが、試験があったその日まで部活動は休みにすると神野先輩が言っていたため涼介は木曜、午後で帰宅したのである。
次の日の金曜日。テストの返却が始まった。
試験は終わったばかりというのに解答用紙が各教科の時間で返却されていく。
番号順に名前を呼ばれ生徒たちが受け取りに行く。
涼介は自分の解答用紙を受け取る際、どの教師からも「すごいな」「頑張ったな」と声を掛けられた。一人の教師を除いては。その教師は古典の授業を担当している。
「ほぉ~。どういう風の吹き回しだ?どうどうとこんな分かりやすい点数を取るとは?」
九条先生は涼介が解答用紙をとりに来た際質問する。
「少し厄介事に巻き込まれていまして。」
「ふーん。次の期末からは、お前用の対策問題を設けねばならんな。」
そう言って先生は涼介に答案を渡す。
全ての答案を返し終わってから先生がクラス全体に向けて話始める。
「古典の時間を借りてホームルームで言い忘れたことを話すぞ。お前らの成績は順位も含め、別に学校全体に公表されたりはしない。が、各自の得点表を後で作って渡す。そこには順位だけじゃなく学年の平均点や最高及び最低点まで記載されている。自分の現状を把握するためにも活用しろ。」
白雲高校では生徒の成績順位は公表されない。模試の時もそうであった。全ての教科の答案を返却し終えた後、その成績をまとめ、順位や点数のグラフが記載されているプリントが各自に配られる。
故に誰が学年一位だとかはその人が自ら言わない限り分からない。
「採点ミスの報告は授業終了時に受け付ける。では授業を始める。」
九条先生は授業を始めた。その内容のほとんどは今回の試験の解説であった。他の教科も同じであった。
休み時間になる度涼介は瑠美や和也から点数を聞かれるが、適当に理由を作っては点数を教えなかった。
今日の授業はほとんどテスト返却で終わった。放課後になったが、今日は藤堂は涼介の前に現れてこなかった。まだテストは全て返却されておらず、土日を挟んで月曜からまたテスト返却があるからだろうか。
土曜日の夕方。涼介はいつも通り早起きして道場に通ったため、夕方もランニングしながら帰宅している。その道中。
「矢野君」
ある女性が声を掛ける。
「黒羽会長……」
女性の正体が分かると涼介は被っていたフードを取る。
「前にこの時間にここで君が走っていると知って、それから時々見かけるようになったんだ。」
「そうだったんですか。今日は話しかけたと言うことは、俺に何か用があるんですね。」
「ええ。」
会長が涼介を坂になっている草地へ座るよう誘う。前回と合わせて二回目である。
涼介が自分の横に座ったのを確認して会長は話を始める。
「矢野君。藤堂君と中間試験の勝負をしているって本当?」
「知ってたんですか。」
「藤堂君から直接聞いたの。」
藤堂との会話を思い出しながら会長は涼介に話す。
『会長!』
廊下を歩いていると後ろから声をかけられる。
『あら、藤堂君。何か用?』
『俺、今度の中間テストでアイツ、矢野涼介と勝負します!』
『え!?』
『俺が勝ったら生徒会に入ると彼は認めました。必ず勝って、会長に迷惑かけたことを詫びさせてみせます!では!』
『待って藤堂君!』
『必ず勝ちますから!』
会長の「待って」という声は藤堂には届かず、彼は走り去ってしまった。
『無理よ藤堂君……。あなたは知らない。彼は、矢野君は……』
『完全無欠なのだから』
「止めようと思ったんだけど、ごめんなさいね。」
「構いませんよ。会長も大変ですね。」
「確かに藤堂君は優秀な子なんだけど、時々空回りしちゃうのが玉に瑕ね」
会長は苦笑いしながら藤堂の弱点を話す。
そして再び少し申し訳ない顔をしながら話し始める。
「それで、テストはどうだった?」
「全ての結果が分かり次第、報告します。俺より先に藤堂が会長に報告するかもしれませんが……」
「そっか。これって、楽しみに……していいのかしら?」
「というと?」
「あなたが高得点で藤堂君を負かしてやるのと、逆に負けてしまったらあなたは生徒会へ入ること、どちらも楽しみなの。」
「そうですか。どっちの結果でも会長にとって興味があるのでしたら、楽しみにしていただいてもいいと思いますが。」
「うん。でもね、断っているのに強制的に生徒会に入ることになったら私は嬉しくもあるし、一方であなたに申し訳なくも感じるの。」
「だとすると……会長に申し訳なさを感じさせず、一興を感じていただける結果にすればいいのですね?」
「あら。そんな答え一つしかないけど、あなたにできるのかしら?」
「頑張りますよ。といってももうテストは受け終わってしまいましたけど。」
「ふふっ。私もあなたには愚問な質問だったかしら」
最初は申し訳ない顔をしていた会長も、会話の最後には笑顔に変わっていた。
「それじゃあ、帰りましょうか」
会長はスッと音もなく立ち上がる。
「はい。」
涼介も立ち上がり、再びフードを被る。
「それでは、失礼します。」
涼介は会釈をし、振り返って走り始めようとする。その時。
「ねえ矢野君!」
「はい?」
会長がもう一度声を掛ける。
「また、あなたとお話ししていいかしら?あなたといると少し楽しいわ」
「少し、ですか?」
涼介は優しく微笑みながら会長をからかう。
黒羽会長は顔を赤くして答える。
「ちっ、違うわ!とっ……とても楽しいわ!」
緊張した会長を涼介は笑うことなく、真摯に答える。
「わかりました。俺で良ければいつでも話相手になりますよ」
会長の顔は赤くなったままだが緊張していた顔が笑顔に変わる。
「ありがとう……!それじゃあ、またね」
会長はバイバイと右手を揺らす。
爽やかな風が吹き、会長がポニーテールにして束ねていた長い銀髪がなびく。夕日に照らされきらきらと光っている。「またね」という言葉とともに現れる可愛らしい笑顔。誰が見てもこう思うだろう。
(綺麗だな……)
涼介も本心からそう感じた。
「はい。失礼します」
涼介は走って帰宅し、今日のトレーニングは終了した。




